リジュンへの凱旋
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さて、冥府の番人を撃退したユーリアたち一行はリジュンで熱烈な歓迎を受けた。
「「うぉおおおおお!!」」
「いやー、すごい歓声だねぇ。若干暑苦しいくらいに・・・。」
ユーリアが若干引きながら感想を漏らす。
篭城した戦力によってかなり性別が偏った体育会系のノリに特化した歓声を聞きながら街門を潜ると、リジュンの領主をはじめ、実質的な要塞防衛指揮官となっていたカンプや神官長などリジュンの名士たちが一堂に会して待ちうけていた。
そこからは、リジュンの備蓄を放出した戦捷祝賀会が催され、避難民までを巻き込んだどんちゃん騒ぎへと発展した。
そんな祝宴のなか、町の広場に某第三帝国そっくりの戦車兵用の戦闘服に身を包んだテルトの声が響く。
「そのとき! リジュンの防壁が巨人のバルディッシュによって砕かれるのが私たちの戦車から見えた。 もはや一刻の猶予もない! 車長である私はすばやくフルーに榴弾の装填を指示すると『フォイアー!』の号令と共に榴弾を撃ち出す!」
「おぉー!」
「よっ! 魔道戦車、まってましたっ!」
「テルト車長!名采配っ!」
傍らに置かれた籠にこれでもかとてんこ盛りにされた甘味を片手に、もきゅもきゅと咀嚼しながら熱のこもった口調で自らの『白金の愛虎』の活躍ぶりを語るテルトにとりこ囲む聴衆からどよめきや、やんややんやの歓声が飛ぶ。
「うーん、やっぱテルトちゃんはこの手のことになると生き生きするなぁー。」
そういいながらはちきれそうな腹をさするフルー、戦闘服のベルトがきつそうである・・・。
祝いのためならと惜しげもなく潰された家畜をこちらも惜しげもなく胃袋に収め、満足げな表情である。
「うん、まぁ楽しそうで何よりだよ。」
「でもさぁ、いいのかね? ぺらぺら魔道戦車について話しちゃっても。一応秘密兵器的な感じじゃないの、これ?」
「あー、車長いわく、『魔道戦車があること自体はいまさら隠しようがないから問題ない。技術的な分に関しては雰囲気でしか喋ってないから大丈夫』だって。フルーや俺が考えることくらい、テルトはちゃんと考えてるよ。」
「あぁー、そういわれてみりゃそうだなー。」
そう壇上横でのんきに会話を交わす二人。
町の名士たちには領主の館で真っ先に報告を済ませていたが、民衆が活躍を聞きたがっているとカンプから告げられたテルトは快くその申し出を快諾し、町の広場で民衆を集め、風魔法によって筒状の紙を拡声器のように使いながら広場に設けられた特設の壇上で熱弁を振るう。
二日目ともなるとテルトの話は完全にテンプレ化しており、前世でいうなら講談師、この世界で言うなら吟遊詩人もかくやというような滑らかな語り口である。
この世界はネットもなければ、識字率も低いため、書物を娯楽で読むという習慣を持つ人など特権階級のごく一部である。
そのため三人の戦車の話題は格好のエンターテイメントとしてリジュンで圧倒的な人気を誇り、酒場や料理屋のほうが広場へ出張し、商魂逞しい店主たちによる即席の屋台が乱立するというお祭りのような事態にまで発展していた。
「では、ここで諸君に魔道戦車の雄姿をお見せしよう! 総員乗車!」
「「ヤヴォール!!」」
一通り魔道戦車の活躍を語り終え、テルトがユーリアとフルーに号令をかけると二人は小走りで魔道戦車に向けて駆ける。
この出番があるから、二人は壇上の脇でぼけーっと立っているのである。
「おっ出番だ。なーんか、未だに気恥ずかしいな。」
「うぷっ、走ると出そう・・・。」
「・・・お前、車内で粗相するなよ? 絶対に!」
言い合いながら二人は戦車に乗り込む。
こうして毎回の公演は、最後は広間に停車した魔道戦車のデモ走行と、砲塔を中空に向けてからの空砲発射という前世の○衛隊の広報活動のようなサービスっぷりを披露して大歓声のうちに幕を閉じるのが常であった。
そして三日目、
「あ、あのそろそろ明日の出立の準備・・・。」
「もう一度! もう一度だけっ!」
「食料や必要な物資は商人ギルドが責任を持って手配しますからご心配なく! さぁさぁ!」
「あ、う~。・・・、はい。」
ユーリアたちは娯楽の少ないこの世界の人々のエンターテイメントに対する貪欲さをなめていた。
さすがに飽きてきたテルトを筆頭に、ユーリアもフルーもげんなりしていたが大人や子供、貴賎に関係なく、キラキラと輝く目でテルトの『公演』をせがむリジュンの人々に押し切られるように、結局三日目の夜まで(日没を言い訳に「店じまい」しようとするテルト達のために大量の松明や、照明魔法の「善意」が寄せられたため)テルト達の『戦捷公演』は日が完全に没してからも続けられたのだった・・・。
そして翌日、昨日までの宴の喧騒が嘘のような朝をリジュンは迎えていた。
人々は朝早く起き出し、避難民たちは物資や寝床を提供してくれた領主の役人たちや聖竜教会の人々に礼を言いつつ、わずかな荷物を携えて自分の故郷に戻っていく。
宴の三日間の間、竜炎騎士団が巡回した結果村全体が焼き払われた人々などは故郷の方角ではなく、行商人たちと同じく、王都アルドラに向けて街道を進んでいく者も多い。
この世界の人々のメンタリティと、もともとリジュン周辺の村は開拓村が多いせいかそれほど人々の表情に悲壮感はなかった。
寧ろ家族全員が無事であったことを喜び、前を向いて歩みを進めるものも多かった。
王都までの道行きはフルーの「野球仲間」であるカンプにが自ら、竜炎騎士団と、同じく王都へ帰還する傭兵団達とともに護衛を請け負ってくれることを申し出てくれたおかげで魔道戦車はその本来の快速を生かして速やかに王都に帰還する予定であった。
そんな人々の大半にとって命があること、そして当面の安全が保障されていることだけでもこの世界の人々にとっては喜ぶべき幸運なのだ。
彼らの反対側の防壁では、すでに行き場のない難民の一部を人夫として雇い入れた領主の音頭によって崩れた防壁の撤去と再建が始まっていた。
前世で言うなら公共事業による失業対策に近いそれは荒廃した近隣の村々の人々の雇用を生み出しているわけだ。
広場にはもはや人々の姿はせわしなく目的地へ向かう人々の通り過ぎる姿以外はない。
公演を聴いたままの流れで大宴会に突入した人々も、まるで何事もなかったかのようにそれぞれの日常へ戻っているようだった。
「タフだよねぇ、メンタルが・・・。」
「全く、前世とはちがうわぁ・・・。」
彼らの長く続く列を入ったときとは反対の防壁の上から見送りながら、フルーとユーリアは呟く。
明日、明後日の話どころではなく、ワイドショーや一部のコメンテーターが何と煽ろうとも、五年先も、十年先も戦争など夢想だに出来なかった前世に暮らしていたユーリアたちにとって、この世界の人々のメンタリティのタフさはちょっとした驚きだ。
「ユーリア、フルー、待たせたな。 最終点検も終わったぞ。魔道エンジンは動作良好、履帯も損傷なし、全て問題なしだ。 われわれも出発しよう。」
そんな感慨にふけっていた二人の後姿に声がかかる。
「おー、テルトか。」
振り帰るとそこには微笑を浮かべたテルトが立っていた。
彼女もまた、人々の逞しさに感心すると同時に、そんな王国民を救えたことに対する誇らしさと、充足感を感じているようだった。
「よぉーし!テルトちゃん、出発しますか!いいことした後は気持ちいいねぇ~。」
「フルぅ~。車長と呼べ、車長と。」
「「ヤヴォール!」」
こうして、ユーリアたちは整備を終え、物資の積み込みの完了した魔道戦車に再び乗車し、今回の依頼主であるマクスへ復命するべく一路王都へと帰還する。
「では出発だ! 戦車前進っ!」
領主を代表とする名士をはじめ、仕事の手を止めて駆けつけた大勢の市民に見送られながら、テルトの溌剌とした号令と共に、轟音を響かせて魔道戦車はその姿も勇ましく王都へ向けて帰路についたのであった。
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