帝国軍本隊(中編)
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彼は帝国の死霊系魔術の第一人者であるコデールその人だった。
帝国の死霊魔術の権威であり、今回ウブンに引き渡した冥府の番人を召喚する魔道具、『贄の焔』の制作者であり、輜重部隊を構成するための死霊系造物の管理責任者でもあった。
軽量な鎧を身に着けたその身体は抜けるように白い。
まだ50の半ばを過ぎたところだが頭髪も色素が無く、太陽の光に弱い皮膚を晒さぬよう、顔からすっぽりとローブを被っていた。
かれは先天性白皮症であった。
ユーリア達ならそう理解しただろうが、この世界で彼はその肌の色ゆえに怪物扱いされ、そのこと彼に死霊系魔術に興味を抱かせる一因となり、今日に至っている。
彼は興奮の為かその白すぎる頬をわずかに紅潮させている。
「見てください! 我らの魔道具によって召喚された冥府の番人の力を! 圧倒的ではありませんか!」
コデールの差し出した手には持ちやすいように握りの付いた大きな黒い水晶が握られており、彼の色素の薄いペールブルーの瞳はその中に映り込んだ映像に向けられていた。
キャリバーに言っている、というよりは興奮を隠しきれずに吐露している、そんな様子だ。
「なるほど、確かにこれがコデールのいう冥府の番人か。確かに圧倒的な力だな、コデールが入れ込むのも理解できる。」
興奮するコデールにつられるようにキャリバーも水晶を覗き込む。
魔道具に紐づけられた存在、コデールが弟子たちを共に創造した魔道具によって召喚された冥府の番人を俯瞰するような視界がそこには映っている。
巨人はゆっくりとだが着実にリジュンへと侵攻していく。
防壁上から矢が巨人に驟雨のように降り注ぎ、投石器から発射された石弾が、その身に叩き付けられる。
だがそれらの攻撃の一切が、巨人に有効な打撃を与えたようには見えなかった。
唯一神聖魔法の攻撃によりまばゆい光が投射された瞬間、コデールも、キャリバーも自身が攻撃を受けたように僅かに身を固くする。
「これは!? 神聖属性魔法か!」
警戒の色を滲ませるキャリバーに対してコデールは勝ち誇ったような力強い声を上げた。
「ご心配には及びませんキャリバー様! 竜聖光如きの攻撃など冥府の番人にとっては子犬に噛みつかれたようなものです! 聖属性の上位魔法ですら対抗は難しいでしょう!」
そのコデールの確信に満ちた言葉通り、神聖属性の強烈な光は徐々に弱まり、巨人は何事もなかったかのように長大なバルディッシュを振り上げていた。
そして遂に恐慌に陥る城兵達を前に、バルディッシュの一撃がリジュンの防壁の一部を砕いた瞬間、コデールは興奮の呻きを漏らしていた。
「おぉ、ご覧になりましたか閣下?! この素晴らしき力を!」
「あぁ、キャリバー、見事だ。 これほどとは、な。・・・リジュンが陥落するのも時間の問題かな?」
「えぇ、間違いなくそうなるでしょう! ご安心ください。」
やや考えるような間があったあと、問いかけたキャリバーに水晶を持っていなければ拳を握っているであろう勢いでコデールは即答する。
「・・・あぁ、期待させてもらおう・・・。」
コデールは自身の『作品』が成功を収めつつあるのに興奮し、満足している様子だったが、対照的に表面上は鷹揚に頷くキャリバーの胸中は複雑だった。
(私は一体何に『期待』しているというのだろうか・・・)
キャリバーは自問自答する。
だが決して彼自身失敗を前提に今回の作戦を立案したわけではない。
少なくとも王国の南東の要衝であるリジュンを陥れる十分な勝算があった。
だが一方でリジュンを陥落させてしまえばそのままガリアの王都、アルドラまで進撃を続けざるを得ない。
その段階で王都にとどまっている戦力は多正面から軍事的な圧力をかけたことによって極小化されているはずだが、それでも王都には有力な竜炎騎士団がおり、周辺諸国でも随一の魔法学院や帝国に比肩する傭兵ギルドが存在する。
(しかし大半が各方面への派兵と警戒の為に雇い入れられているはず。そうなると対抗属性の事を考えても他厄介なのは魔術師の戦力と言う事になるか・・・。)
傭兵ギルドに関してはまとまった戦力が未だ王都にあるとは思えないが、魔法学院の擁する高位の魔術師は大きな脅威になり得る。
魔術師の脅威を置くとしてもリジュンとは比べ物にならない堅固な城に籠城されればこの巨人を以てしても苦戦は免れないだろう。
仮に王都への戦火や臣民の王国と国王に対する威信の低下を恐れて野戦に打って出てくるとしても、勝てる保証はない。
だからこそ、ウブンによるリジュン攻略に失敗が確定した時点でいつでもウブンを切り捨てることが出来るよう、敢えて餞として死霊戦車を貸し与えたのだ。
切り札である『贄の焔』も『迷宮から発見された魔道具』と偽ってウブンに渡し、いつでも切り捨てられる手筈だけは整えている。
(いずれにせよ、リジュンから先は不確定な要素が多すぎる。そしてそのような投機的な作戦にかまけている場合ではないはずなのだが・・・。)
コデールに対しては職務を黙々と遂行し、確実な成果を示した者に対して期待と信頼を現したかのような表情を取り繕っていはいるが、内心は複雑だ。
むしろリジュン以降の戦闘で、必ず帝国が戦略的に敗北する
(あとは期待できるのは、あの3人だけか・・・。シーンには戯言として語ったが、アレは案外私の本音だったのかもしれないな・・・。彼らが現れるという保証はどこにもないというのに、困ったものだ。)
もはや崩壊間近のリジュンに興味を失っているのか、無意識にリジュン後の戦略について思索に耽っていたキャリバーの横でコデールが驚愕の声を上げた。
「なんだ?! 今の攻撃は!?」
「なに?」
その声に素早く反応したキャリバーが再び水晶を覗き込む。すると大きな土煙が上がり、巨人は大きく体制を崩していた。
バルディッシュで体重を支える事でようやく転倒を免れていたが、その足元の地面は大きく掘り崩され、破壊力の大きな攻撃があったことは明らかだった。
「爆裂系の呪文!? いやそれにしては威力が・・・。」
「防壁からの攻撃か?」
「考えられなくもないのですが、この威力であれば上位の爆裂系呪文であるはずです。しかし、今までそのような呪文の使い手はいなかったはず・・・。それに攻撃の呪文の飛来した角度が・・・」
キャリバーの問いかけに他属性の魔法に対する造詣も深いコデールは困惑を声に乗せて考えている中、気水晶の中の魔人が唐突に防壁に背を向けて歩きだす。
「なっ?! どこへ・・・」
そう言いかけた二人の視界に見えてきたのは、キャリバーが今まで見たこともない、奇怪な鉄の箱だった。
「あれは!?」
驚きに声を詰まらせるコデールとは対照的にキャリバーはその正体を半ば看破していた。
「おそらく、魔導具の一種だろう。 いや、ここまでのモノになるともはや魔導兵器、と呼ぶべきだろうが。恐らく先ほどの攻撃もあの魔導兵器によるものと見ていいだろう。」
「魔道兵器ですと? ・・・なるほど・・・であれば・・・。」
『納得がいく』と言おうとしてむしろキャリバーは困惑の度合いを深める。
「いや、しかし、あれだけの巨大な金属製の物体をあの速度で動かすなどと言う事が可能なのか・・・? それに・・・あの筒状の部分が投石器だというのか? 一体どのようにして・・・。」
「見当もつかぬな。しかしユーリア君、遅かったじゃないか。さて、コデール、彼らのお手並み拝見というこう。」
「!? 閣下! あの魔導兵器を操る者を御存じなのですか?」
「あぁ、一方的な知己、と言うべきか。 それとも、重要な観察対象とでもいうべきか。」
キャリバーは怪訝な顔をするコデールにも構わず、静かにそういって微笑を浮かべた。
そして二人は事の成り行きを見極めるべく、水晶を注視する。
***************
二人が水晶の中に映る光景に見入ってから僅かな時間が流れた。
紐づけされた存在を現世から失い、水晶が光りを失なって元の黒さに戻る。
だが、二人は時間が引き伸ばされたような疲労感を感じていた。
見るべき風景が掻き消えても、キャリバーとコデールはしばらく動くことが出来ない。
いや、声さえまともに出すことが出来なかった。
「・・・何なのだ・・・あれは・・・。」
「・・・わ、わかりません・・・。」
やっと絞り出すように言ったキャリバーの顔は、青白い幽鬼のように成り果てたコデールとは対照的に驚きを通り越して笑顔だった。
もちろんその笑顔は歪み、暑くもない陽気であるのにその頬には汗が伝っていたが・・・。
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