死の巨人対魔道戦車(後編)
昨日はまさかの二話同日投稿で貴重な貯金を食いつぶすという、ポンコツぶりを発揮してしまいました・・・。Ach, du lieber Gott!
ウブンの軍勢を退けた今、巨人に対して攻撃を開始すべく、テルトの号令が飛ぶ、
「榴弾装填! 目標、『巨大ゴーレム』!」
「・・・」
しかしフルーの返事は聞こえない。
「フルーどうした?! 榴弾装填だ!」
「・・・テルトちゃん。 あの、どう見てもアイツの体の表面を覆ってるのって、ほ、ほ、骨、だよね? それにあの顔・・・。」
命令に応える代わりに、獣人の口から弱々しいトーンの問いが発せられる。
「うむ、バレてしまっては仕方ないな。やはり距離が近いと設定に無理があるか・・・。まぁ、なんというか・・・ドンマイだ。」
「みとめたぁああ! うわぁあああああ、やっぱり死霊系のモンスター!! お化けやったんやぁああああ!!」
フルーは前世からの苦手だったらしく、骸骨やアンデッドなど、死霊系モンスターへの精神防御力がゼロどころか大幅なマイナスへ触れてしまっている。
そんな半狂乱で叫び出したフルーの耳に冷たく、凄みのある声がヘッドセッド越しに響く。
「ぐずぐず言うな・・・さっさと装填しないと、貴様をケツごと蹴り上げて、風魔法であの巨人へ射出するぞ?」
(あ、鬼軍曹モードになった。)
「ヒェッ・・・。」
ユーリアはテルトのスイッチが入ったことを確信し、フルーは小さく怯えの声を漏らす。
恐怖で混乱に陥りかけたフルーの精神はより大きな恐怖によって沈静化され、素早く榴弾が装填される。
「装填かんりょぉお!」
「よし、ヘタレ獣人上出来だ!・・・Feuer!」
フルーの絶叫混じりの報告を満足気に聞き、テルトが発射の号令を下す。
【カッ!!】
火焔が砲口から吹き上がり、次の瞬間には素晴らしい弾速で冥府の番人の胸部に着弾する。
マッシュルーム状に火焔が膨張し、鎧のように全身を覆っていた外殻が吹き飛ぶ様は魔道戦車のスリット越しの視界に見て取れた。
バラバラになった様々な生き物の白骨を象った外殻が辺りに飛散して、外殻の下にある屍肉の部分が露わになる。
その表面は裂傷が出来、赤黒く焼け焦げていた。
「グボォアアアァァ!!」
怒りに震える絶叫を上げた巨人はバルディッシュを振りかぶる、その長い刃の部分に禍々しい光が宿るのをテルトは視認した。
「ユーリア、ブレーキ! 停止ののち全速後退! 遠距離攻撃と推定!」
「了解!」
次の瞬間車体は大きく軋んで停車し、急速後退する。
それは巨人がバルディッシュを振り下ろしたのとほぼ同時だった。
「ドガアアッ!!」
バルディッシュから撃ちだされた刃の形をした光弾が少し先の地面を大きく抉る。
「偏差射撃をしてくるとは、生意気な奴だ。」
テルトは我知らず不敵な笑みを漏らす。
そう、着弾した辺りはあのまま前進を続けた場合の戦車の未来到達位置に違いなかった。
魔道戦車の正面装甲は自身と同程度の火力にも耐えることが出来る物理的な防御力を持たせてある。
更にミスリル合金であることで、魔法攻撃に対する強度もある装甲なら今の程度の光弾であれば弾くことは出来るかもしれないが、未知の攻撃にリスクは犯せない。
それに何より、自分の愛車が凹んだり傷ついたりする光景にテルトは耐えられそうもなかった。
であれば戦いは速戦即決!
「榴弾装填! ケリをつけるぞ! 外殻が弾けて露出した上半身を狙え!・・・Feuer! 」
【カッ!】
狙いは過たず、フルーの放った砲弾は巨人の上半身を正確に捕らえる。
だが火焔は何かに阻まれるように横に拡散し、巨人も倒れる様子はない。
外殻が吹き飛んだ今、それよりも防御力に劣ると思われる屍肉の半身は文字通り粉砕されるはずだった。
「?! 新たな外殻か!」
着弾の煙が風で流れたあとには無傷の冥府の番人が立っていた。
鈍い硬質な光を放つ黒い骨の外殻が新たに全身を覆った姿で。
そして、バルディッシュを横薙ぎに振り抜く姿がスリット越しに見える。
「各員スリット閉鎖!衝撃に備えろ!!く・・」
直後、テルトが言い終えるよりも前に、車体を震わせる衝撃と、固いものが擦り付けられるような耳障りな響きが車内に響く。
【ギャリギャリギャリッツ!!】
だが、テルトの見立て通りマグヌス工房謹製のミスリル合金の装甲坂は完全に攻撃を防ぎ切ったようだ。
「んぁあああぁぁぁ!!効いてないぃ~! もうダメだぁ~~!!」
しかし、全くダメージが通っていないにもかかわらず、悲痛な叫びを大げさに上げるフルー。
だがその同じ回線に、低い凄みのある呻き声のような声が響き、フルーはふと我に返り耳をそばだてた。
「おのれ、よくも、よくも・・・たな。」
「・・・ん?」
「・・・へ?」
「よくも私のティーガーを傷つけたなァアアアア! この死霊モンスター風情ガァアア!!」
「許さん、許さんぞォオオオオ!」
「「ひぃいいいいいっつ!!」」
フルーの狂乱を上書きする、テルトの激情が車内に響き渡った。
そしてもはや敵意を超え、殲滅の決意を宿した指令がフルーの耳朶を震わせる。
「後悔させてやる! 特殊徹甲弾装填!」
「そ、装填完了!」
(クソッ・・・。できればこれは使いたくなかった・・・。)
だが、テルトの片隅に未だ残る冷静な思考がテルトにそう呟やかせる。
しかしそれは最終兵器的な、「出し惜しみ」の意味でもなく、ましてや死霊系モンスターにまで範囲を広げるような歪な博愛主義の精神に根差すものでもなかった。
(タングステンの弾芯があればなぁ・・・。)
この世界の徹甲弾は一つだけ致命的な欠点があった。
思い出してほしい、この世界でテルトが作った徹甲弾の弾芯の素材を。
そう、『アダマンタイト』である。
そしてそれはタングステンなどのをレアメタルと呼ぶのも憚られるような希少素材なのだ。
結果、魔道戦車に搭載した徹甲弾は一発で騎士の着るフルプレート並みの値段がする。
因みにこれは原材料費と、加工賃のみの良心的値段で、マグヌスさん曰く『ワシの儲けは一切ない』金額設定だそうだ・・・。
これは流石に金に糸目をつけないテルトとは言え、撃つのをためらってしまう金額である。
(前世の超巨大戦艦の砲弾は一発で家が一軒建つほどの値段だったらしいが、彼らも今の自分と同じようにやはり撃つのをためらったのだろうか・・・。)
そんな愚にもつない考えを打ち払って、テルトは覚悟を決めた。
「ええいっ! ままよ! 大盤振る舞いだ! フルー外すな! コレ一発でユーリアの年収より高いぞ!」
「ヒエッ・・・。」
漏れた呻き声は二人のうちどちらだっただろうか。
そして半ば開き直ったようなテルトの勇ましい号令が響く、
「いっくぞぉ、貫けっ!!Feuer!」
【カッ!!】
三度巨人に向けられた砲口から高速の弾体が飛翔し、巨人の胸部を貫く。
榴弾とは違い、アダマンタイトの弾芯はあっさりと巨人の外殻を貫通すると、その運動エネルギーで外殻や内部の死肉をジェット噴射のように霧状に後部へ噴射しながら胸部に巨大な破孔を作って背面へと抜けていった。
冥府の番人は信じられないとでもいうのだろうか、その空虚な瞳で自らの体を貫いた先の魔導戦車を見つめ、ノロノロと自分の胸に手をあてる。
そして自らの存在の終焉を確認するかのように自らの手で破孔を確認すると、ゆっくりと地響きを上げながら、地面に仰向けに伏したのだった。
「あぁ~! 助かったぁー! テルトちゃんさっすが! 信じてた!」
「・・・よくいうよオマエ・・・。 やったなテルト!」
テルトは抜かりなく次弾装填を指示しておいてから、巨人が倒れるまで注意深くその様子を防弾水晶越しに注視し続けていたが、巨人が倒れると同時に待ちきれないようにハッチを開放して飛び出すと、バルディッシュからの攻撃が当たったと思しき場所へ駆け寄ると奇声を発した。
「うきゃあぁああああああ!! ティーガーの側面装甲に傷がぁあああああ!!」
「「・・・。」」
そして哀しみの涙を流しながら車体に頬ずりしつつ、愛虎に告げるのだった。
「あぁ、ティーガーよ! 仇は討ったぞ!」
((カスリ傷の報復にしては過剰すぎやしませんかね・・・。))
などと無粋な、いや無謀なことを言う命知らずは誰もおらず、愛する魔道戦車への謝罪を終えたテルトはコマンダーズキューポラに収まる。
念のため炎魔法で冥府の番人の死体を焼却すると、3人はひとまず本来の目標であったリジュンへと向かうのであった。
『あ、そう言えば二正面作戦をしてたんだった。』
と今さらながら思い出したテルトが双眼鏡で遠目で眺めるウブンの騎兵ある程度予想は出来たことだが、幸いにももはやこちらは完全に戦意を喪失していた。
それでも族長と副官を中心に、残った馬を掻き集め装備を殆どなげうって味方を拾い上げながら退いてゆく様はまだ規律を維持しているように見えたのがテルトには印象的だった。
だが、最早追撃の必要はないだろう、テルトはそう判断を下す。
「凱旋だ! ユーリア、フルーもハッチを開けろ! 堂々と進め!」
「いやー、当然戦勝祝いの御馳走ですよねー?」
「いやいや、籠城戦のあとなんだからあまり期待するなよ?」
「分かってるよ!腹八分目にしとくって・・・。」
「オマエの八分目って全然安心できないわ・・・。」
「「「・・・ウォオオオオオオオオ!!!・・・」」」
「おぉー!もりあがってますなぁ~。」
いつものようにのほほんと会話をしながらリジュンを目指す3人の耳に、リジュンの防壁の上から雄たけびとも怒号ともつかない歓声が巻き起り、風に乗って響いてきていた。
こうして帝国の本格侵攻の先兵となるウブンの軍勢は魔道戦車の活躍により、崩壊する。
そしてリジュン方面の攻勢が頓挫したことによって、潮が引くように西方3ヶ国の軍勢も、北の国境沿いの帝国軍も撤収を開始し一触即発の緊張状態は回避されることなる。
こうして、死期を悟った皇帝の執念によって引き起こされた無謀な外征の企ては、『群狼』の期待通りその傷口を広げることなく、未発に終わったのであった。
お読みくださりありがとうございます。
戦闘シーン、難しいですね。(><;)
これからも応援よろしくお願いいたします。




