死の巨人対魔道戦車(中編)
「フルー、榴弾砲装填準備!」
「ヤボール!」
コマンダーズキューポラからテルトは指示を飛ばす。
それに合わせてフルーが10kgを軽く超える砲弾を難なく装填すると、重々しいモーターの音を響かせて砲塔が旋回を始める。
「よし、照準下に3度修正。」
「えっ、でも・・・。」
「早くしろっ!」
「りょ、了解!」
ぴったりと合わせたはずの照準に修正を求められ、いぶかしげな声をフルーは上げるが、テルトの切迫した声色に押され即座に修正を加える。
ほんの少し砲身が下を向いたその直後、テルトの号令がヘッドセット越しに響いた。
「Feuer!(フォイァ)」
【カッ!!】
砲口から火焔が吹き上がり、砲弾内部に充填された爆裂系のスクロールと、風魔法によって刻まれた『魔導的ライフリング』によって十分な加速を得た砲弾は一瞬にして着弾し、巨人の足元に着弾した。
紅蓮の炎が上がり冥府の番人の足元で土砂がえぐられ、土煙が立ち込める。
それが収まると、バルディッシュを杖に転倒を免れた無傷の巨人がゆっくりとこちら向き直るのが見えた。
「ちょっと! テルトちゃんはずれたよ?!」
フルーはてっきりテルトの照準が間違っていたのかと焦るが車長のテルトからは至極冷静な声がヘッドセットから聞こえてくる。
「『外れた』んじゃない、外したんだ! 目標がリジュンに接近しすぎている、今のは牽制の一撃だ。 注意がこちらへ向けば良い。 あの場所で攻撃を加えたらリジュンも射線上に入ってしまう!」
「ほへー、なるほどねぇ。」
ノンキに感心するフルーを置いて、状況は刻々と変化する。
テルトの狙い通り、巨人はこちらを発見、より脅威度の高い敵だと認識したらしく真っすぐこちらへ向かってくる。
その様子を確認するとテルトは新たな指示を飛ばす。
「よし、このまま巨人をリジュンとの射線上から引き剥がす! ユーリア、このままリジュンの前に出るように南東方面へ前進だ。」
「了解!」
【グォオオオオオンッ!!】
一瞬の静寂から一転、魔道エンジンの唸るような響きが響き戦車が前進を始める。
リジュンからじわじわと離れるように誘導しながらリジュンの前方、南東向きに突出していく。
その動きに呼応してウブンの騎兵たちも動き出していた。
巨人との距離を取りながら前進した結果。ウブンの軍勢には戦車の方から接近していく形になり、あっという間に両者の距離は縮まってゆく。
彼らの主武器である短弓を構え、急速にこちらへ接近してくるのが見える。
彼らからすれば戦車は巨人を無視して自分たちの軍勢へ側面から攻撃を仕掛けようとしているように見えるのだろう。
そして騎上から戦車に向かって大量の弓が射掛けられる、一人半身を露出したテルトに向けて。
馬上からのテルトの想像すら超える正確な射撃は、しかし一本もその体を傷つけることは出来ない。
矢除けの魔法を発動したテルトの周囲に風の乱流が巻き起こり、殆どの矢はあらぬ方向へと流れてゆく。
幾本かは風の強化魔法が施されているのか、そのまま直進してくるがテルトに到達する直前、突如として激しく炎を上げ燃え上ると炭化して落ちていった。
「ヴァイリー、ありがとう。」
【ウフフ♪ ヴァイリー偉い? 偉い?】
優しげな笑みを浮かべてテルトの頭上を護る炎の精霊に感謝を伝えると、テルトは先にウブンの騎兵に対処すべくフルーに指示を出す。
初撃をすべて無効化された騎馬兵たちは動揺したようだったが、族長らしき若い騎馬兵と、その副官と思しき老齢の騎兵の指揮によってすぐに立ち直り、今度は槍による突撃体制へと移行しつつあった。
(槍か・・・。 無駄なんだけどな・・・。)
テルトは胸中でため息をつく。
正直いくら数が多くとも、ティーガーの装甲を貫徹するだけの打撃力を持たない前世のポーランド騎兵にも遥かに火力で劣るウブンの軽騎兵は魔道戦車にとって全く脅威になりえない。
なので戦略上は無視しても構わないのであるが、ウブンの軍勢の方は戦う気満々でこちらへ接近してくる。
このままでいくと無謀な攻撃を仕掛けてきた騎兵を戦車で人馬ごとミンチにしてしまう可能性があるので
、寝覚めの悪いスプラッタな事態を避けるべくテルトは指示を飛ばす。
さらに加速して引き離す方法もあるが、それだと巨人は追従を諦めるかもしれないので本末転倒となってしまうのでそう言うわけにもいかない。
(圧倒的な戦力を保持していようとも多方面からの攻撃に対する対処と言うのはやはり大変だな・・・。)
などとこっそりぼやきつつ、フルーは車長として指示を出した。
「フルー、対人用の『アレ』を使う。目標、敵騎馬集団直上!」
「了解!」
「今回は精度は問わない、行進間射撃で行く。操縦手は進路そのまま前進!」
「了解!」
その声に瞬時に反応してフルーが砲弾を装填する、砲塔が旋回し砲が空に突き上げるように空を指向する。
「スリット閉鎖! 風魔法で防音の壁を作るが、念のため各自ヘッドセットをしっかり耳にあてろ!」
その言葉と同時に素早く風の魔法による防壁を展開すると、テルトも素早く車長席のハッチをに体を潜り込ませ号令する。
「Feuer!」
【カッ!】
再び発火焔とともに、砲弾が発射され、
【グゥワワワッ!!】
すさまじい閃光と音響がこだまし、ゲラントに数倍する規模で閃光と爆音が周囲にまき散らされる。
風魔法による音の壁を形成していても、その衝撃波が地面から伝わり、ビリビリと車体を震わせるのが感じられた。
それは自治領で使用したスタングレネードの拡大強化版で、広範囲の敵を無力化するための対人兵器としてティーガーに搭載されている砲弾だった。
(効果があってよかった、付きまとわれても厄介だからな。)
勿論この世界の流儀では(ここまでのレベルだと前世でも、だが)、他国の領土に侵入し、略奪行為を働いている時点でウブンの騎兵は榴弾砲で木っ端微塵にされようが、履帯でミンチにされようが全く文句は言えない立場である。
だが許されるからと言ってユーリアやフルーはもちろん、テルト自身も自ら進んで血を浴びたいとは思わない。
転生したからと言って、いや前世でも珍しかった長期の平和が続く国に生まれ育ったからこそ、今さらリアルPKのルールに馴染めない3人の、いわばそれは妥協の産物だった。
「各自スリット解放。 巨人との距離を保て!」
再びハッチを開放し、外部の状況を確認したテルトの視界には大混乱に陥ったウブンの兵士たちの姿があった。
恐らく直下にいたのであろう人馬は気絶したのか多くが倒れ伏し、気絶しているのかその多くはぐったりとして動かない。
外縁部にいて意識を刈り取られるまでには至らなかった者達の方がむしろ混乱を極めていた。
瞬時に平衡感覚を奪われた兵士は狂乱した馬を御することが出来ず、次々と落馬していく。
騎乗する人間を振り落した馬も、狂乱したはずみで足を折るなどして何割かは使い物にならなくなり、無事な馬も縦横に走りだし、ウブンの兵士たちを踏みつけるなど新たな混乱が生じ始めている。
これでウブンの兵士たちはほぼ無力化されたと言っていい、テルトはそう判断を下すと再び意識を巨人の方へと集中する。
巨人の方は既にリジュンからかなり離れ、戦車のあとを追うように南東へ釣り出されていた。
再び上半身をのぞかせたコマンダーズキューポラの上でその位置関係を確認すると、テルトは咽頭マイクでユフルーに新たな指示を出した。
「榴弾装填! 目標、『巨大ゴーレム』!」
いよいよ魔道戦車の砲口が死の巨人へ向けられようとしていた。
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