驚愕の事実!?魔力袋な自分。
お付き合いいただきありがとうございます。
これにて序章終了です。
いよいよ審査官になってからのユーリアの「日常」(?)となります。
椅子から立ち上がり、口を開いて大声を上げかけた息子を制すジュトス。
「まー落ち着いて聞け。あの日のあと、バーレナの婆さんが俺を訪ねてきたことがあったろう?その時に言われたんだ。
『最初に試した水晶は、魔術の適性を見るものなどじゃあない。魔力の量を見定めるものじゃ。
あれは例えていうなら、井戸に小石を落とすような具合に人の器の中にある魔力の深さを教えるんじゃよ。水晶に込められた魔力が、その者の魔力へと沈んでいき、底に行き当たったところで水晶は元の透明な色に変わる。
人間も魂を持つ以上、大なり小なり魔力は皆が持ち合わせておる。常人ならば、瞬時に元の水晶に戻るのが道理なのじゃよ。』
ってな。だがお前は違ったらしい。あの時、いくら待っても変化しなかった、そうだよな?」
「え、ええ・・・。」
「それがどうやら魔力の尋常でない量を示してるらしいぜ、
『お前さんの息子はいくら待っても透明にはならなんだ。私かい、そうさねぇ、お前の息子の半分、いや、そのまた半分も持つまいよ。これでも魔力はかなり多いほうじゃと思っとったんだがねぇ。ヒェッ、ヒェッ、ヒェッ。』
・・・ってなわけだ。そのときはおれもまんまと騙されたよ、ばぁさんの演技力にな。」
そうバーレナ老の口調を交えながら語る。
「じゃ、じゃあそのあとの魔道具は?っ!実は僕は魔法が使えるとか?」
息まいて尋ねる息子に父はだが静かに首を横に振った。
「いや、残念ながら話はそう都合よくはころがらねぇ。バァさんは二つ目の道具は本物だって言ってたんだよ。
『二つ目の魔道具、あれの効果は嘘をついちゃあいない。アンタの息子に自力で魔術を使うことは出来ないよ。
幾ら無尽蔵に近い魔力がその身に宿っていたとしても、それをこの世の業として表す道が体に通っていないのさ・・・。神様もなかなかひねくれてことをなさるねぇ。』
・・・皮肉な話だと俺も思ったよ全く。」
そう言いながらため息ををつく父にユーリアは少しすねたように聞いた。
「・・・そうですか・・・。でもそれなら何で今まで隠していたんですか?どうせ魔法が使えないのに。」
がっかりしたような安心したような、そんなモヤモヤした気持ちがユーリアの表情にも表れている。
ジュトスはそんな息子の気持ちが手に取るように分かったが、あえて突き放すように言った。そう、肝心なのはここからなのだ。
「そうヤケになるんじゃねぇよ、、多分ばぁさんが俺に一番伝えたかったのはそこだ。よく聞いとけよ?
『本人の体に魔法を使う道が通っていないとしても、魔法を使うことが不可能なわけじゃあない。例えば、さっきの水晶のように、外側から魔道具なりでアンタの息子の中に宿る魔力に働きかける力があれば・・・。恐らくその道具を使って魔術を使うことは出来るだろうねぇ。
考えてごらん、今の舞い上がっているアンタの息子に聞かせたらどうなる?きっと意地でも魔法を使えるようになりたいと、魔道具を求めるはずさ。勿論そんなものがそこらの田舎に転がっているはずもない。
最後には何らかの形で王都の魔術師ギルドなりに辿り着くことになるだろうよ。
・・・だけどねぇ、その時王都の魔術師どもが無尽蔵の生きた魔力袋を目の前にして、アンタの息子をみすみす放っておくと思うかえ?一生戦争や錬成の道具として飼い殺されるか、それとも魔術の探求と称して生贄にされるかのどちらかじゃろうねぇ。ヒヒヒヒ。』
・・・って言われちまったよ。残念ながら俺もその通りだと思った。それから随分色々と迷ったが、今日まで言わずにいた。
いや! 正直な、情けねぇ話だが、言うか言わねぇかの決心もついさっきまでつかずにいたってわけさ・・・。」
そういいながら残りの葡萄酒を一気にあおり、カップのそこを眺めながらづ続ける。
「だが、これから先王都へ行くともなりゃあ、何かのきっかけで自分の中の魔力の存在に気付くことがあるかもしれねぇ。して、最悪のパターンはお前が気付かないうちに悪意を持った相手にそれがバレちまう。って場合だ。
だから、今お前に言っておくことにしたよ。・・・やれやれ、やっと言えたわ!すっきりしたぜー!!」
そう叫ぶように言うと、大きく伸びをし、ジュトスは新たな酒を木の杯に満たしていく。
あの日以来ずっと誰にも言えない、自分の心に秘めた秘密だったのだ。
こうしてユーリア本人に打ち明けたことで、肩の荷が下りたのだろう。
どこかホッとしたような穏やかな表情を父は浮かべていた。
ユーリアは暫く無言で考えるように木のカップを見つめていたが、ぽつりとこういった。
「ぼくは、幸せ者ですね。」
それを聞いて居心地悪そうに頭を掻くジュトスの様子を父さんらしいと微笑みながら、ユーリアは続ける、
「多分あの場でそのことを告げられてたら、僕はバーレナさんが心配した通りの結果になっていたと思います。あの時の僕の厨n、いや、舞い上がった気持ちを粉々に打ち砕いてくれたからこそ、今僕は堅実な審査官の道を歩んでいるんですから。」
前世の用語が出そうになり慌てて言いなおしたが感謝の気持ちは伝わったようだ。
「う~ん、普通はなぁ、平民の俺たちにとって審査官が夢でも十分無茶なんだがなぁ。まぁ、お前の志は『最強の勇者になる!』だったから、それに比べりゃ堅実か。カカカ!」
黒歴史を掘り返す父に少しだけ顔を引きつらせながらユーリアは答える。
「いやぁ・・・、それを言われると結構今でも胸に刺さるものがあるんで、勘弁してくださいお父さん。」
「まぁ、まぁ、若気の至り、って奴だな。たまにやけに大人びた夢のないことを言ったりするところはいまだに俺には理解できねーが。・・・一時は本当に人が変わったんじゃないかと心配したんだぜ?」
「は、ははは、やだなぁ、お父さん酷いですよぉ。」
(言えない・・・、前世の記憶持ちの転生者です!なんて、いえるはずがない・・・。これはそっと黒歴史と共に、僕の心の中の引き出しにひっそりとしまってこう・・・。)
乾いた笑いを浮かべるしかない息子を尻目に、戸棚を開けるとジュトスは生成の素朴な布に包まれた重量感のありそうな包みをゴトリと置いた。
「ついでだ、今のうちに渡しておく。明日の見送りの時、村のみんなの前で勿体つけるのも恥ずかしいしな。」
そう言いながら包みをユーリアのほうへ押しやる。
「?父さん、コレは?」
「餞別代りだ。持って行けよ」
丁寧に包みを開くと、そこにはショートソードと、ナイフが一振りずつ、シンプルだが実用的な鞘に収まっていた。
ユーリアは目を見開いてまずショートソードをゆっくりと鞘から引き抜いていく、その拵えの良さを示すように鞘走りの音も微かに、刀身が現れた。
刀身は鋼のように見えるが、控えめながら何かの文様がやや幅広の刀身に刻まれている。
それは磨かれた鋼の照り返しではなく、微かに白銀に輝いているように見えた。
それを見て興奮気味にユーリアは言う。
「こっ!これは!父さんっ!!ま、まさか伝説のオリハルコンっ?!」
「オリハルコンっ?!じゃねぇ!んなわけあってたまるかぁ!ちげぇーよっ!!鋼だ鋼!」
「じょ、冗談ですよ、ハハハ・・・。」
息子のどこか懐かしさすら感じさせるぶっ飛んだ発言に律儀に椅子からずり落ちて見せながらジュトスはあきれ顔でいう。
「お前なぁ・・・。ま~でも、父さん頑張ったんだぞ。多くはねぇが、ミスリルを混ぜて鍛えてある。切れ味は保証するし、バ-レナのバァさんに頼んで刀身に古代文字を刻んでもらった。」
「バーレナさん・・・。」
「あぁ、あのばーさんより腕の立つ魔法使いは王都でもそうはいねぇ。
その刻まれた魔力がミスリル自体の持つ魔力と合わさるってわけだ。
特効とまではいわねぇ。が、剣が効きにくい死霊系のモンスターや、精霊系の厄介な奴にもそこそこ効果があるだろうさ。
そっちの短剣も同じだ。まぁ、王都勤めだし職業柄そうそうそんな物騒な奴らに出会わねぇとは思うけどな。」
フラグを立てるようなジュトスの言葉も今は純粋に有難かった。
「とうさん・・・。本当にありがとうございます。何から何まで・・・。」
「あぁ、頑張れよ!勇者様。」
笑いながら、ジュトスは椅子から立ち上がり、抱えるようにユーリアの肩を抱くと小さい頃そうしたようにくしゃくしゃと髪をかき回すのだった。
「うぇー、マジでその呼び名は勘弁してください、お願いします・・・。」
「へへへっ! ま―今夜くらい我慢しろや。」
「勘弁してぇ~!」
その父の愛情に心から感謝しながらも本気で嫌がるユーリアであった。
なんだかんだ言いつつ、オーバースペックな剣を用意してやるあたり、ジュトスも親バカであった。
・・・次の日の朝、改めて村の皆に見送られながら、王都へ向かう乗合馬車へと乗り込むユーリア。
そして審査官を養成する半年余りの期間を経て、無事王都の審査官に任官したのであった。
それから1年ほどの歳月が流れ、補佐官としてフルーと、テルトといういささか風変わりな部下を従えた彼は、思わぬ「日常」に遭遇するのだが、それはまた後のお話・・・。
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