幕間-魔道戦車の機密(後編)
ユーリアのなかで、ようやく魔道戦車のエネルギーと過去に明かされた自分の残念スペックが結び付いた。
『使えない』能力過ぎてすっかり忘れていた、自分が『魔力袋』ともいうべき無尽蔵の魔力をたたえた器だという特異体質持ちだという事実と。
そして思い出す、なぜ企画会議の時、魔道戦車の仕様を嬉々と語っていたマグヌスさんの話が動力へと移ったときにテルトがあんなタイミングで口を差し挟んだのかも。
(けどさぁ、いきなり僕の魔力で『戦車うごかしてます』ってなんなんだよぉ~~!!)
無尽蔵ともいわれる魔力量と言われながら、全くその恩恵を受けうることなく人生を歩んできて、気が付けば戦車の操縦士兼燃料タンク要員になっていた。
ちょっと訳が分からない・・・。
「・・・テルトちゃん、きいてないよぉー。」
ジト目のユーリアと目が合わせられないらしく、拳を握り、目を瞑って謝罪を繰り返すテルト。
「言ったら怒られると思って・・・、すまないっ!」
長い混乱ののち、やっと絞り出したユーリアの弱々しすぎる抗議の声に、テルトはただただ申し訳そうに謝罪するのであった。
「ほへぇ~!たまげたなぁ。・・・おっ! 流れ星!」
「「・・・。」」
一方完全外野の獣人は、『たまげた』とかいうどう考えても口先だけの言葉とは裏腹に、いち早く平常運転に戻っていた。というか、理解の範疇を超えた話が続くので興味を失っていた。
フルーの様子をユーリアとテルトは互いに何とも言えない表情で眺め、顔を見合わせるとお互いに肩をすくめて苦笑する。
本人は全く意識していないだろうが、フルーのテンションはいい意味で肩透かしを食らわせてくれたことにお互い感謝しながら。
「う~ん、まぁびっくりはしたけど、別にそんな怒ってないから。 まぁ取り敢えずさ、どういう仕組みなのか改めてきかせてくれる?」
ユーリアが水を向けるとテルトは明らかにほっとした様子だ。
愛する戦車の為なら手段を択ばないマッドなエルフだが、一応良心の呵責はあったようである。
・・・戦車に対する愛の方が勝り暴走していたようだが。
「そう言いってくれて気が楽になった。・・・よし、最初から説明しよう、まず・・・」
「えぇ~?まだつづくの~?」
「「大事な話なんだから、静かにしなさいっ!」」
「はぁ~い・・・。」
と言うわけでフルーの自由人っぷりに毒気を抜かれた二人は、和やかに就寝の時刻まで魔道戦車の『燃料』について話をした。
と言うか、ユーリアが一方的にテルトの解説を受ける。
「ぐぅ・・・。すぴぃー。」
フルーといえば早々に理解することを諦めたらしく、五分としないうちにツェルトバーンにくるまり寝息を立て始めたのはある意味潔い。
さて、お茶をおかわりしつつ話したテルトの解説によると、戦車への魔力の供給システムは前世の携帯の充電スタンドのような感じであるということだった。
・・・スタンドとバッテリー部分の関係性が逆だが。
車内で操縦主席や、無線手の席などにユーリアが着座していると自然に接触部分が接点となり、魔道エンジンへ魔力が流入していくというなかなか便利な仕組みらしい。
なので魔道エンジンをはじめとする社内のシステムは基本的にユーリアが車内にいるうちは(機械的な部分などが損耗したりしない限りは)半永久的に稼働し続けることが出来る疑似的(ユーリアに人としての寿命があるという意味で)な『永久機関』らしい。
ただユーリアが車内にいない場合はもちろん、何らかの理由で意識を失った場合も魔力の供給はストップするらしい。
テルトはマグスヌスさんとその点について検討を重ね、危機管理の一種として魔石によって魔力を蓄積させる『魔導バッテリー』も一応内蔵しているのだという。
平常運転の際はその魔道バッテリ―へも魔力が供給され、万一ユーリアからの魔力の供給がストップした場合は魔道バッテリーの非常電源にシフトする仕組みなのだそうだ。
けれどゲラントの出張の際に用いた魔導クーラーボックスが定期的な冷気魔法の再充填を必要とする不完全な代物だったように、『物体に魔力を蓄える』と言うのはこの世界でまだまだ未完成な技術らしく、せいぜい『魔道バッテリー』に蓄えたエネルギーで魔道戦車が稼働できるのは10分程度。
しかもテルト曰くバッテリー駆動の間は、いわゆる『省エネモード』でしか動けないらしく、
「『マウス』なみに動きが鈍重になり、かなり性能は低下する。」
とのことだった。
(『マウス』って名前なのに鈍重になるんだな・・・。)
などと本来なら『マムート(マンモス)』と名付けられるはずだった第三帝国の超重戦車についての知識を持たないユーリアはそのたとえの意味がいまいちしっくりきていないようだったが。
まぁ、それは置いておくとして、話を聞けば聞くほど、まぁなんと見事に、自分が、それはもうガッツリ、ガッチリと魔道戦車のシステムの一部に組み込まれていることは十分に彼にも理解できた。
どう考えても魔道戦車のシステム自体ユーリアと言う無尽蔵の魔力供給源存在を前提として企画されている。
(これ仮に企画段階で聞いてたとしても絶対逃げられないヤツや・・・。)
もちろんユーリアも『自由意思』とか、『本人の了承』とか、そう言う部分に関して若干、いやそれなりに思うところのないでもない。
だが、そんな事を言ったところでこのエルフとドワーフが納得するはずがなく、結局同じ結末になっただろうと思うことにして、ユーリアは自分を納得させることにした。
事実、テルトとマグヌスさんは前世と同様の内燃機関から、より低燃費の魔力エンジンの開発まで様々な形式を検討したのだが、考えうる中で最良の選択肢が『魔力をバカ食いする魔道エンジン』と、『無尽蔵の魔力量をもつユーリア』の組み合わせだったらしいのでまぁ、間違ってはいない。
テルト曰く、
『魔道エンジンを低出力で妥協すれば『チハタン』並みの戦車しか作れない。「観賞用のアイドル」ならともかく、そんな鉄の棺桶を作る気にはなれなかった・・・。』
とのことである。
良心的なのか、野心的なのかユーリアには判断がつきかねたが。
この数年と言うもの、
『人生はままならない』
その言葉の生きた見本のような日々を送ってきたユーリアは、自分や知人の身に危険が降りかかるようなこと以外なら大抵のことは、
『う~ん。 まぁ、仕方ないか。』
と受け止められる強さを手に入れていた。
人生に翻弄されすぎて、精神衛生を保つための安全装置が作動するようになった、とも言えるが。
「・・・とまぁ、そう言うわけなのだ。 今まで隠していて済まない。」
いつの間にか思索にふけっていたらしく、気が付くと説明を終えたテルトが真摯な姿勢でユーリアに頭を下げていた。
「ん? いや、まぁ、さっきも言ったけどさ、最初はびっくりしたけど別に気にしてないよ。 別に魔力を吸われすぎて干からびちゃう、とかじゃないしね。」
そう苦笑しながらいうユーリアにテルトはきりりとした表情で胸を張る。
「それは安心してくれ!マグヌスさんの工房での説明を受けたときに座っていた椅子で極秘裏に臨床試験は終了しているからな。 徐々に供給出力を上げて安全性にも配慮しているからな! 大丈夫だ、問題ない!」
「うん、その・・・大丈夫な根拠が大丈夫じゃない、っていうか。いや、ありがとうと言うべきなのかな?・・・もうなんだかよくわかんなくなってきたわ。」
「? そうか?」
『いつの間にか被臨床者にされていた本人へ、その本人で勝手にとった『臨床データ』を根拠に誇らしげに太鼓判を押す。』
というなかなかなアレなシチュエーションにユーリアの思考は混乱した、そしてそれ以上考えないことにする。
「まぁ、なにはともあれ。 リジュンに到着する前に知っててよかったよ。 何かのタイミングでいきなり戦車が動かなくなったりしたら困るからね。」
「そうだな、私も肩の荷が下りてホッとしたよ。 これからもよろしく頼む。」
そう言って再び軽く頭を下げるテルトにユーリアは鷹揚に手を上げる。
流石にそろそろ眠気を覚える時間だ。
慣れてきたとはいえ、昼間の運転の疲れもあり欠伸をかみ殺す。
「ふぁ・・・。じゃあ~そろそろ寝るか。」
「そうだな・・・ん?」
その時ノンレム睡眠に入ったらしい獣人の悩ましげな声が聞こえてきた。
「いやぁ~わりぃ・・・。もーくえねぇって・・・。あ、キャベツおかわりぃ・・・。」
「うーん、この獣人のなんと幸せな事か。」
「ふふ、同感だな。」
二人は顔を見合わせ苦笑する。
早くも夢の中で『トンカツ』を堪能しながら幸せそうなしまりのない顔で涎をたらす獣人の幸せそうな寝顔を見ながら、二人もそれぞれの夢を見るべく床に就く。
明日のリジュン行きにそれぞれ思いを巡らせながら。




