魔道戦車、街道をゆく
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【ゴォオオオオッ・・・】
土煙を上げ、魔道戦車は整備された街道を進む。
既に王都を出発して数時間、民家はまばらになり、周りには牧歌的な風景が広がっている。
砲塔の上部、コマンダーズキューポラから上半身覗かせ、双眼鏡で辺りを窺っているのは戦車長であるテルトだ。
服装は某第三帝国戦車兵の服装を彷彿とさせる。
だが一応自粛したつもりだろうか、略帽の頂点部分は『アレ』ではなく、ガリア竜王国の紋章が刺繍されていた。
この軍装一式を作るだけでも実は一苦労だった。
幾ら口で説明しても埒があかないので、テルト自身の前世の記憶を頼りに、アニメの設定資料のように様々な角度と部分部分の細かいデザインをアップで書いたデザイン画を持ち込み、目を白黒させている職人にああでもないこうでもないとさんざん指図して作り上げたテルト自慢の一品である。
待ち望んだ戦車に夢みた軍装に身を包みルンルン気分で乗っているエルフがいる一方、車内にいるユーリアとフルーは渋々同じ軍装に身を包んでいた。
テルトが二人に黙ってちゃっかり3人分の軍装を仕立て屋には発注していたものだ。
「「コスプレだけは勘弁して・・・。」」
と最初二人は当然抵抗していたが、戦車の中で行動するにはこの世界の服装は邪魔になりすぎる。
本当はツナギなど作業服でもいいのだろうが、そこはテルトの趣味が多分に発揮されているのは仕方のないところだ。
しかしいざ袖を通してみると、男心を擽られたのかユーリアもテルトもまんざらでもない様子で、今は『コスプレ』を楽しんでいた。
「まぁ、コスプレじゃなくて、本当に戦車兵なんだけどな、私たちは。くふふっ!」
そうニヤニヤしながら呟くが、テルトの周りにその呟きを耳にする人の姿はない。
普段はリタからの隊商や、旅人で通行量の多いこの街道も国境付近がウブンに侵されているという噂が広まっている今通行する者は近隣の住民くらいである。
人々はテルト達のティーガーが近づくいてくるのを視認した途端、例外なく慌てふためき、転がるように路肩へ道を譲った。
「うーん。威圧するつもりはまったくないのだけど。・・・戸惑うのも無理はないか。」
双眼鏡を下ろし、快走する戦車の速度によって生じた心地よい風を楽しみながら、背伸びをする。
因みに双眼鏡は形こそ第二次大戦中のモノらしく作ってあるが、レンズを左右それぞれに二枚嵌め込んだだけの一番原始的なガリレオ式だ。
しかしこれですら中々に『お高い』代物、この世界の技術では両方の4枚のレンズの見え方を均一になるように研磨するというだけでも大変な事なのだ。
マグヌスさんの工房のように職人芸で突出したモノを作る技術を持つ者もいるが、基本的には魔法技術にくらべてこの世界の科学技術の進歩は緩やかなのだから。
ガリレオ式でさえこうなのだから、プリズム式という、第三帝国時代の性能に追いつくのには数年単位で時間がかかりそうである。
「心地よい風だな・・・」
目をつむり、頬に当たる冷たい風を感じる。
風魔法を使い、気流の流れをコントロールしているので、土煙に悩まされるとはない。
自慢の軍服も汚れることはない、汚れるものオツなものだと思わないでもないが。
ともあれ、乗馬の知識の無いテルトがこれほどの速さを体感するのは本当に久しぶりだった。
テルト行く先々で人々とすれ違った時の光景を思いだす。
人々に浮かぶ、驚愕や、不安や、戸惑い、そしていくらかの好奇の目。
色々な感情がないまぜになった視線を人々は例外なくこの魔道戦車に向けてきていた。
一応、騎兵や、馬車の慣例に則って、車体前面とアンテナ部分に王国の紋章と、アシュールの家名と共にナスネル家から下賜された三ツ矢の紋章を掲げているので味方なのだと認識されているだろうと願いたい。
だが馬車や軍隊に会ったのならともかく、『戦車』というこの世界の常識とは何一つマッチしない浮きまくった物体に人々が混乱するもの無理はない。
この世界の人々の感覚からすれば、牽引する馬も無く、見るからに重そうな巨大な箱型の物体が自分で地面を這うように、しかも馬の駆け足ほどの速度で進んでくるのは自分の正気を疑いたくなる光景に違いないのだから。
馬は駆け足で何時間も走り続けることは出来ないが、ティーガーは魔道エンジンのおかげで、何時間でも走行することが出来る。
更には、それ以上のスピードで戦車を操縦する事も可能だ。
マグヌスさんに言わせればそれは、
「精鋭の騎兵たちが一瞬だけ出すことの出来る速さとほぼ同じくらい。」
であるらしい。
いかにウブンの戦力が軽装の騎兵とはいえ、鎧に身を包んだ屈強の男たちを乗せている以上、騎馬兵の『襲歩』はごく短時間しか維持できない。
この世界の馬の馬体は、戦前の日本や、中世ヨーロッパに比べてもかなり大きい。
だがそれでもサラブレッドほどは速くはないはずだ。
テルト達の乗るティーガーはそれよりもはるかに長い時間最高速度を維持できるだろう。
この世界には速度の指標はないが、おおよそ前世のオリジナルに近い時速40㎞は発揮できると考えてよい。
エンジン出力の低さを軽量化で補っているが、車体重量が軽い事は不整地を進む場合や足回りの負担を考えると有利に働くとテルトは見ていた。
(これは大きなアドバンテージになるな。 しかし、ティーガーの『速度』が強みになるとは前世では考えもしなかった事態だな・・・。)
自分の生きた世界では鈍足の範疇に入る戦車がまさかの『快速』を武器にする日がやってきたと思うと思わず苦笑してしまう。
一人でそんな妄想をしていると、ヘッドセットにフルーの声が響いてきた。
「なぁ、テルトちゃん。 そろそろヒックスさんが持たせてくれたお弁当でお昼にしない? ちょっとユーリアも疲れてるみたいだし。」
彼は装填主だが、今は仕事がないので操縦手の右隣、この世界では必要性もなく、人員いないため欠員になっている無線手のスペースに座っている。
そこは本来装備するはずの機材もなく、比較手的広くスペースが取られているので早くも背丈のあるフルーの定位置となっていた。
「はは、まだ大丈夫だけどな。 ちょっと怠いだけだから。」
同じ魔道ヘッドセットの回線で、ユーリアはそう答えるが、確かに心なしか声に元気が無いようにも感じる。
(『アレ』の影響ではないだろうが・・・。)
昨日の訓練からこっち、慣れない運転に疲れているのだろう、フルーのいうとおり休息の必要がありそうだ。
外部状況を把握できないという問題と、戦車に対する習熟の度合いから戦車任っている間の指揮系統はテルトが執ることになっている。
そのためフルーはテルトにお伺いを立ててきたのである。
「・・・そうだな、よし分かった。この先に少し開けた場所がある。 ユーリア操縦手、少し進路を右へ取ってくれ・・・、よしそのまま前進。」
「「了解!」」
(ヤヴォールの方がカッコいいのに・・・。)
話し合いの結果、古めかしいドイツ語は二人との咄嗟の時の意思疎通に混乱があると困ると言う事でテルトにとっては残念な事に廃止が決まり、若干テルトは寂しさを感じていた。
やがて、街道の馬車止めのスペースが設けられた簡易的な休憩所まで来るとテルトは戦車の停止を命じた。
****************
戦車に寄り添うように設営されたツェルトバーンの天幕の下、3人がヒックスさんの用意してくれたお弁当を広げて手を合わせる。
「「「いたたきます!」」」
中身はレシアさんの作ったハンバーガーセットであり、コーラはないが柑橘系の果実を絞った飲料も添えられていた。 それぞれの木のカップに注ぎ、テルトの作った氷を浮かべる。
本格的なハンバーガーは、前世より硬めのパンが湿気を吸っていつもよりしんなりしている分食べやすく、コレはこれでなかなかオツなものだ。
ポテトも、名前の由来であるマ○クのような細いものではなく、スパイスや、ソーズニングをまぶして油で揚げた厚切りのポテトウエッジは冷えても十分美味しい。
濃い目の味付けでくどくなった口を、氷で冷えてきた果実水で潤し、空腹を満たしていく。
「ぷはぁ~!食った食った~。」
「お前大して動いてないのによく食べれるなぁ。」
「いやいや! 俺だって一応いろいろやってたんだよ? 砲弾の装填の訓練とか、砲塔の旋回方法のチェックだとかさぁ。 案外すぐできたから、あとは昼寝したてけど。」
「おい、動いてないやんか。ずるいわ、この獣人。運転代われよなー!」
「オッケー! 実はちょっと運転してみたかったりしてな!」
「おう、やれやれ! どうせすぐ飽きるぞー!」
満足気に腹をさすりながら言うフルーに、ユーリアが苦笑しながらいう。
装填の訓練はしていたようだが、重いとは言っても膂力において獣人は人間に遥かに勝る。
同じ獣人のルフやゾフからしても『馬鹿力』らしいフルーにしてみれば、10キロの砲弾の重さも苦にはならないようだ。
短時間のうちに片手で装填しながら、もう一方の手で砲塔を旋回させるという器用なことまでできるようになっていた。
最初はテルトが砲手を兼ねるつもりだったが、『体で覚える派』のフルーが意外な才能を発揮し、めでたくテルトはオリジナルと同様、車長の任務に専念できるようになった。
だが、魔導戦車本体は車体のミスリル合金や、内燃機関が魔導エンジンであること以外にも『オリジナル』とはかなり違う。
まず砲弾だが、薬室部分に炸薬は入っていない。
この世界に炸薬の原料となる火薬は存在しない。
作成は可能かもしれないが、膨大な手間とコストがかかるだろう。
国家的な事業だが、魔法発達したこの世の中で、そんなモノに金を出す酔狂な権力者がいるとは思えなかった。
代わりに薬室内には、テルトによって書かれた爆裂系の複合呪文のスクロールが封入されており、これが尾部の魔石への衝撃をトリガーとして発動、弾体を飛翔させる推進力になる。
更にはその砲弾を発射する砲身も前世のものとは違い、砲身内部にライフリングは刻まれていない。
そういう意味では内部は現代戦車の滑空砲に近い。
そのままでは弾道が安定せず、命中がおぼつかないので、砲身の表面には弾体に回転と加速を加えるための風属性の魔法文字がびっしりと刻まれており、上塗りされた戦化粧でその存在は隠されていた。
このように見た目は前世のティーガーを引き写したような出来栄えだが、一皮剥けばその実態はほぼ別モノである。
中東の軍事強国でよく使われる『魔改造』という言葉はこの戦車にこそふさわしいだろう。
文字通り『魔』法技術による『改造』なのだから。
(白金の虎が火を噴く事態になるだろうか・・・。 何事もないに越したことはない、せっかくこの世に生まれたこの子だって傷ついて欲しくはないのだからな・・・。)
食後にレシアさん手作りの芋けんぴに似た菓子をポリポリとつまみながら、テルトは愛するティーガーを頭上に見つつ胸中で呟く。
だが一方で心のどこかで戦車の活躍の場を想像してみる自分がいることに気づく。
(いや・・・だが主砲は一度撃ってみたいのだよなぁ・・・。 砲塔に搭載する前に一度撃たせてもらってはいるが、それでは趣が出ないというかなんというか・・・。 )
幼稚で感傷的な、救いがたい性だと自分でも思い、自嘲げな苦笑がこぼれてしまう。
「どしたぁ、テルトちゃん? ご機嫌だねー?」
フルーが気づいて声を掛けるがテルトは微苦笑を浮かべて首を横に振るだけで、何も答えなかった。
地平のはるか先まで見渡せるほどに澄んだ空に穏やかな風が吹いている。
いつまでも愛車にもたれながらのんびりしていたい誘惑を振り払いつつ、テルトは二人へ告げる。
「よし、そろそろ出発しよう。 まだまだ前線までは遠い、人口の密集した地域も過ぎたことだし、運転は私も含め3交代にしよう。」
「おぉ、テルト。そうしてくれると助かる。」
「よっしゃー! 出発だー! 最初の操縦はオレスタートねー!」
「飽きてすぐ投げ出すなよな、オマエ・・・。」
ガヤガヤと喋りながら車内へ乗り込む3人。
フルーが魔道エンジンを始動させると重々しい唸り声と共に、白金の虎が武者震いを始める。
テルトはエンジンの快調な音を確認し、コマンダーズキューポラの定位置に陣取ると腕を振りかざして叫ぶ、
「戦車前進(パンツァ―フォー)!」
この地平が続く先には、血なまぐさい戦場があるだろうことなど想像もできないほど、それは平和な昼の一コマであった。
いつもお読みくださりありがとうございます。
現代日本で生きるミリ好きは、大なり小なり似たようなアンビバレンツな気持ちを持って、先史や兵器を愛でたり戦史に興奮したりしているのではないでしょうか?(僕だけですかね?)
これからも応援よろしくお願いいたします。m(__)m




