物騒なお茶会(Ⅴ)
色々な話をちりばめたせいで、話数が多くなってしまいました(><
この回でお茶会終了ですw
時間の経過とともに、マクスの言葉が浸透してくるにつれ思考の混乱は収まるどころか大きくなる。
「・・・ん? んん? ・・・はいぃ?・・・」
「・・・」
「ほへ? どゆこと。」
素っ頓狂な声を上げ固まるユーリアに食後のハチミツ入りミルクティーを口に運ぶ手を止めるテルト。
フルーは説明を全然聞いていなかったので、全く言葉の意味を理解していないようだが。
「あれ? そう言えば呼び出した理由まだ言ってなかったっけ?」
そう首をかしげて、笑顔で頭をポリポリと掻いていたが、一人で納得して両手をパンと勢いよく叩く。
「あぁ! そうだった最初から本題に触れたらユーリアさん帰っちゃうかなーって思って言わずにいたんだった。 テヘッ♪」
(((この人は・・・)))
演技ではない、天然だ。
『表も裏もあるクセに天然』
というやつの実例。
これほどタチの悪いものは無い、そうユーリアは心の辞書にしっかりと刻んだ。
「・・・今からでも帰っていいですか?」
「いやだなぁ、ユーリアさん。 ダメに決まってるでしょ♪ 大丈夫、書類上の手続きや王国審査局、陛下への根回しは全部終わってるから♪」
ユーリアは笑顔のマクスに半眼で問うた。
「・・・何で毎回外堀を埋めてから呼びつけるんですか?」
「えっ? だってそうしないとユーリアさん逃げるでしょ?」
満面の笑みを前にユーリアのリミッターは崩壊した。
「ああったりまえじゃぁあ! うがぁーっ!」
「まぁまぁ、そんなに興奮なくても。」
「おまえがいうなぁあああ!」
ナスネル家の3男の前だと言う事も忘れ、切れ気味に、いや自棄気味にそう叫ぶ。
ユーリアは机に突っ伏して頭を掻きむしり、しばらく網の上で焼かれる鮮魚のように身もだえしたあと、諦めたようにぐったりと動かなくなった。
そんなユーリアの背後で、かすかな物音と共に中庭に続く扉が薄く開く。
(・・・おいたわしや、ユーリア様・・・。道を歩いていたら野良ワイバーンに出会ったと思って諦めて下さい・・・。)
戻って来たヒックスさんが突如聞こえていた奇声に何事かと中の様子を伺うが、ユーリアの様子を眺め、状況を察すると、同情の眼差しで数瞬見つめたあと、何事もなかったかのように静かに扉を閉める。
人には落ち込んでいても励ましの言葉をかけてはいけないときもある。
ヒックスは心の機微の分かる優秀な執事であった。
・・・ただし、自らの身に降りかかりつつある恋の炎には鈍感なようであるが。
だが突然ユーリアが跳ね起きて、テルトを見ながら叫ぶ。
「で、でもまだ戦車完成してないんじゃないの?! 完成してないでしょ?! だって作るの大変だもん。 テルト、そうだよな?! そうだと言ってくれ?!」
テルトはそのユーリアの縋るようなまなざしを正面から受け止め・・・ふっ、と逸らした。
ユーリアの視線に耐えられなくなったように、きゅっと目をつむり苦しそうに言う。
「・・・すまない、今日、試食会のあと魔道戦車を受領しに行くはずだったんだ・・・。」
「ぐはっ・・・。しょ、しょんな・・・。」
再びがっくりと肩を落とすユーリア、もはや完全に望みは絶たれた。
いや、最初からそんな都合の話があるはずがなかったのである。
「もぉー。その辺は抜かりないって。やだなぁ。 まぁ、多少納期を急かしはしたけどねー。えへへ♪」
『かわいいのに全然かわいくない』
という矛盾を見事に体現した少年がてへぺろとばかりにおどけてみせる。
「・・・」
ユーリアはマクスの評価を改めることにした。
この少年は、マクス殿下は・・・決して単なる天才などではない。
笑顔で限りなく『ブラック』に近いいわば『チャコールグレー』の環境で自分をこき使う『悪魔』だと・・・。
『ホワイト』なのは給与だけだ。
(うーん、いい管理職におなりになるなこりゃ・・・。)
「・・・ユーリア審査官、テルト、フルーの両名と共に、魔道戦車を用いてリジュン救援に赴きます。・・・ぐふぅ・・・。」
自分の中の社畜がそう心中で論評しつつ、ユーリアは死んだ目でがっくりと頭を垂れながら上司に復唱するのであった。
「え~、しかしながら陛下。 復唱しておいてなんですが、なぜ私達なんでしょう?」
もうどうせ巻き込まれるのはほぼ確定事項。だが、だからと言ってその辺を確認しないでおくというのはやはりマズイ。
「やだなぁ、さっきも話したじゃない。ナスネル家には彼らに対抗できそうな武力が他には無いからねー。」
「えーと、そうではなくてですね。 その、オーリアかボッフェンに助力を仰ぐというのは?」
「もちろん報告はしたし、ウブンに対する派兵について要請はしたよ。 だけどオーリアからは『我に余剰戦力無し』、ボッフェンからは『必要性を認めない』という似たようなお返事がきちゃってさ。」
「あぁー。」
予想された返事ではあったが、気持ちが重くなってくる自分がいると言う事は、まだ悪あがきで最後の期待を抱いていたらしい。 ため息が出そうになるのを我慢するのに若干の努力を必要とした。
「まぁ。実際オーリアは三カ国と帝国方面と全く反対の場所に戦線を二つ抱えているから、その余力はないのは本当だと思うよ。ボッフェンも各地の緊張に伴って要地防衛に戦力を派遣しているから似たような感じ。」
そもそも『竜眼』からの情報は両家に流してはいるが、それをどう判断するかは最終的にはそれぞれの家の権能において決定される。
三賢の家格は平等であり、ナスネル家からあれこれと他二家の領分に口出しする事は難しい。
「無理強いは出来ない、と?」
「そゆことー♪ 傭兵を雇うって手もあるにはあるけど、お世辞にもお行儀が良い連中とは言えないしなぁ。君の父さんみたいに普段から騎士団との結びつきが強いところ。つまりそこそこ素行が良くて、装備や錬度に優れた傭兵団は、もうあらかた二家に雇われて出払っているしねぇー。」
考えることは皆同じ、というわけだ。
「それに・・・、」
「?なんですか殿下?」
「いや、敢えて二家の意向に逆らって横車を押すような形で動く以上、あまり大げさな兵力を投入するのもためらわれるからね。 ユーリアさんたちはその点こじんまりしてて良いんだよ!」
「・・・使い勝手が、ですか?」
「そうそう!」
「・・・光栄です。いや、マクス殿下も他者に気遣いとか、配慮とか、考える場合もあるという事ですね、ちょっと慰められました。」
「えーっ・・・。今なにげにぼく酷いこと言われたような。 きのせい?」
「気のせいです。」
死んだ魚の目で断言しながら、ユーリアもマクスの理屈と立場はよく理解できた。
複数の有力者がいる場合、内紛が生じやすい。
だからこそ三家はその役割を分担し良い意味でお互いに国家運営のために依存しあうことによって協調関係を築いている。
マクスのやろうとしていることは他二家の領分を犯そうとする行為であるととられかねないのだ。
しかも両家の見立てでは、
「リジュンという要塞都市がある以上、ウブンにそれ以上の侵攻は不可能。」
という結論が出たからこそナスネル家からの勧告を退けたのであって、別にいやがらせではないのだからナスネルの行為は文字通り理屈に合わない『横車』、越権行為でしかない。
であるならば押す『横車』は小さなほうがいいのは道理である。
だがユーリアには今一つ、引っかかっている疑問があった。
「なぜ両家の不興を買うかもしれないリスクを冒してまでマクス殿下は派兵に拘るのですか? 先ほどのお話を伺う限り、例えウブンの通常戦力に死霊戦車の一群が加わっていることが事実としてもさほど脅威にはなりえないのではないでしょうか?」
ユーリアの当然の問いにマクスが答えるよりも早く、テルトが言葉を継ぐ。
「おそらくだが・・・。陛下はこの戦線こそが帝国の『主攻』と考えておられるからではないですか?」
マクスはそのテルトの言葉に、良き理解者を見つけたように微笑みかける。
そこには同好の士に対する好意的な空気があった。
「うん、まさしくその通り。 実は国境沿いに王国との国境沿いに配置された兵力とほぼ同等の規模の兵力が帝国領内から忽然と姿を消したという報告が入ってきているんだ。恐らく彼らが向かうのは・・・。」
打てば響くようにテルトは答える。
「帝国領内からウブンを経由しての侵攻。いや、既にウブンが蹂躙したルートを追従してきている可能性もある。 ウブンの部隊はいわば先兵。 ウブンがリジュンを攻略するにせよ、しないにせよその鼻っ面を叩き潰してしておく必要があるでしょう!」
静かに、だがいささか物騒な文言で宣言するとテルトは小さな手を力強く、
『わしっ!』
と握りしめた、その目には小さな炎が宿っているように見える。
「そう!その気になってくれたようでうれしいよ!」
負けじとマクスも線の細い拳を握りテルトと同じガッツポーズを作る。
「では早速明日魔道戦車を受領し次第出発します。」
「うん、頼んだよ! いやー魔道戦車も楽しみだなぁ。実際にどんな活躍をするのか僕も楽しみだよ!」
「実は私もあの鋼鉄の虎に乗って戦場へ繰り出すのがたのしみでしかたありません。」
いつもフラットな声のトーンが、期待と昂揚感に弾んでいるのが見て取れる。
「でしょでしょー!この間の説明ではさっ!・・・」
そして、魔道戦車のスペックについてワイワイ、キャイキャイと喋り始めたマクスとテルトにユーリアはここにきて再び話題に取り残されてしまう。
「 もしもし?私は『その気』になってないんですけど? 」
二人の後姿に呼びかけていると、フルーがくちくなった腹をさすりながらだらしなく椅子に寄りかかっている。
「ふわぁ~あ。 食べ過ぎて流石に眠くなってきたわ~。そろそろ帰ろ~?」
「・・・俺は時々お前がうらやましいよ、フルー。」
「?そーかぁ? ふーん。 オレ、別になんもしてないけど?」
「だからだよぉおおっ!!」
「うおっ! いきなり大声出すなよぉ、 どしたの? ユーリア!?」
若干八つ当たり気味のユーリアにビビるのほほん獣人、上司はどうやら精神状態が不安定なようだ。
「?っとテルトちゃん、マクスさん、どこへ?」
ふと感じた気配にフルーが振り向くと、マクスとテルトは椅子から立ち上がっている。
テルトと頷きあうと、ニコニコ無邪気な顔でマクスは宣言した。
「あぁ、僕も行くことにしたんだ! 魔道戦車のお披露目にね!」
「いざゆかんっ!!」
「なんかわからんけど、おーっ!」
「えっ?! いまから?!」
「きまってるでしょ! さぁ早く早く♪」
「わかりましたよ、行けば良いんでしょ、行けば・・・。うううっ・・・。」
無駄と知りつつも、会話の流れに逆らったユーリアの微弱な抵抗ははかなく粉砕された。
そしてほけーっとした満腹獣人を追い立て、鼻息荒いテルトとマクスは足取り重いユーリアを引きずるように戦車受領へと向かうべく中庭の扉へ手をかけたのであった。
だが、マクスが開けた扉の向こうに通路は見えなかった。
「?!」
そして少年は思わず身構える、目の前の人影の正体を悟って・・・。
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