物騒なお茶会(Ⅳ)
遂に60話目突破です。
いつも読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございますm(__)m
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それは3人の精神に混乱を招くという意味では、圧倒的な破壊力であった。
「どうぞ・・・。」
バスケットからまだ熱気を感じる大皿に乗ったピザを取り出すと、普段からは想像できないほど絞られた音量で、マクス殿下の前に差し出す。
「ありゃ、みんなどうしたの? せっかくだから頂こうよ。」
固まった3人に不思議そうな声を出すマクスの言葉にようやくユーリアたちは我に返る。
「え、ええ。そうですね・・・。」
「・・・。」
「あー、熱いうちに食わなきゃなー。はは・・・。」
ようやくぎこちなく動き始めた彼らの視界の端で、レシアさんが頭を下げて退出しようとしている。
「では、マクス様これで失礼いたします・・・。」
そう言って下がりかけるレシアに、マクスは少年のような(少年なのだが)無邪気な笑顔で感謝を伝える。
「あっ、レシアさん。本当にありがとう! 夜も遅いから危険だ、ヒックスに送らせよう。 爺、レシアさんを頼むよ。」
(((・・・レシアさんには必要ないんじゃ・・・。)))
実際、レシアさんは、寮ではなく貧民街などから通ってきている従業員をしばしば『護衛』として送り迎えしていたりする。
当然感謝しながらも断るのではないかと思ったのだが、
「えっ?!・・・は、はい、では・・・よろしくお願いします。」
(((えっ?! えっ?! ええええ~~っ!!)))
なぜかべんけ・・・レシアさんはその威容をもじもじさせながら頬を赤らめて頷いた。
3人は完全に強力な精神攻撃を受けた状態に等しく、混乱状態だ。
「畏まりましたレシア様、では参りましょうか。 それでは皆様失礼いたします。」
そう恭しく一同に礼をすると、レシアさんをエスコートしてヒックスさんは扉の向こうへと消えていった。
「う~ん。 爺も罪な男だねぇ~!」
「「「 えっ? ええっ??mにぎんろねお!?」」」
マクスが少年の笑みのまま、ポロっと投下した爆弾に3人の口からよくわからない声が漏れる。
話は見えた、見えたが3人の脳がそれを受容することを拒否しているようである・・・。
「それにしても『ぴざ』うまいっ! 早く開店しないかなー。」
「「「・・・」」」
そんな3人の反応を楽しむようにニコニコとしながら、マクスだけがひょいっとピザを手に取り、呑気にピザをエンジョイしていた。
三人もピザを手に取るがしばらく味どころではなかったのは言うまでもない。
何とも言えない空気の中、ピザが腹の中に納まったころ合いで場の空気を仕切りなおそうと、ユーリアは決心して、口を挟む。
「えっと! すみません。死霊戦車がどうして帝国の手によるものだと断定できるんですか?」
ユーリアが相槌以外で珍しく発言したので、テルトとマクスは一瞬きょとんとした表情をしていたが、ユーリアの疑問を理解したらしくマクスは説明を始めた。
せいぜい13.4歳にしか見えない少年に、二十歳前のユーリアが説明を求めるというのもおかしな話だが、マクスはいろいろと規格外な少年である事はユーリアが一番よくわかっているので、心理的な抵抗はない。
対するマクスも当然の様に笑顔で説明を始める。
「うん? あぁ、ユーリアさん。それはね、帝国が我々王国の魔術水準を凌いでいる数少ない分野が死霊系の魔術だからだよ。 ガリアを守護すると言われる竜、恐らく始祖竜だと考えられているけど、その竜族の力は聖属性の一種だからね。」
「死霊術はそれとは相反する性質を持つ、ってことですか?」
「うん、そういうこと。聖属性の魔法はおしなべて邪法の類に属する死霊系の魔術とは対極にあるんだ。ほかの国々でもそれぞれ信仰されている宗教はあるけれど、いずれにせよ少なくともヒトの世界で『生』を祝福する神々の信仰が厚い。それに唾するような『死』の深淵を覗きこむような死霊系魔法の使い手は非常に少ないんだよ。」
「確かにあんまり死霊術なんかの魔法使いってききませんね・・・。」
「ガリアだと異端者として白眼視されること確実だし、その割にメリットがないからねぇ。王国で魔法の才能のある人間なら好き好んで死霊魔術を究めようとする人はまずいないだろうね。」
誰だって死んで亡者として蘇るよりは、いつまでも元気で死なないように長生きしていたい。
そしていっそ死ぬならそのまま天国へ、と思うのは人情だ。
『死んだ者が生き返る』というならともかく、『アンデッド』になってしまうと前世の記憶は勿論、似姿すら維持するのは非常に困難。
上位アンデッドならその辺りもある程度保持が可能だというがそんなレベルの死霊術の使い手など王国周辺ではドラゴンくらい珍しい。
死霊系魔術・・・流行らないわけである。
「そこに目を付けたのが帝国だと言われている。 帝国以北にあるという亜人勢力の『知』を取り込んで、それまで人間の間では一部の酔狂な者や狂信者の間でしか顧みられてこなかった死霊系の魔術の魔法水準を大幅に高めたと言われているんだ。しかし詳細は殆ど知られていない、そうですね?」
別にテルトは嫌味を言ったわけではないが、マクスの表情が僅かに曇る。 どうやら世間一般レベルではなく、『竜眼』などの組織を以てしても情報収集は難しいらしい。
「うっ、そうなんだ。 残念ながら帝国も秘密保持にはかなり神経質になっているらしくてね。 『竜眼』を以てしても断片的にしかその内幕は分からない。 ただ言えるのは、死霊戦車の軍勢をそろえられるような魔法技術を持つヒト勢力はこの近隣では帝国以外には考えられないと言う事だね。」
「なるほど・・・。よくわかりました。ありがとうございます。」
ユーリアの感謝の言葉には反応せずに、マクスは独り言のように現状に対する不満をブーたれていた。
「しかしいくら忌避すべきものだとは言ってもねぇ、気持ちはわかるんだけど。 脅威となりえる存在だからこそ、対抗策を研究するべきだと思うんだけどなー。 今だって現にこうやって脅威になりつつあるんだからねぇ。」
マクスはこの世界の住人としてはかなりドライなリアリストに属する。教義や慣例に縛られて身動きの取りづらい現状を窮屈に感じているようだった。
「だからこそ対抗魔法の研究を行うためにも死霊術の研究は欠かせない、うちの家ではそう思って最近王都の魔法学院を援助して研究を始めさせてはいるけど。正直この王国で死霊系魔術の研究をしようっていう変人を見つけるだけでも大変だったよ。」
実際、大変だった。
ナスネル家の名前を持ち出しても中々首を縦に振るものが居らず、やっと魔術学院似通う生徒の中でも変わり者と評判のレクトルという学生を捕まえて研究を始めさせたばかりだ。
ナスネル家がバックにおり、魔術学院の公的な研究でもあるため公に批判を口にする者はいないが、快く思わないものも多い。
レクトルの長髪に青白い顔、ぎょろぎょろとした大きな目という、いかにも
『私死霊系魔術やってます』
というヴィジュアルが悪かったのか、早くも『背教者』だの、『死体愛好者』だの様々な陰口が囁かれている。
『まぁ、死体は嫌いではありません。・・・興奮もしませんが。』
と本人は大して気にせずスルーしているようなので周囲との軋轢は酷くはないようだが。
「逆に言うと所詮このガリアでの死霊魔術の水準はその程度と言う事さ。 いやー、お寒い現状で恥ずかしいんだけどね、ハハハ。」
マクスはカラカラといつもの笑いで頭を掻く。
「そ、そうなんですか。ありがとうございます。」
(それ、結構笑えない状況なんじゃ・・・。)
と、激しく思うがもちろんツッコミはしない、突っ込んだところで早晩どうにかなる問題でもないだろう。
代わりに浮かんだ疑問を自分からも振ってみることにする。
「で、では、その死霊戦車の軍勢がリジュン攻略の戦力、と言う事でしょうか?」
二人はフルフルと首を横に振っている、どうやら間違った回答だったようだ。
「それは違うね、名前は似ていても君たちがマグヌスさんのところで組み立てた『アレ』とはま全くの別物だ。死霊戦車はあくまでも馬で牽く戦車だからね。 徒歩の部隊に対しては非常に強力な存在だけど、攻城戦には大して役に立たない兵種と思うよ。」
「そうですか、それじゃ安心・・・って、うえっ!? なぜ『魔道戦車』のことを殿下はご存じなのですか?」
自然にスルーしそうになったが、なぜマクス殿下の口からテルトがマグヌス工房に(というかマグヌスさん個人に)発注した魔道戦車がサクッと語られるのか、ユーリアはハタと気づいて困惑する。
「当然じゃないか、パトロンたるもの自らの援助する者の動静を把握しておくことは重要だよ。 それに・・・、あんな面白そうなもの僕が見逃すわけないだろう?」
「な、なるほど。」
言われてみればその通りである、むしろ今までマクスが知らずにいると考えているユーリアのほうがお気楽だというべきだ。
魔道戦車はマグヌス工房の中でも最深部、マグヌスさんのプライベートなアトリエで作られていてシュバツさんとシュタルフさんをはじめとする精鋭が警護している。
そのためマグヌスさん以外は入れるのはごく少数の人物だけ。
だが、当然マクス殿下はその『少数』に入っているに違いない。
『パトロン』と『アーティスト』の関係ならば出資者に自分の仕事ぶりを見てもらうのは継続的な支援のためにも欠かせないだろう。
今回の件はただ単におっさんドワーフが少年のような心で、自分の作品を誰かに自慢したいというだけの話だと断言できるが。
「一月ほど前かしら、マグヌスさんが誰かに自慢したくて、殿下にお話ししたそうだ。殿下がその話を聞いて早速私のもとにも話を聞きに来た。そしてそのまま工房につれていかれて・・・、結局ヒックスさんがマクス殿下の耳を引っ張って連行していくまで延々工房で説明していたっけ・・・。」
「いやぁ、あの時はいてもたってもいられなくてさ! テルトさんの事だから風変わりな魔道具を発注したんだろうなと思ってはいたけど、まさかあんなすごいものを作ってるとはねぇ。」
マグヌスさんの報告書に目を通すなり、館を抜け出し、テルトを引っ張って工房まで連れて行って延々テルトの戦車講座を楽しそうに聞くマクス。
うん、ものすごくわかりやすい構図である。
「まぁ、そう言う話も聞いてたからさっ! 今回ユーリアさんにはその魔道戦車でリジュンの救援にむかって欲しいんだよね♪」
ニコニコ顔のマクスの一言に場の空気が一気に凍り付いた。
「・・・うん? いま・・・何と?」
絶対に言い直してほしくない話題だった気がするが、思わず聞きかえしてしまう。
マクスは先ほどと寸分違わぬ笑顔でユーリアにもきちんと伝わる様に再度簡潔に告げた。
「えっとね、魔道戦車でリジュンの救援にむかって欲しいの♪」
「・・・はいぃいいい??」
真っ白になりそうな思考の中、ユーリアはそう絞り出すので精いっぱいだった。
(何かの聞き間違いだ!聞き間違いに決まってる!るるるるっ!)
心の声が発狂気味に叫んでいるが、理性の自分は早くもその肩を慰めるようにポムポムと叩き始めていた。
『諦めろ』
とでもいうように・・・。
お読みくださりありがとうございます。
運命に翻弄されるリーマン騎士ユーリアの巻でした。
これからも応援よろしくお願いしますm(__)m




