物騒なお茶会(Ⅲ)
「コホン・・・つ、続けていいかな。」
「「お願いします。」」
「あのーかれ・・」
「「放っておきましょう。」」
「あっ、はい。」
二人の力強い獣人放置の声に押されるように、マクスの鞭は国境をなぞる様に南東へと下がっていく。
「最後は南東のウブンだねー。例年この時期になるとガリアやリタの国境沿いか貿易路を狙って略奪を働くんだけど、今年も出没して国境の村に被害が出ているらしい。『竜眼』の報告によると、どうやら今年は家畜の疫病が蔓延したらしいからその穴埋めだろうね。」
「時期だけを考えるなら、例年と同じようにある程度の略奪ののち、こちらの軍が補足する前に平原へと撤収するはずですが・・・。状況から見る限り、ウブンの動きも西方三カ国や帝国の動きと連動した一連の軍事行動の一つと見るべきでしょうね。」
テルトの言葉に頷きながら、マクスの指し示す先はウブンが普段出没する国境地域や、交易都市やその間を結ぶ通称ルートから大きく外れ、その進撃ルートはジリジリと内陸部へと迫っていた。
「全く同感。コレだけ綺麗に揃えられて、何も関係がないと思うほうが異常だよ。 しかもいつもの『出稼ぎ』なら、なるべく交易の中継地点や隊商を『効率よく』回って財貨を『徴収』して回るはずなんだけど。 今回はなぜか辺境の開拓村から始まって、交易ルートとは全く関係ない集落を襲撃しているらしい。 しかも解せないのは城塞都市の『リジュン』がその進撃路の先にあるのが気になるんだよねぇー。テルトさんはどう思う?」
「私の知識ではウブンの兵と言うのは歩兵も輜重兵すらも殆ど伴わない装備も軽装の騎馬軍団だったと記憶しています。 だとするなら、常識的に考えて攻城兵器を持たない彼らが要塞都市であるリジュンを攻撃するのはいささか荷が勝ちすぎると・・・ウブンの軍編成には変化がみられるのですか?」
(・・・な、なるほろ。マクス殿下、テルト参謀、しゅ、しゅごい・・・。)
先ほどから、と言うかマクスの状況説明が始まってからこっち、テルトとマクス殿下の間で阿吽の呼吸でスムーズに会話は進むが、ユーリアは殆ど口を挟めない。
ただただ『参謀』のキレキレっぷりに感心し、首を縦にこくこくと振り、社交的な笑みを浮かべながら相槌の「へぇ~」、「ほぉ~」、「なるほど~」を延々ループするのみである。
テルトの話を聞いていると確かに
『はーん!なるほど!(ポムッ!』
と理解はできるが、理解できるというのと自分でテルトのように状況を分析出来ると言うのとの間には天と地ほどの差がある。
(『常識的に考えて』、ってさらっと言ってるけどその『常識』がわかんないんだけど・・・。)
ユーリアは上司としての己のふがいなさに若干凹んでいた。
だがそれは無理のないことかもしれない。
マクスの常識とは、王国有数の大貴族であるナスネル家の人間として、いわばはじめから『統治する側』の人間として人の上に建つことを前提としてある種の帝王学を修めてきた者の『常識』だ。
一方、テルトの場合の『常識』とは、
「『ミリオタ』ならこのくらいはわかってて当たり前だよね?(真顔」
と言う意味での『常識』。
なので実はテルトとマクスの『常識』の物差しもバックグラウンドも全く違うのだが、こと『軍事』の点において二人の『常識』は奇跡的に噛み合っていた。
対してユーリアは審査官になるための言ってみれば『受験勉強』はやったが、軍事的な知識については殆ど知る機会がなかった。
かといってユーリアが別に詰め込み型の頭でっかち、というわけではない。
徴税吏だったローグさんはいろいろな知識をユーリアに教えてはくれたが、読み書きと、専門だった算術を主体に歴史や地理、そして若干の文学や植物学などにその範囲は留まる。
いや、それでもこの世界の一個人でカバーしているレベルではとんでもなく広いほうなのだが。
なにしろ、
『ググレカス』
と言う言葉が通用しない、インターネッツの無いこの世界。
書物の類が恐ろしく高価なこの中世的世界では知識を得る手段も、場所も、階層も限られている。
一人の人間が知りえる知識の量と言うのは前世に比べてとても狭い。
知識は一般に広めるものではなく、むしろ少数が独占してこそ『価値』があり、『力』となると考えている権力者が圧倒的多数だ。
あけすけに言ってしまえば出来れば無知な民衆は無知なままでいてくれたほうが権力者にとって色々と都合が良いのは事実である。
その点、ガリアは魔術学院をはじめ、各種官吏向けの養成所などを立ち上げている。
更には試験的にとはいえユーリアのハンバーガー店で貧困層の少年少女や寡婦を雇うのような社会福祉政策も行われているガリアは『マシ』な部類であると言えた。
ユーリアさえ忘れがちだが、あれはれっきとした社旗福祉事業なのである。
そんな世界で前世風の接客サービスを従業員に教え込むユーリアの苦労は並大抵ではなかった。
振り返って自分自身の知識だが、幸い戦術レベルに関しては、父ジュトスが自らの傭兵時代の経験則に従い、ある程度の知識を授けてくれたので、前線指揮官としての状況判断はある程度やれる自信がある。
だが、テルトや、マクスのように趣味や帝王学で戦略レベルの思考を叩き込んではいないので、正直話についていくのでやっとだった。
(いや! 聞くのも勉強だ・・・。『耳学問』・・・は、意味が違うか。)
使い方を間違いながらもそう思い直して、少しでも上司として成長するべく、ユーリアはまたしばらく黒子のように陰に徹して、切れかっていた自分の集中力を叱咤して二人の話に意識を引き戻した。
会話はまだまだ続いている。
「今のところ攻城兵器は確認されていない。 とはいっても殆ど生存者がいないから詳細は分からないけどね。でも状況から判断してその可能性は低いと僕は思っている。」
「・・・進撃のスピードですね。確かに攻城兵器を伴っているとしたら、これだけの行軍速度で移動できるのは不自然、攻城兵器の類はないと考えるのが自然でしょうね。」
実際ウブンの軍勢を示す駒はガリアの内陸部分まで食い込み始めている。
その進撃スピードと、普段とは違う進撃ルートのため未だ補足できていないらしい。
現地では既に補足を諦め、周辺の住民を要塞内に避難させ、十分な兵力が本国から派遣されるまでリジュンに立て籠もって防戦の構えを取っているようだ。普通ならウブンにこれに対抗する兵力は無い。
「そういうことだね。ただ攻城兵器がない代わりに厄介なものがついてきている。死霊戦車の軍勢がウブンの騎馬隊に付き従っているという情報が入ってきているんだ。」
「それは・・・、恐らく。」
「うん、帝国の差し金だろうね。」
(えっ? えっ?! どゆこと? 何で? なんでそうなるのぉ?)
【コンコン】
ユーリアの頭の中が疑問符で埋まりそうになるその時、不意に上品なノックで中庭に続くドアが開いた。
「マクス様、『マクダ―ナル』のレシア様が『ぴざ』をお持ちになられました。」
「そう!じゃあこちらに・・・」
緊張の糸が一瞬ほどけ、本来の年齢相応な無邪気な笑顔を見せてマクスが言いかけるより早く、フルーの声が中庭にこだまする。
「よっしゃ! 待ってました! ちょっと休憩にしようぜ!」
「お前はずっと休憩してただろ!」
「・・・。」
三人の冷たい眼差しをものともせずに、フルーは堂々と胸を張る。
「失礼だな! 俺はずっと戦っていたんだ! この強敵達とな!」
「・・・こちらにお通ししてー。」
マクスも遂にスルーを身に着け始めている。その声に促されるようにレシアさんが中庭へと進み出てきた。ピザの入ったバスケットをヒックさんに預けると、緊張のためかうつむき加減のまま、礼を施す。
「初めて御意を得ますマクス殿下。 私はマクダ―ナルの支配人を任されておりますレシアと申します。 ヒック様のお申し出に従いまして、『ピザ』をお持ちさせて頂きました。 どうぞご笑納くださいませ・・・。」
そう言ってチラリとヒックスさんの方を見たレシア、その先には緊張するレシアさんを気遣うようにいつもどおりの柔和な笑みを浮かべたヒックスさんが籠を差し出している。
「「「?・・・?!?!」」」
なぜかヒックスさんと目が合うと恥ずかしそうに視線を逸らすレシアさんの態度を不審に思うユーリアたち3人は顔を上げてこちら近づいてくるレシアさんの顔を見て衝撃を受けた。
((( メ、メイク?! れ、レシアさんがっ?! )))
そう、普段すっぴんのレシアさんはなぜかばっちり化粧をしてやってきていた。
手先は職業柄綺麗なようで、眉もアイラインも綺麗に描けている、なかなか芸術的な仕上がりだ。
そう例えるなら、
『真っ赤なルージュを塗った歌舞伎の弁慶役』
と言えば想像しやすいだろう。
(((ゴクリ・・・。)))
3人は我知らず戦慄の生唾をのみこんだ。
お読みくださりありがとうございます。
どうもこの小説には色気が足りないので、ラブコメ要素を入れてみました(白目)。




