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夢は国家公務員!?~異世界なのに転生者に優しくないこの世界~  作者: ETRANZE
遊撃隊編 魔道戦車出撃!
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物騒なお茶会(Ⅱ)

 

いかがわしい意味ではなく、名だたる貴族であるマクスの目の前で文字通りの『肉欲』に捕らわれている獣人にさすがにマクスも若干戸惑っているようだ。


「えっと、フルーさんは、その・・・。」


「「構いません。『アレ』は、ほっといて下さい」」


二人は即答した。


「えっ?でも・・・」


「「 お願いします! 」」


「あっ・・・はい。」


死んだ目で懇請する二人に、マクスはコホンと咳払いをして手元に置かれた布袋を広げると色分けされた駒を、彼我の戦力に見立てて並べる。


そして彼我の戦力配置を終えると、馬上鞭を手のひらで弄びながら続けた。


「ユーリアさんたちはネスネル家が、剣のオーリアや槍のボッフェンのように固有の騎士団を持っていないことは知っているよね?」


マクスの問いかけにユーリアではなくテルトが答える。 ユーリアは適材適所と割り切れるので、話題がこういった軍事向きの話になった場合はテルトが前に出てきてくれるのをむしろ歓迎していた。


決して上司としての責務を放棄しているわけでも、部下に丸投げしているわけでもない・・・多分。


「ええ。 オーリアは主に国境を守護する竜鱗騎士団を擁し、ボッフェンは近衛騎士団と竜炎騎士団を擁しています。しかしナスネル家の騎士団と言うものは存在しない、その代わりに・・・『竜眼』を組織している。ですね?」


王国の成立当時から三賢の家は、敢えて互いに競合しない権力を持つことで互いの反目を抑止していた。


「そう、その通り。僕ら三家は昔から王家を支えるために代々それぞれの役目を果たしてきたんだ。 国境の守りとしてのオーリア、王都の最後の門扉を守護する近衛騎士団、と要地防衛の任を負う竜炎騎士団を擁するボッフェン、そして僕らは王国の目となり耳となる『竜眼』、つまり情報組織の網を各国に張り巡らせてる。」


ちなみにボッフェンの『竜炎騎士団』はかつては遊撃や外征に備えるための騎士団だった。


だが現在は王国の隣善外交の方針と長い平穏の時代の為、本来の存在意義は薄れ、近衛騎士団の隷下に中核となる騎士階級のみで構成された『竜炎騎士団』を残す以外は各地の要地に分散して配属されている。


これは言ってみれば莫大な維持コストのかかる通常の騎士団などの常備兵力に対する王国流の一種の『軍縮』だ。


外征の必要なくなった現在、『竜炎騎士団』は歩兵や槍兵などの平民から徴収される兵力を事実上解体し、常備兵力を削減して騎士階級だけで構成されている。


いざ有事の際には騎士階級のみの竜炎騎士団を中心に、歩兵や槍兵を国民から民兵として徴募。


更には傭兵などの兵力も交えた戦力として膨張して近衛騎士と共に王都の防衛線力として機能する仕組みになっている。


ちなみに民兵とはいっても、農閑期に適齢期の成人男性に軍事教練を義務付けることで、最低限の兵士としての質は維持できる仕組みだ。


何の訓練のない民間人を引っ張っていっても案山子以外の役には立たない。


「そして幸いにと言うべきか、残念ながらと言うべきかはわからないんだけれど、その『耳』であり『目』である各地に散った『竜眼』の者達から続々と不穏な情報が入っているんだ。まずネージ、チャス、ダーノの三カ国だけど、ガリアとのセント川を挟んだ国境沿いに三カ国合同で兵力を展開しているらしい。数はおよそ3,000。」


「結構大規模ですね・・・。」


思わず呟いたユーリアの言葉をそのままテルトが引き継ぐ。


「三カ国の国力はほぼ同等ですから各国1,000と言ったところでしょうか? そして王都を防衛する兵力と、北の竜骨山脈を警戒する兵力を考えると恐らく動員できる最大限の兵力に近いのでは?」


打てば響くようなテルトの言葉にマクスは嬉しそうだ。


「さすがテルトさん、御明察だね。テルトさんのいう通り、各国から1,000人ずつの3ヶ国混成部隊。  一応名目は例年開かれる三カ国合同の『演習』と言う事になってるんだけど。」


マクスが指示した地点は王国から見てセント川の対岸に近い、・・・というか近すぎる。


「ええ、どう考えてもガリアの国境に近すぎますね。『演習』なら例年はもっと内陸の平野部で行われているはずでしょう?」


古今東西、テルト達の暮らした前世やこの世界の常識でもそんな場所で『演習』を行うなど、相手国への挑発ととられても仕方がない。露骨な力の原理がまだまだオブラートに包まない形で働いているこの世界ではなおさらだ。


だとすると恣意的に、何かしらの意図をもって三カ国はガリアに対して挑発を仕掛けてきていると言う事になる。


「そのはずだね。 まぁ、あからさまなんだけど。軍の構成は騎兵、槍兵、弓兵に先兵となる傭兵などが加わっている標準的な編成と言っていいかな。ただ・・・。」


よどみなく説明を続けていたマクスの言葉に初めて若干だが、歯切れの悪さが混じる。


「何かきになる点が?」


「うん、ただチャス王国の軍だけはグエン国王自らが親征しているらしいんだ。そのせいなのか近衛兵を中心とした編成になってるみたい。」


「と言う事は最精鋭の部隊を派遣してきてる。・・・つまり侵攻の意図を持っていると?」


それがマクスの歯切れの悪さの原因なのだろうかとテルトは尋ねるが、どうもそうではないらしい。


「いやー、それがどうもそう言う意図は見えないんだよねー。 近衛騎士の下にいる兵士たちの装備の質や、不統一な見た目からしてどうやら素人同然の民兵や、傭兵がかなり混じっているらしいし。近衛兵だけじゃ戦争は出来ないからねぇ。」


通常ではありえない異質な軍の編成にマクスは不信感を抱いているようだ。


「ふむ・・・。では何らかの政治的な要因でしょうか?」


「ま―それが妥当な線だろうねー。 ガリア王国でも有名な、かの『ドラゴン殺し』オスト将軍の軍旗が見えないところを見ると将軍が今回の遠征の率いることを面と向かって拒絶したっていう噂も真実味を帯びてくるねぇ。」


下位竜レッサードラゴンといえど、生半可な戦力で人間が相手になるはずがない。 


前世のネットゲームのように一定時間がたてばリポップするような存在でない分、いざ戦わねばならない場合難易度もリスクも恐ろしく高い。


ゲームで言うならwikiなどの事前知識もほぼない状態で『初見でクリア』しなければいけないわけだ。


しかもこの世界に『セーブ』も『ロード』もあるわけない。


『しんでしまうとはなさけない!』


どころの話ではなく、死んだらそこで『THE END』人生はゲームオーバーである。 


もちろんリセットボタンも無い。


そんな命がひとつしかないこの世界で、竜を倒したという英雄がいるのだ。


普通は周辺諸国へ『ハッタリ』を効かせるためにも、是が非でも引っ張って来たい人材だろう、むしろ来ていないほうが騒ぎになる。


テルトも当然そのあたりを疑わしく思ったようであった。


「チャス王国が流した欺瞞情報と言う事は?」


「可能性はゼロじゃないけど、複数の『竜眼』から同じ報告が上がってきているからね。三ヶ国はわりと親ガリア派が多いから情報も多く集まるんだよ。普通に考えてさ、ドラゴンなんて言う物騒なモンスターまで出現する竜骨山脈を後背に抱えている小国にとって、ガリアが安定しているに越した事はないからねぇ・・・。」


「けれど残念ながら世の中『普通に』考えてくれる出来た人ばかりではない、ですね?」


テルトがそう言うと、二人は顔を見合わせて苦笑する。 


「そこがつらいところだよねー、ホント。 まぁ『普通』も人ぞれぞれなのかなぁ。いずれにせよこの地域にはほぼ同数のオーリアの竜鱗騎士団が配置されているから、もし彼らに侵攻の意図があったとしても深刻な脅威にはなりえないね。」


そういいつつ、三カ国から鞭を移動させると今度は帝国北東のガリア王国とドールア帝国国境付近を指し示す、そこにも彼我の兵力配置を示す駒が並べられている。


「そして今の帝国なんだけど。 まるで示し合わせたように北方の帝国の国境沿いには兵力が集結しつつあるんだよねー。数はおおよそ5000程度らしいね。例のごとく、王国からのの公式な問い合わせには『単なる『演習』であり何の問題もない』っていうミもフタもない返答があったきり。」


「まぁ、帝国としてはそう答えるしかないでしょうね。」


「まぁね~。 でもなぁ~。このあたりは元々帝国が支配領域を広げてきた地域だから王国でも最精鋭の蒼鱗騎士団が配置されているし、要塞化も進んでいるから簡単には抜けるとは思えないんだよねぇ・・・。だから余計に帝国の意図が気になるんだけど・・・。」


「確かに・・・。」


帝国の動きに違和感を感じながら、その違和感の正体が掴めずにいる二人は真剣なまなざしで王国と帝国との国境付近の地図へ視線を落としている。


場に一瞬の静寂が訪れた間隙を見計らったように、場違いに明るすぎる声が響く。


「おおっ? このパイの中身は何だ? うっまいお!! さっくりしたパイ生地の中に隠れているのはトロトロに煮込まれた牛肉のブラウンソース! サクッ! トロっ! ジュワーッ!の三重奏やー! 」


緊迫した中庭の空気に『肉欲』に狂った獣人の声が和やかな空気を・・・もたらすはずがなかった。


(((・・・ダメだコイツ・・・。))))


3人の目が異口同音に心の中で獣人に対する諦めを表明していることを雄弁に語り、目のあった3人は互いの視線に気づくと静かに目を伏せ、小さな声にならないため息をついたのであった。



お読みくださりありがとうございます。


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