『群狼』の夢
ブクマ40件越え! ありがとうございます!
これからも見捨てられないようにこれからも頑張ります(^^;
(評価点変わってねぇ・・・。なーんていうと豆腐メンタルの作者が泣いちゃうから言っちゃだめなんだ!)
一応7部までの加筆を済ませました。
修正の甲斐あってか、序盤でUターンする読者様が減っているようでよかったです(^^;
執務室のドアがノックされ、信頼する副官が姿を見せる。
「キャリバー様お呼びでしょうか?」
「あぁ、シーンか。 入ってくれ。」
「はっ・・・。」
キャリバーは革張りの椅子に腰かけたまま副官を迎え入れた。
手元には羊皮紙の束、情報も一つの武器と考えるキャリバーはなるべく些細な報告であっても自ら読み解くべく時間の許す限り目を通していた。
周辺諸国の政情、新たに任官した騎士団長や、高級官吏などは勿論、果ては市井に流れる噂話まで、玉石混合の中から自らの手で輝きを発見するのはなかなかに面白い作業だ。
今も最近新たに発見した『玉』についての報告書に目を通しているところだ。
「例の王国の3人に関する報告書だが興味深く読ませてもらったよ。まったく、彼らには興味をそそられるな。特にこれだ。」
そう言いながら、執務室の机の上に置かれていた一幅のカンバスを取り上げる。
王国からの報告と共に送られてきた一枚の絵だ。
ユーリアたち3人を新たな監視対象に加えてから半年余り。
若干の時間差はあるが王都で新しく花開こうとしている大衆文化の知らせは、ここ帝国にも届いていた。
既に帝国にも少ないながらいる好事家の間では密かな話題となりつつあるようだ。
目の前にある絵の題材はテルトの異世界での処女作、キャリバーが注目している人物でもあるユーリアが名誉騎士に叙任された時の様子を描いたものである。
ユーリアがこの作品が帝国にまで流れていることを知ったらきっと本気で嫌がるだろうが・・・。
平民の審査官が名誉騎士に叙任されるという話は異例の事ではあるが以前報告を受けていたので今更驚きはなかった。
キャリバーの関心は別のところにある。
「叙任式、か・・・。」
題材そのものは珍しくない、貴族や騎士階級で金のある者なら、贔屓の画家にこういった依頼を出すことはままあるものだ。
(だが・・・この絵画の技法はどうだ・・・)
キャリバーは題材よりもこの一枚の絵の成り立ちの方に感心していた。
描写は精緻・・・、とまではいわないが細かな線で構成され、なかなかに細やかだ。
更に独特の画風で、叙任式の様子や人々は象徴的に描かれ、それが人物や、場面の印象を強く、そしてわかりやすく訴えている。
そして何より驚くべきは、この彩色された絵は一度に数百枚複製可能な多色刷りされた版画である、と言う事だ。
「たしか・・・これは『ウキヨエ』といったかな? ここに描かれているのがユーリア審査官と言う事だが? 」
「はい、ただ『ウキヨエ』とは技法についての呼称であり、自分の書いているのは『イラスト』という画風だというのがテルトの主張のようです・・・。 が、その『ウキヨエ』の技法で最初に王都に出回ったのがテルトの下絵による『イラスト』であるため、あまり区別はされていないようですが・・・。」
「なるほどな。 しかし、これがユーリア審査官か・・・。フフ、不可解だな・・・。」
「? と言いますと?」
「話に聞く限りユーリア審査官は黒髪黒目は置いても『平凡な容姿』、ということではなかったかな? この絵を見る限り、ずいぶん容姿端麗に見えるのだが?」
その表情から冗談だと理解したシーンは苦笑しながら告げる。
「あぁ、そのことですか。確かに、その絵が王都に出回ってからもっぱらこう言われておるようです、
『絵でウットリ、見てガッカリ』のユーリア審査官、と。」
「ハハハッ、なるほど、それは本人もさぞや気まずい思いをしている事だろう。 まぁ、王侯貴族を描いた絵画にはざらにあることだな。 しかし、変わった画風だ・・・。 このような様式は竜王国はおろか、ここ帝国でも東のリタでも今まで聞いた事の無いものだが・・・。寡聞にして私が知らぬだけなのかな、シーン?」
シーンは頭を振りながら答える。
「いえ、本人は本格的な絵画の教育などは受けたことがないと言っているようです。 今のところ誰かに師事を仰いだという話も伝わってはおりません。『イラスト』とはテルトというエルフの少女本人が独学で会得した画風であるようです。 もっとも、それを模倣しようとする王侯貴族お抱えの絵画工房も出てきているようですから、今後王都で人気を博す画風やもしれませんが。」
キャリバーは顎に手をやると頷きながら、吟味するように呟く。
「ふむ・・・だとしたら面白い、と同時に納得も出来る。確かに、この線描であれば版画にはしやすいし、特徴を誇張して描く画風は一部の特権階級が独占する高尚な『芸術』などよりもよほど市民にも分かりやすいだろうな。 これは使い方によっては相当な『力』をもつ道具となるやもしれんな・・・。」
「まさか・・・、それほどでしょうか? 閣下?」
シーンはそう言いながら見返すが今度の主君の言葉は冗談ではないようだ。
「 そうだな・・・、例えばだ。 王国の正当性を主張し、帝国を弾劾する檄文をしたためた立札を街路のあちこちに掲示するとしよう。 誰がそれに目を止める?」
シーンは迷いなく言う、
「貴族や、騎士、商人の類か、中級以上の官吏くらいでしょうな。我が国よりはマシでしょうが、字の読み書きの出来るものなど、その程度しかおりますまい。」
この中世的異世界の識字率は低い。
シーンのいうとおり、王国で2割に満たないほど、帝国では二ケタに届くかどうかも怪しいものだ・・・。
「そうだな、シーンの認識は正しい。 ではこれならばどうか? 同じように、王国の正当性を主張し、帝国を弾劾するような物語の織り込まれた絵画では?」
キャリバーの言葉にシーンも理解の色を深める。
「なるほど・・・、街路のあらゆるものがそれに目を止める。 立ち止まり、民は反帝国の義憤に駆られてるでしょうな。」
「そう言うことだ。 しかも数百枚の絵画が王国中の町や村へ野火のように広がり、反帝国の世論が民の間に一気に燃え上がる・・・。 というのはあまり愉快な想像ではないな。」
「・・・何らかの対抗策を講じるべきでしょうか?」
部下の言葉にキャリバーは肩をすくめるしかない、ある意味これは軍事的な脅威よりも厄介な問題であるかもしれなかった。
「対抗策と言ってもな・・・。 さしあたり、その『ウキヨエ』とやらの技法を我が帝国にも移植するための研究は行うべきだろうな。」
あの閃光と大音響を発する武器と同じように、まずは模倣から取り掛かるしかないだろう。
「では、さっそくそのように。」
「あぁ、人選は任せるが・・・そうだな宮廷画家の地位を争って敗れたあの男などはどうだ?」
シーンの才覚に委ねかけたところでキャリバーはある人物に思い当たった。
シーン自身もキャリバーの言葉を即座に了解する。
「帝国でも有数のアトリエを構えるモゼス殿ですな? 実力ではなく、猟官運動で負けたともっぱらの噂ですからな。」
そう、帝国でも1、2を争う腕を持つ新進気鋭の画家であるモゼスはその腕と同時に気に入らない仕事であれば権力者の依頼であっても引き受けない向こう見ずな変わり者として知られていた。
「あぁ、実力はあるが個性が強すぎて、有力な貴族の好意を得ることは出来なかったようだからな。」
「確かに、彼の野心を焚き付けてやればよい結果を生むやもしれません。」
「シーンのよいように。 その件については任せる、この件は一旦置こう。」
「畏まりました。」
恭しく頭を下げるシーンを視界の端に入れながら、キャリバーはもう一塊の羊皮紙の報告書をめくる。
そこには最近王都で人気を博しているという競技について報告があった。
「『ヤキュウ』か・・・。」
「はい、さして重要時とは思えませんが、なかなかに読んでいて興味をそそられる報告でしたな。」
「全くだ、普段は客観に徹していて読み物としてはさして面白いとは言えないからな、珍しい事だ。」
正直、政治や軍事、魔法技術などに比べてこういった類の話は優先度は低い。
・・・であるのにこの分量は何だ。
(フッ、『群狼』の一匹とはいえ、人の子という事か。 いや、雑多な報告であるからこそ色気が出てしまったのだろう。)
ほかの雑多な出来事の報告に比して、明らかに分量が多くまた報告者自身の抑えようとして抑えきれていない饒舌さが文面にも滲み出ている。どうやら王都で諜報活動を担う人物も既に『ヤキュウ』とやらに熱い視線を注いでいるようだ。
キャリバーは理解のある上司であったので、客観的な報告が求められる場面において常に信用できる情報を寄越すこの諜報員のささやかな暴走を咎めるつもりはなかった。
寧ろ正直に言えば心を動かされたし、いつか帝国でも『ヤキュウ』の行われる日が来れば良いとすら思っていた。
戦乱に明け暮れる帝国に生きてきたキャリバーにとって、それは単なる娯楽ではなく、いわば王国の平和と平穏の象徴のような気がしたのだ。
(帝国に『ヤキュウ』が根付くのはいつになる事やら見当もつかんが・・・。)
キャリバーは胸中で呟いた思いを飲み込み、本題を切り出すべくシーンを見据える。
いつまでも平和な帝国の将来の夢を見ていたいが、その為にはどうしてもシーンと明日の帝国の野望について語らねばならないからだった。
お読みくださりありがとうございます。
ちょっと社会学的な、『文化の力』ってスゴイね、って事で。
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