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獣人フルーの『やきう道』(後編)

祝50話! ありがとうございます。 皆様のおかげですっ!

感想などお聞かせいただけたら執筆の励みになります(*´ω`*)

いよいよ、衛士ウルブスと近衛ドラゴンズの試合が始まった。


先攻は近衛ドラゴンズである。


「いくぜ!うぉりゃあああああ!!」


いきなり獣人化しながら膂力に任せた剛速球を力任せに『投げつける』フルー。


「ひぃっ!」


聞こえた悲鳴はそれを受け止めなければならない衛士チームの捕手のものだった。


後ろに主審として控えているユーリアもプロテクターがあるとはいえ、ちょっと怖い。


しかし、近衛チームのバッターは落ち着いていた、重心を落とし、すさまじいスピードで迫るフルーの球に対応して動きを追随させると勢い良くバットを振りぬいた。


「ッ! ナメるなぁっ!」


【キィンッ!】


「「おおおぉ~!」」


甲子園でこだまする爽快な金属音が鳴り響き、打球はラインを割ることも無く練兵場の彼方へと吸い込まれていった。見事な先頭打者ホームランである。


練兵場に設けられた特設の観客席にいたギャラリーが、あまりの球速と、その剛速球を鮮やかに打ち返した様子にどっとどよめく。


「ちょっ! お前ら金属バットとかずるいぞ!」


その威力に面食らったフルーがマウンドから走り出し、相手チームの監督に食ってかかる。


近衛チームの、こちらも選手兼監督であるボッフェン家の次男カンプは涼しい顔をして応じる。


「うん? 何をキャンキャン吠えているのかね、この獣人君は? バットに用いる素材は木材でなければならない。というルールでもあるのかね?」


「それはプロ野球じゃ、あたりm・・・。ぐっ・・・、しまった・・・・書くの忘れた・・・。」


「書いておらんだろう? ほれ、君の作ったルールブックにもな。」


「ぐぬぬ! 悔しいが認めるしかねぇ・・・。 ハンっ!いいぜ、多少の小細工くらいなんでもねぇ!」


そういいつつ地団太を踏んでマウンドへ戻るフルー。


感心なことに彼らしくもなく、フルーは基本的なゲームのルールについて律儀にルールブックにまとめて両陣営に配っていた。


だが、彼の頭からはバットの素材などのゲーム進行以外の部分のガイドラインをまるっと抜けていた。


全てが前世で野球をやっていた彼にとっては当たり前すぎたので。


(しかし、この世界の住人はそんなことお構いなしなんだろうなぁ~。これは、どう扱うべきかな・・・。ここはウチの知恵袋に意見を聞くか・・・。)


「ターイム!」

 

そう宣言するとユーリアはマネージャー役として衛士チームのベンチに入っていたテルトを手招きして呼び寄せ、バッターボックスから少し距離をとると小声で会話をする。


マネージャーのはずなのだが、逆にチームからおもてなしを受けているらしく、クッキーをもそもそと食べながらユーリアのもとへやってきた。


そしてパクリと手に持っていたひとかけを放り込むと、首をかしげる。


「ユーリア、どうした?」


「あのさ、近衛チームの道具だけど、どう思う?」


「ん? あぁ、そういうことか。 ふむ・・・かなり金がかかっているな。」


水を向けるユーリアの会話の意図を察知したのかテルトが近衛チームの選手を指差しながら解説を始める。


「まずバット、たぶんあれはミスリル製。 多少の肉抜きはしても、この世界の技術レベルであんなに軽々と触れる金属バットが他の素材で作れるとは思えない・・・。」


「なるほど、金に糸目はつけいないってワケか。ほかには?」


「・・・相手サイドのベンチにローブ姿の女性がいるな。」


「? あぁ。 マネージャーだと思ってたけど違うのか?・・・まてよ? ローブってことはまさか・・・?」


「そう、そのまさか・・・。バッターボックスに立つ選手に肉体強化の魔法をかけてる・・・。」


「ドーピングか、エグイなぁ。」


そうしかめ面で言うユーリアだがテルトはかすかに苦笑するのみである。


「ルールでは禁止されていない・・・。 強化魔法を使えば、フルーの剛速球も強化された動体視力で追うことができるし、尋常じゃない球威のボールも押し負けずにホームランにできるという仕掛け・・・だと思う。 他にもグローブや、靴からも魔力を感じる。 おそらく補助魔法の効果のある一種のマジックアイテムだろうけど・・・。」


「えぇ・・・どんだけ金かけてるんだよドランズのチームは・・・。」


ミスリルのバットといい、魔道具の野球道具といい、近衛騎士団の名誉を守るために一体どれだけの金額がかかっているのか想像もつかない。


いつの間にか近衛チームは頭脳派プレーのエリート集団から、魔道具に、肉体強化まで何でもありのひたすら勝利の情熱を燃やす魔改造チームへと変わってしまったようだ。


2ヶ月の努力は地道な練習ではなく、そちらの方面へと向かったようである・・・。


特に巨大なスポンサーになりえるボッフェン家の次男カンプがチームにいたことが、その傾向に拍車をかけているようだ。



ちなみに衛士チームは端材で作った木製のバットに、靴もグローブも普通のレトロな野球道具である。


ナスネル家の後援もユニフォーム代くらいのようだ。


(まぁ、人外のパワー系獣人の球なんか見せられたらそうなるよなぁ・・・。)


ユーリアが同情を感じていると、そこへ近衛チームの選手の痺れを切らした声が聞こえてきた。


「おーい、主審! 試合再開はまだかね?」


「わかりましたー。もう終わります!」


その様子を見ながらテルトが可笑しそうに囁く。


「フフ、たぶんもうそろそろ強化魔法の効果が切れる・・・。」


「うーん、困ったなどうするべきか・・・。」


主審として悩むユーリアにテルトは飄々とした表情でこともなげに言う、


「主審。今回の件、そもそもは獣人化するなどという大人気ない前例を作ったフルーが悪い。 今回はこのままやらせてみるしかないとおもう・・・どう?」


「ふむ・・・それもそうだな、ありがとな、テルト!」


「うむ、ユーリアも主審、頑張ってくれ。」


そう二人で結論付けると、ユーリアは再び試合を再開させた。


***************************


「試合終了! 15対11で近衛ドラゴンズの勝利!」


「いやぁ、いい試合だったよウルブスの諸君! また私たちに花を持たせてくれ給えよ! ぬくくくくっ!」


「いやいや、いいって事よ! たまにはドラゴンズのやつらにも花を持たせてやらないと、やる気をなくされてもつまらないからなぁ! んぬぅおおおっ!」


「はいはい、続きはまた試合でね、ナスネルのマクス殿下も、ボッフェンの代理人の方もいらっしゃってるんだから自重自重。」


「「ぐぬぬっ!!」」


「やれやれ・・・。」


ユーリアが宣言する中、両チームのキャプテンは、表面上はクリーンに挨拶を交わすと、試合開始の時と同じように力の限り相手の手を握り、擦り付けそうなくらい額を突き合わせてお互いの健闘を称えあった(?)。


結局、試合は道具と自らを魔改造した近衛チームの勝利で終わった。


だがユーリアが心配したほどには得点差はつかなかった。


理由はいくつかある。


まず自分のストレートを完全に攻略されたと悟ったフルーが途中から突如として、カーブやスライダーなどの変化球を織り交ぜ始めた。


ストレートだけを警戒して対抗する訓練をしていた衛士チームは再び空振りが増え、思うように点が取れなくなったからである。


最初は手札を切らずに持ち球が剛速球のストレートだけと思い込ませる相変わらず大人げないフルーの作戦だ・・・。


さらに後半は強化魔法をかけていたドラゴンズチームのマネージャーの魔力が枯渇してしまい、魔道具も魔力を消耗し尽して、ただの高級な野球道具になってしまった。


だがフルーも連投と、走行守すべてに大車輪の活躍をのせいで途中からスタミナが切れてしまい、後半は互いのチーム同士の地力の勝負となった。


結果、『技対力』の様相を呈し、両チームの持ち味が発揮されるガチンコ勝負の接戦となり、観客を大いに沸かせることになったのであった。


この『エクストリーム野球』ともいうべき試合を観戦した人々は試合後に練兵場をあとにする道すがら口々にこう話していた。


「いやー『ヤキュウ』って面白いな!」


「今度ウチのギルド仲間でもチーム作ってやろうぜ!」


そんな声があちこちで聞かれるようになり、やがて王都では、職業ギルドを中心とした野球チームが次々と創設されることになる。


そしていわゆる実業団対抗のリーグのようなものが始まるのだ。


ちなみにこの試合の反省は無事に生かされ、フルーがとにかくも土台を築いたルールブックの大幅な改正が行われることとなった。


ボールやバット、シューズなどの道具のみならず、強化魔法や魔道具の使用などについても規制されることになったのである。


が、魔法が当たり前のこの世界にふさわしく、一部の魔道具や、魔法は規定内であれば使用可能と言う事になり、よりダイナミックなプレイが観客の目を楽しませることになっていく。


アメリカではラグビーがアメフトに進化したように、この世界では『野球』は魔法アリ、魔道具アリのエクストリームなスポーツである『ヤキュウ』として独自の発展を遂げていくことになる。


実業団チームには貴族や、商人、所属ギルドや、街区ごとのスポンサーが付き、市民は御贔屓のチームや、選手を見つけて応援へと駆けつける。


馬上槍の試合など貴族や騎士階級独占の競技に代わる、参加型のアクティヴな娯楽として人々の圧倒的な支持を集めていくのだった。


当初は同じギルド同士、階層同士のチームが多かったが、下層民のチームから強力な選手が多く排出されるようになると、人材の交流(要するに引き抜きあい)も盛んに行われるようになり、野球だけで食べていく選手や、下層民から脱出してスター選手へと登りつめる者も出てくる。


それはこの先何十年という長いスパンではあるが、確かに少しずつ縦社会、階級社会の王国の社会も少しずつ変わっていくひとつの契機となっていく・・・。


フルーが働きかけ、ウルブスとドラゴンズというたった2チームから始まった『ヤキュウ』はやがて人づてに、または王都の風物として『浮世絵』に描かれることにより王都を飛び出し、周辺都市や他国へも広まってゆくのだが、それはまた別の話である。


・・・補足しておくと、『試合中に獣人化することは禁止』という項目がフルー以外の全員の賛成でめでたくルールブックに書き加えられることになったことはいうまでもない。





お読みくださりありがとうございます。

これからも応援よろしくお願いします。m(__)m


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