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獣人フルーの『やきう道』(前編)

第一部、第二部加筆修正しました。

1~7、8~13(部)は舌足らずな文章が目立つため、これからも時間を見て修正していく予定です。

練兵場の広い敷地の中、近衛騎士団の面々と、衛士の面々が二列に向かいあって並んでいる。


人数は両陣営それぞれ15人ほどだろうか。


衛士の列にはフルーが一番先頭に立ち、近衛騎士の列にはボッフェン家の次男カンプ。


そしてその二つの列の端にユーリアとテルトは立っている。


「いやぁ、近衛の皆さん。今日も勝っちゃって悪いねぇ。」


両陣営が整列する中を真ん中に歩み出ながらフルーが満面の笑みを浮かべて手を差し出す。


「はっはっはっ、フルー君。 何を言うかと思えば。 今日こそは君のその生意気な牙をへし折ってやるからな。 せいぜい今のうちに犬らしく吠えておくことだ。」


表情だけは満面の笑みで答えたが近衛騎士代表のリーダーのこめかみには青筋が浮かび、眉の上あたりは痙攣している。


「ぐぬぬぬぬっ!! まぁ正々堂々勝負しようや! どうせオレらが勝つんだからな?」


「んぎぎぎぎっ!! 汚い手を使っても構わんのだよ? どうせ近衛が勝つのだから。」


そしてお互いに相手の手を握り潰さんばかりに力を込め、額をぐりぐりと押し付けあいながら、固い握手を交わした。


両陣営の火花が飛びそうな剣呑な場の雰囲気にユーリアとテルトだけがポツンと取り残されていた。


「なぁ、今から始まるのって・・・。」


「野球・・・のはずだが。」


「だよな、なんなんだ・・・このK人対H神よりも遥かに険悪な雰囲気は。」


ユーリアは戸惑い、場の雰囲気に引いていた。 


そう、今から始まるのはVシネばり武闘派同士の抗争でもなければ、衛士と騎士の模擬戦でもない。


『野球』


のはずである。


今日は一般市民をはじめ、三賢のうち、ナスネル家のマクス殿下、さらには槍のボッフェンの家からも代理人の貴族が見届け人として観覧に訪れている。


このゲームが言ってみれば異世界で初めて『衛士ウルブズ』対『近衛ドラゴンズ』の公の場で行われる野球の試合になるはずなのだ。


まぁ、それはどう転んでも間違いなくそうなるであろう、それはいい。


だが、事前にフルーから聞かされていた、


『近衛騎士団と衛士たちが親交を深める親善試合』


というフレンドリーでクリーンな雰囲気では全然ない。


(審判がいるっていうから来てみたけど、こりゃ聞いてた話と違うぞ・・・。)


早くも安請け合いをしたことを後悔しつつあるユーリアを無視してフルー率いる衛士チームが雄たけびをあげる。


「ッしゃぁー! お前ら! 近衛のお高く留まったお坊ちゃんたちの鼻っ柱をボキボキに折ってやろうぜ!」


「いわれるまでもねぇ! 衛士魂見せてやるぜっ!」


「いくぞーっ!」


「「「オオオオッ!!!」」」


衛士たちの職場では絶対に目にすることのない気合の入りようと、勝利に対する執念は並々ならぬものがある。


「まるでイタリア軍のような奴らだな・・・。」


テルトはそう一人ごちるのであった・・・。


********************


事の始まりは、ユーリアが騎士に叙任され、テルトが絵師として活動をはじめ、フルーだけが暇を持て余すということが多くなった半年ほど前からであった。


ユーリアは平和な王国にあって旬の時の人であり、一応騎士身分になったので出席を求められる行事なども多くなってきた。


テルトはテルトで、浮世絵工房の立ち上げから作品の制作活動まで忙しく立ち回るようになり、忙しい。


そして一人残された獣人フルーは最初こそユーリアの騎士としての公用の増加に伴い補佐官としての出勤日数が減ったことを幸いと、ゴロゴロして、食べて、寝て、ゴロゴロして、食べて、寝るという生活をエンジョイしていたが、次第にそれにも飽きてきた。


というかフルーの言うには、


『忙しい合間を縫うなり、サボるなりしてゴロゴロするから至福の時間なのであって、「ダラダラしてていいよ」、と言われてもなんか違う・・・。』


という事らしい。 


ピグリルさん辺りが聞いたら目を剥きそうな言いぐさである。


ともかく、前世で体育会系脳筋おバカであったフルーは野球部であり、前々からいつか野球をこの世界でもやってみたいという思いはあったらしい。


後日その話になったとき、


『じゃあなぜ今になって?』


とユーリアたちに問われてフルーは首を振りつつ、珍しく疲れた表情で言った。


「 獣人の里にいるときもやろうとはした・・・。けどな、無理だったんだよ。 アイツら転がるボールを見ると見境いがなくなるっていうかさぁ・・・。 とにかくボールを追いかけたがるし、一度ボールをキャッチしたら渡そうとしねー、そのまま追いかけっこになるんだよ・・・。しまいにはグローブじゃなくて口でキャッチしようとするし・・・。はぁ・・・、なんていうかゲームとして成立しねーんだ。」


「「なるほどねぇ・・・・。」」


そのフルーの語りがあまりに脳内再生が余裕過ぎて、ユーリアもテルトも何度も深く頷いたのであった・・・。


因みにフルー自身はその辺の『獣人の性』的な問題はどうなのか二人が尋ねたところ、本人が胸を張って言うには、


「ムズムズはするが我慢できるレベル。」


らしい。 


関心するべきところなのか、つっこむべきところなのか微妙だったので、それ以上二人はその件については追及しなかったが。


とにかくそうと決めてからフルーの行動は素早かった。


ひょっこり工房に顔を出すと、


「ねぇ、マグヌスのおっちゃん。 こーいうの作りたいんだけど誰か作れそうな人知らない?」


と気安くマグヌスのツテを頼り、皮革を扱う職人や槍などの木の柄を作り慣れている木工職人などをちゃっかり紹介してもらい、あっという間に野球道具一式を製作してもらった。


甘え上手な性格で、某アイドル集団のように工房でどうしても出でてしまう廃材や、端材をちゃっかりもらい受け、材料持ち込みで安く作って貰う。


そしてこれまた『なぜか』、『いつも』暇を持て余している衛士連中を誘って野球を始めたのである。


普段の調子ならまともに試合のできるチーム作りなどできるのか、疑問に思うところだがフルーは意外なリーダーシップを発揮した。


前世では少年野球時代はキャプテンをやっていた経験もあるらしく、意外に根気よく指導し、衛士たちは暇を持て余していただけにみるみる野球へのめりこんでいた。


ただし、その指導方法と言えば、


「いいか? こう球が【グワッ】とくるだろ? そしたらバットを【ブォン】って振って【パーン】と打つんだよ!」


「なるほどな! 【グワッ】、【ブォン】、【パーン】だな! 」


という某K軍の某伝説の打者のようなフワッとしたフィーリング命の指導だったが、これが結果的に傭兵出身の衛士たちには好評だった。


考えてみればこれは意外でも何でもなく、傭兵の信条は『習うより慣れろ』であり、理論派がいるはずもないのでこの直感型の指導は彼らの性にとてもあっていたのである。


そして意外にも衛士たちの仕事ぶりにも改善が見られた。


「「「ネガイシャーッス」」」


「だめだ、もっとハキハキ元気よくっ!」


「「「ッカレッシター!」」」」


「グラウンドに入るときの礼は気持ちをこめて大きな声でっ!」


フルーは練習の際部活的な声出しのコミュニケーションや、メリハリのある体育会系独特のノリにも拘った。


その連帯感や規律が少しずつ職場でも発揮されるようになり、巡察もトレーニングの一環、自主練習の一部のように捉える衛士も出てきて、規律正しくキビキビ働く衛士が増えてきたのである。


そして何よりも業務に励むようになった最大の理由は、


『もし衛士の任務にケチをつけられて、野球ができなくなったらヤダ。』


というある意味、


『部活に打ち込みたいから、怒られない程度に定期テストで頑張る。』


という男子学生とよく似たメンタルが作用していたのである。


規律正しく、キビキビハキハキとした体育会系デビューを果たした衛士たち。


概ね市民たちには好意的に迎えられたが、その様子に首を傾げ、不審の目を向ける者達がいた。


そう、近衛騎士団である・・・。

お読みくださりありがとうございます。

テルトが目立つ回が多いので、フルーにたまには頑張ってもらうことにしました。

皆様の応援や、感想など楽しみにお待ちしておりますm(__)m

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