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騎士誕生?! 馬子にも衣装の叙任式

ゲラントから戻って半月、そしてユーリアが名誉騎士の称号を(無理やり)授けられてからも半月余り、ユーリアの周辺は未だざわついていた。


なぜなら、ナスネル家のお茶会に呼ばれた数日後、国王の名で新たな名誉騎士の発表があり、叙任式が執り行われることになったからである。


しかし、ここで思わぬ問題が発生した。 


ユーリアは代々由緒正しい(?)平民の出身なので、騎士の叙任式に身に着ける正装など持ち合わせていなかったのである。


慌てたのはむしろユーリアより、その上司のピグリルである。


「なにいっ!! 叙任式に着ていく正装がないだと! そんな馬鹿な!!」


「いや、馬鹿なっていわれても・・・。うちは代々平民ですから。あの~、一応聞きますけど審査官の制服とかじゃ・・・駄目ですかね?」


半笑いで言うユーリアにピグリルが白目を剥いて仰け反りかけると、急激に覚醒した。


「駄目にきまっとるだろう!」


「ひぇ、、、」


何を考えとるのかね君は! しっかりしてくれ!」


『くわっ!』と目を見開くとユーリアの両肩を掴むピグリル、目が怖い。


「で、ですよねー。ハハハ。」


「まったく・・・。すぐにマグヌス氏に相談したまえ。 家紋はあるのだろうね?」


「えっ、無いですよ? 平民なので・・・。」


「?! なんと言う事だ・・・。」


天を仰ぎかけたピグリルさんを見てユーリアは思い出した。


「あっ! でもマクス殿下が『これをつかいなよー』ってくれた物があるんですけど・・・。」


ユーリアが懐から丸められた羊皮紙を取り出すと、ナスネル家からのものだからなのか勢いとは裏腹に慎重に手に取り広げるピグリルさん。


「なにっ!? それを早くいいなさいっ! どれどれ拝見するぞ・・・ユーリア君・・・これは凄い・・・。」


無言のまま食い入るように見つめたあと、絞り出すような声で言った。


「? あぁ、かっこいいですよね!」


のほほんっと返すユーリアにまたまた


【くわっ!】


とピグリルさんの目が見開かれる。


「 ちがう!! いいかねっ?! これはっ! 三ツ矢の紋章だろう! 」


「えっ? ちがうんですか! なんかすいません・・・。 そ、そうだと思いますけど? 」


「 しかも3本だ。 」 


「 ?はぁ・・・えーと、それはつまり?」


全く話が通じないのを理解してピグリルさんは却って落ち着きを取り戻したらしく、丁寧にユーリアに説明し始めた。


「はぁ・・・済まない、私も少し興奮してしまったよ。いいかね、私の解釈が間違っていなければこれはナスネルの矢の象徴であると同時に、三賢の暗示だよ。」


「えっ!?」


「 あぁ・・・そしておそらく君たち3人の象徴でもある。 どうやらナスネル家は余程ユーリア君たちにご執心らしいな。 」


「そ、そそ、そうですか・・・。それはまためんd・・・ありがたいですよねー。」


「、、、やれやれ、君らしいというか何というか・・・。」


貰ったことも忘れかけるくらいのユーリアは、ピグリルさんに指摘されその重要さにやっと気づき、ピグリルさんがそのリアクションを見てまた呆れる。 


どうもこのあたりの感覚に関してはユーリアもフルーと大差ないレベルのようだ。


「とにかく、この図案を元にサーコートを仕立て、騎士の装具一式も準備したまえ!

必要なものは私が今から書き記して渡す。急がなければな、とにかく時間が無い。」


そう言いながら執務室の羊皮紙を一枚無造作に手繰るとサラサラと何やら書き付けていく。


「はっ、はい! すみません・・・、世間知らずで。 いろいろとお気遣い頂いて、ありがとうございます。」


素直に恐縮するユーリアに呆れの顔に可笑しげな笑みを浮かべて筆を走らせる。


「ふふっ、構わんよ。 私もおこぼれで『ナスネルの矢』などという大変名誉な称号を手にすることができた。」


「しかしそれはピグリル様ご自身の・・・」」


上司の常にない自嘲気味な発言を、慌ててフォローしようとするユーリアを遮ってピグリルは続ける。


「まぁ最後まで聞け。別に嫌味を言おうというのではない。そしてな、これはまだ内示だが、先々代の不始末により召し上げられていた領地も返還されるらしい。これ我が家、我が先祖に対する面目も十分に果たしたと胸を張れる。」


筆を置き、少しだけ感慨深げな表情を浮かべるピグリル。


「?!それはおめでとうございます!しかしそれはピグリル様の働きが評価されたのでしょう。」


勿論フォローの気持ちはあるが、ユーリアは真面目で事務処理能力もある上司の事を素直に尊敬していた。


それはユーリアの偽らざる気持でもあった


「・・・そうだな、私も私なりに職務に精励してきたし、この国や、審査官庁を司るナスネル家に忠実であろうと努力してきた。 であるから半分は自分の力だと思っている。 しかし半分は・・・、君に感謝しているよ。」


貧乏男爵家の3男から審査副管長の座にまで登り、自家の旧領を回復しようとしている男には穏やかな笑みがあった。


「私も・・・ピグリル様のような心の広い方が上司で幸運だったと思います。」


「ふっ、そうかも知れぬな。であればお互いに感謝の気持ちを忘れぬということでよいではないか。 これからは同じ騎士同士、よろしく頼む。」


ピグリルさんが手を差し出してくる。


「いえいえっ! ピグリル様は私の上司ですから!」


そう言いながらユーリアは慌ててその手を取る。


部下に嫉妬しない、理解のある上司は黄金より貴重だ、ユーリアはそう思っていた。


「そうだな、せいぜい敬ってもらうとしよう。 さぁ、これに書き付けた。早く行きたまえ。 マグヌス殿にもくれぐれも宜しくな。」


手を放すとピグリルは手早く羊皮紙を丸めユーリアへと差し出す。


「はっ!では・・・。」


そう返礼をして退出すると、ユーリアは小走りでマグヌス氏の工房へと向かった。


********************


工房の入り繰りまで来ると既にシュタルフさんが来ることを予期していたように待ち構えていた。


「ユーリア様、この度はおめでとうございます。そろそろ来るころではないかとマグヌス様が申しておりました。 こちらへ。」


そう言われいつもの通り黒いドーム状のアトリエまで通される。


そこにはマグヌスさんがやはり待ち構えていた。


「マグヌスさん! これをピグリル様からお渡しするようにと預かりました。」


「おぉーまっとったぞ。 ふむふむ、あの苦労人の男らしいこまごま行き届いた注文じゃの。わかった、任せておけ。 叙任式までには間に合わせてやるわい!」


胸をどんと叩いて威勢よく請け負うマグヌスさんにふと不安になったことをユーリアは聞いてみた。


「それで・・・・予算のほうはどのくらいかかりますか?」


「そうじゃなぁ、金貨5百枚ほどかの!」 


そう軽く答える。


「えっ?! ご、ごひゃく・・・。実はまだマクダーナルの事業資金が回収できていないので、余り手持ちが・・・。」


そう、初期投資に思ったよりカネがかかり、ユーリアはそれまで溜めていた資金を手出ししていた。


事業自体は好調なものの、いまだ資金は回収するまでには至っていない。そして収入は審査官であるので平均水準よりはかなり良いとは言え、たかが知れている。


要するに、ない袖は振れないのだ。


「だぁーっ! みなまでいうな! わかっとる! 餞別代りにくれてやるわい!」


「ほんとですか!その・・・」


太っ腹な発言をするマグヌスさんに感謝しようとしたその時、鼻先に勢いよくマグヌスさんのゴツゴツした指が突きつけられる。


「ただぁし! その代わりわしの好きにやらせてもらうぞ?!」


ニヤリと笑みを浮かべるマグヌスさん。正直悪い予感しかしない。


「えっ、ちょっとそれは不安な気が・・・。」


「ほぉ~? じゃあ金貨五百枚きっちり払ってもらうが、ええんじゃな?」


引きつった笑みで抵抗を試みたがやはりここでもユーリアに選択の余地は残されていなかった。


「うっ・・・、すみません・・・お任せで・・・お願いします。」


「うむっ! 最初から素直にそういえばええんじゃ! 腕が鳴るわいっ!」


どうせ選択の余地のないユーリアは開き直って、なるようになれとばかりすべて状況に委ねることにしたのだった・・・。



因みに、のちに500枚は明らかに話を盛りすぎである事をユーリアは知るが後の祭りであった。


『金貨500枚』と言うのはマグヌスのやりたいようにやった場合のプレミアム価格の事を指していたのである。


冷静に考えて見ればそこそこの貴族の家柄でも金貨500枚などおいそれと出せる金額ではない。


だがもちろん、優れた経営者でもあるマグヌス氏は格好の広告塔にそれを明かすほどお人好しではなかっただけである・・・。


*******************************


そして叙任式当日、


王宮の黄の広間にはナスネル家の特別な計らいで、テルトと、フルーは勿論、ジュトスと母のユナ、そして弟のジェイガンも広間の端にではあるが列席を許される中、厳かに行われた。


黄の広間に設けられた玉座の前で王が階の上に立ち、剣を階下に跪いたユーリアの肩に当てながら厳かに告げる。


「汝、ユーリア・アシュールをガリア国王モナドの名に於いて名誉騎士に任ずる。竜の加護のあらんことを・・・。」


「ガリアの騎士の名に恥じぬよう、その剣に王への忠誠を誓います。」


練習の甲斐あって、ユーリアは何とか噛まずにはっきりと、王の言葉に答えることができた。


広間の端、その様子を見ながら人目もはばからず泣く一人の男。


「かぁさん・・・、ユーリアが、ユーリアが騎士に、騎士になるなんてなぁ~。うううっ・・・。(ズズッ)」


「そうねぇ、良かったわねぇ。 あなたの夢をかなえてくれたじゃない。」


「うん、良かった、良かったよ・・・。騎士になったんだよ? 母さん? (ズルズルッ)」


「はいはい、わかってますよ。 ほらちゃんと涙を拭いて、お鼻かんでくださいな。ユーリアの晴れ姿を見てあげないと。」


「(ちーんっ!ずびびっ!) だめだ、涙で前がみえねぇ・・・。」


「あらあら、おとうさんたらぁ・・・。」


父ジュトスは式の最初から最後まで泣き通しであった。 そしてそれを宥めながらも、母のユナも目にうっすらと涙をにじませていた。


そんな身内のフィルターを抜きにしても、ユーリアの騎士姿は素晴らしかった・・・、主に衣装が。


馬子にも衣装のそれは見本のような光景であった。


工房に出入りする装具屋お抱えの針子を総動員して縫い取ったであろうサーコートはナスネル家を象徴する光沢ある黄の布地に、三ツ矢の交錯する様が立体的に表現されており、その周りにも細かな装飾が施されている。


そして何より目立つのが白亜のチェインメイルと同色に統一されたネトゲのユニーク装備のような装具一式である。


まるで騎士物語の竜の加護を受けた聖騎士のような姿に列席した騎士達や、貴族連中は息を呑んだ。


そして彼らにはその眩くも美しい装具一式が強く印象に残り、その後も事あるごとに話題に上り、マグヌスの工房の名声をいやがうえにも高めることになった。


そして、その話の終わりに決まって誰かがこういうのである。


「あれ? そういえばユーリアってどんな顔のヤツだっけ?」


と・・・。


このマグヌスプレゼンツのショーイベントが大成功に終わり、マグヌスさんの工房が今まで以上の活況を呈するのはまた別の話。


こうしてユーリアは本人以外の大多数に祝福され、名誉騎士となった。


お読みくださりありがとうございます。

着々と権力に取り込まれておりますw 愛されているとも言えますが。

これからも拙作ですが。 応援よろしくお願いいたします。




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