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帰還報告(後編) ユーリア、名誉騎士になる

今回はいちおう日中、しかも公的な用事であったので、門を守る衛士(街の『衛士(哀しみ)』などではなく、ナスネル家直属のエリートさんである。』)に取次ぎを頼む。


そして正門から堂々と要塞のようなナスネル家の門を潜ると、ヒックスさんが柔和な笑みを浮かべて待っていた。


「ご無沙汰しております。 ユーリア様、テルト様、フルー様。 クライバー様の名代としてマクス様がお待ちでございます。 こちらへどうぞ。」


そういうとそのままユーリアたちを中庭へと案内する。


中庭は外からは塀の上からでも伺うことができない場所にあり、しかも屋敷の中にあるとは思えないほど広かった。 手入れが行き届き、初夏を迎えようとしている庭には様々な花々や緑豊かな植物が生い茂っている。


「うわっ! すげぇな! 屋敷の中にこんな庭があんのかよ!! ぐむっ!」


そういって庭へ駆け出そうとするフルーの襟首をつかむユーリア。


「フルー走らないっ! すみませんヒックスさん・・・。」


「いえいえ、リタや帝国、更には南のポリネーから取り寄せて植えたものもございます。 温室で育つポリネー原産のレジン(マンゴーのような果実)などは今が旬です。 さて? もうそろそろくるはずですが。」


無邪気に喜ぶフルーの態度に気を悪くした風でもなくニコニコとしながら言うヒックスさん。


「?」


3人がその意味を図りかねていると、ナスネル家の使用人たちが幾人も現れ、中庭に置かれたテーブルの上に次々と銀食器を並べてゆく。


茶器に続いて姿を現したのは大量の茶菓子だ。


大皿の上に並べられているのは、サンドイッチや、パテを乗せたクラッカーなどの軽食や、この世界では珍しい砂糖と卵をふんだんに使ったケーキ。


流石に生クリームを使ったものはないが、市井でもたまに見かけるパウンドケーキのようなものから、タルトや、パイなどありとあらゆる菓子。


それに加えて、先ほどヒックスさんが言っていたレジンなど季節の果物も別の皿に行儀良く盛り付けられている。


「ここは・・・ここは天国か・・・。」


その光景を目の当たりにして今度はテルトの挙動が怪しくなってきた。


「テルト、まだだぞ。 一応言っておくが。」


「う、うむ。わかっている、わかっているぞ・・・。」


夢遊病者のようにテーブルに引き寄せられていた足を止め、そう言いながらもテルトの視線は茶菓子の皿から固定されて離れない。


手は何かを求めるようにせわしなく閉じたり、開いたりを繰り返している。


「うおおっ! これはうまそうじゃん!!」


フルーも庭への興味など完全に吹き飛んだらしく目の前のテーブルに視線は釘付けである。


(だめだ、二人とも、長くはもたないっ!・・・。)


ユーリアが焦りはじめたそのとき、


「 いやー。 おかえりなさい! 大変だったねー! 」


そうヘラヘラと笑いながらマクス殿下が使用人たちが頭を垂れるなか平服で姿を現す。


「マクス殿下、このたびは・・・。」


「やめてよー、そういうのはナシにしたいからこういう場にしたんだ♪さぁ掛けて掛けて。」


平伏しかけるユーリアを遮ってマクスは言うと、使用人に引かれた椅子に腰掛け、ユーリアたちにも着席を促す。


「 じゃあ、ユーリアさんたちの無事生還を祝して! 」


マクスが音頭をとり、午後のお茶会がはじまった。


************************


それから暫しの時間が経ち、苦しそうにお腹をさするテルトとフルーの二人の傍らで、ユーリアはやっとマクス殿下に事の顛末を報告し終えていた。


ちなみにユーリアは緊張と、まったく喋らずにひたすら出されたモノを片端から腹に収めていく二人の分まで喋り通しだったので、お茶で口を湿した程度。


お茶会とは言いながら、軽食や菓子には殆ど手をつけられていなかった、哀れである・・・。


「なるほどねー。 」


マクスはユーリアの話に相槌を打ちながらも要領よく、菓子や軽食を器用に口に運び。今は口直しにティーカップに優雅に口をつけている。


「っていうことはー、獣人くん3人は結局助かったんだねー。」


「えぇ、ゲラントの開放にあたって功績がありましたし、まだ若い彼らを処刑してせっかく友好な関係にある獣人の里との不和を引き起こすのも得策では無いとビンスキー様は判断されたようです。」


「そうだねー。 まっ、裏で糸を引いていた『犯人』はきっちり処刑されたみたいだし。 なかなかユーリアさんの説明も、ビンスキーさんの報告書も『良くできている』と思うよー。」


「?!」


(恐ろしい坊ちゃんだな・・・。作文も、口裏合わせも、完全にバレてるなこりゃ・・・。)


ユーリアは変な汗が背中を流れるのを自覚しながら、ぎこちなく頭を下げた。


「・・・はっ、お褒めにあずかり、光栄です・・・。」


「もぉ~! だからそんなに固くならないでよ。 自分も大まかな方針はそれでいいと思うよ? ユーリアさんらしいと思うし。 そのあたりをビンスキーさんも買ってるんじゃないかな?『誠実な人柄と、得がたい部下を持つ優れた資質の調査官に相応に報いて頂きますよう』ってわざわざ書いてあるからねー」


「きょ、恐縮です・・・。」


(ちょ、ビンスキーさん、聞いてないんですけどっ?! マクスさんも報いてくれなくていいよ! 報いてくれなくて良いからねっ?!)


「というわけでユーリアさん達にはこれをあげるー。」


「えっ?」


手をあげて合図すると、いきなりの展開に戸惑うユーリアに壁際に控えていたヒックスさんが装飾の施された木箱を捧げもって現れた。


中を開き、それをマクスの手元まで差し出すとマクスが軽い仕草でひょいひょいと中身を取り出して光沢のある布に収められた細長い物を三人の前に並べていく。


慌ててユーリアがヒザをペシペシ叩き、ようやく居住まいを正したフルーとテルトもまじまじとそれを見つめる。


「じゃあ中を開けてみてよ。」


促され3人が中を開くと。


「げっ!」


「ほぅ・・・。」


「ふーん。」


思わず出てはいけない声が漏れ、自分で口をふさぐユーリアと、感心したようなテルト、全く興味なさそうなフルーという3者3様のリアクションの視線の先にあったのは、ナスネル家の紋章入りの小刀。


「いやー、ナスネルの矢は一応中級官吏以上の身分でないとあげられないからねぇ。今回は何かテルトさんとフルーさんにもできないかなーって思ってね。」


「マクス殿下、ナスネル家は私たちを取り込む気満々のようですね。」


「いやぁ~。やっぱりそう思う? だって君たち掘り出し物の物件なんだもん。今回も下手をすれば地域的な紛争になるか、悪くすると帝国との戦争の火種に発展する可能性もあったんだからねぇ。 それを3人で収集するなんてお見事としか言いようがないよ。」


ぽつりと言ってジト目で睨むテルトに悪びれた様子もなく、後頭部をポリポリと掻きながら返すマクス。


「えぇ、いささか露骨すぎます。 ただ、拒否することもできないのも事実ですが。」


そう今度は薄く笑いを浮かべて言うテルト。


「そう言うことだねー。 まぁあって困るモノでもないし、貰っておいてよ。君たちが困ったときは後ろ盾としてチラつかせるといいさ。 ウチとしてもヘタな使い方はしないと踏んだから渡したわけだし。」


「分かりました。 お気持ち、有り難く頂戴します。」


「私も、ありがたく・・・。」


「じゃあ俺ももらっとこー。」


テルトに続いて力なく呟くユーリアと事の重大さに全く気付かずノー天気なフルー、その3人の顔を満足気に見ていたマクスにヒックスさんが囁いた。


「坊ちゃま、今一つお忘れ物が。」


「あっ! そーだった。 これは当主のクライバ―ナスネルから直々にユーリアさんにって事だったんだ。 じゃあ、読むねー。」


(えっ?! クライバ―・ナスネル直々のお言葉か・・・。 これ以上持ち上げられても本当に困るんだけど・・・。)


胸中で思いながらユーリアは分別のある社会人なので表向きは畏まる。


「・・・はっ。 謹んで拝聴いたします。」


「おーっ! 素直でいいねぇ。はい、読みまーす。


『クライバー・ナスネルはその権能により、ユーリアにナスネル家に連なる者として名誉騎士の称号を授ける。また、名誉騎士を名乗るにあたって、ナスネル家に忠節を尽くした家名であるアシュールの姓を与えるものとする。今後なお忠勤に励むことを期待する。 以上 』


だって! おめでと―! パチパチパチ!」


至極軽薄なトーンで口で言いつつ、同時に手でも拍手を始めるマクス。


「 えっ? ええええええええっ!? 」


「おめでとうございます。 ユーリア様!」


「すげぇな! 騎士様じゃん!」


「ふむぅー、コレはいよいよ権力に取り込まれつつあるな、ユーリア。 毒食わば皿まで、だぞ。」


控えていたヒックスさんが紳士的な笑みで言い、フルーが名誉騎士のフレーズに反応して無邪気に騒ぎ、テルトがその毒のある論評の割には嬉しそうに拍手している中で、ユーリアだけが固まっている。


そして、一拍ののち、錆びついた蛇口から絞り出すようなぎこちない声で


「あ、あのーもしかして、その、じたぃ・・・」


「いやーそれは無理。だって当主直々の信任だもん。っていうかもう王宮には届けてあるし。」


「・・・ですよねー。」 


何か言いかけたユーリアの言葉は即座に打ち消され霧散した。


こうなれば道は一つしか残されていない。


「ありがたく拝命いたします。うっうっうっ・・・。」


『大人しく従う』の一択である。


「いや、そう言ってくれて僕も嬉しいよー。めでたしめでたしだねぇー。」


「おぉ、ユーリア殿が泣いていらっしゃる。 よほど感極まったのでしょうなぁ。」


「そりゃそうだよー、だって騎士だぜ~? すっげぇよ!」


「ちょっと違うと思う・・・。でも、指揮官として箔がつくのは良いこと。」


そんなマルクの嘆きをよそに、皆は口々に祝福の言葉を告げる。


その日の翌日、王宮からの交付がなされ、前代未聞の平民出身の王都審査官にして名誉騎士という異色の人事の話題に、しばし王都は持ちきりとなることになるのであった・・・。

お読みくださりありがとうございます。

平凡に生きたいという願いとは裏腹に、段々平凡から離れていきます。 いや、最初からか?

皆さんの応援よろしくお願いいたします。 感想などお気軽にお寄せ下さいm(__)m

今のところは100%お返事させて頂きます。

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