帰還報告(前編) マグヌス工房の売れ筋商品
ビンスキーの館を訪れてから3日後、ユーリアたちはようやく帰国の途に就いた。
もともと細々と運営されていた鉱山の魔鉱石は帝国との間を往還する馬車によってあらかた持ち去られており、採掘と鉱石の選別に多少の時間がかかったからである。
自治領から貸し出された馬車に鉱石を載せ、パテ村で積み替えてから来た時と同じく半月の時間をかけて王都アルドラへと帰還した。
都合一か月半余りの時間は長かったような短かったような、そんな日々だった。
先に途中の宿場町から先行させておいた早馬の知らせで簡単な事の顛末と帰還を知らせてあるので、上司のピグリルさんや、マスク殿下をはじめ関係者はユーリアの帰還を知っているはずだ。
だが、ユーリアたちが帰還したと聞いて真っ先に飛んできたのは上司のピグリルではなく、勿論マクス殿下でもなく・・・。
「お~い! お~い! ユーリア殿か?!」
一応形ばかりの審査を街門で受け、潜り抜けた直後、横合いの低い位置から突然声が響く。
「おおっ! 遅いぞお主たち! もう待ちくたびれわい! 魔鉱石、魔鉱石はあるのか!?」
「えっ?! ちょっとマグヌスさん?! ありますけど・・・って!・・・どんだけなんですか。」
びっくりして眼下に目をやるユーリアに言うが早いか意外に軽快に御者台に飛び乗る。
そして無造作に荷馬車へ入っていくマグヌスさん。
「うおっ?! なんだこのジジイ! ってかマグヌスさんじゃん?!」
「!? マグヌス技師。」
「おおっ! いいぞいいぞ! なかなか良い石ばかりを選んでおるではないか。 これなら選別の手間は省けそうじゃ! おい、ユーリア君さっそくで悪いが、このまま工房へやってくれ! 魔鉱石が手に入らんせいで依頼がつまっとるんじゃ!」
いきなりのドワーフ乱入に混乱する二人を完全に無視して鉱石の入った麻袋を漁ると、品定めをするなり、再び御者台の方に顔をぬっと出すとユーリアにそう告げる。
『悪いが』とか言いつつ、相変わらず悪びれた様子はなく、完全に確定事項である。
「・・・えぇ、わかりました、わかりましたから。 ちょっと落ち着いて下さい。」
「おおっ! 助かるわい!」
(本来の筋としては、ピグリルさんとマクス殿下に最初に復命しなきゃいけないんだろうけど。 今のマグヌスさんにそんな理屈は通用しないよなぁ・・・。)
諦めて苦笑を浮かべつつ、ユーリアは工房へとそのまま馬車を操っていく。
工房に着くとすでに木炭や、鉱石を運んでいた人足の人たちが待機しており馬車からたちまち魔鉱石の入った麻袋を手際良く工房の奥マグヌスさんのアトリエへと運んでいった。
「いやぁー助かったわい。 これは駄賃じゃ!」
それを見届けながら、小さいがずしりと持ち重りのする皮袋をユーリアに無造作に差し出してくる。
「えっ?! いや、ちゃんとお給金も出ますし、そのようなことは・・・」
「ごちゃごちゃいっとらんで貰っておくもんじゃ。 のう、獣人の?」
「そうそう、じんさん太っ腹! えーっと、いててっ!」
そういいながら勝手に受け取ると何枚あるのか気になるのだろう、目の前で皮袋を開いて数えようとしたのでさすがに足を踏んづけてやめさせる。
「すみません、フルーの奴が勝手に! では、ありがたく頂戴いたします。」
ユーリアとテルトは頭を下げる。
「よいよい、納期が間に合いそうじゃからな! その損失に比べれば安いもんじゃ!」
この世界でももちろん賄賂や、収賄などの不正は罪だが、この程度の心づけは罪にはあたらない。
理屈ではわかってはいるが前世の倣いか抵抗を感じるユーリア。
対してフルーといえば、じいちゃんから小遣いをせしめた孫のごとき気安さである。
これがキャラと言うものか・・・。
呆れ半分関心半分でなんともいえない表情でフルーを見つめるユーリアの脇からテルトがちょこんと顔をのぞかせてマグヌスさんに深々と頭を下げる。
「マグヌス殿、マグヌス殿や工房に出入りされる職人の方々に作っていただいた、道具や魔道具は大変役に立ちました。 ありがとうございます。」
「おおっ?! そうか? 珍妙な品々が多かったゆえ、わしも首をかしげながら作ったもんじゃが、役に立ったなら何よりじゃ。 また今度ゆっくり話を聞かせてくれ。 」
「はい、いずれまた、改めて。」
「うむ、うむ。」
律儀に頭を下げるテルトにまんざらでもない様子のマグヌスさん。 自分の手がけたものが役に立ったといわれて喜ばない職人はいない。
「あのーマグヌスさん?」
「ん?なんじゃねユーリア君?」
フルーに持たせていては不安しかないので、あとで分配しようと皮袋を自分の懐にしまいながら、ユーリアもふと思いついた疑問をマグヌスさんに聞いてみることにした。
「マグヌスさん、テルトに聞くところによると、魔鉱石は一般にはまだあまり需要のない鉱石のようですが、マグヌスさんの工房では頻繁に用いるものなのですか?」
「いいところに気がつくのうお主。 無論ワシの工房とて大量生産武具や一般の工房ではほぼ使用しとらん。 使うのはワシの工房が主じゃな。」
「というと?」
マグヌスさんの顔はなぜか少し苦々しげだ。
「お前さんも見たろう? ワシの工房にあった武具たちを。」
そういわれてユーリアも思い出した。 工房の中に並んでいたバリアのような膜の光る盾や、天使の翼のような羽の生えた甲冑や、禍々しい赤黒いオーラの立ち上る頭蓋骨の兜などを。
「?・・・あー、あの厨n、ゴホン。 ちょーっと奇抜な武具のことですね?」
取り繕っていうと、マグヌスさんはやや自嘲気味な笑みを浮かべる。
「ハッ! そう言葉を濁さんでも良い。 ありゃあな、貴族や、偉い騎士様の御用達の品なんじゃ。 以前魔鉱石と魔石を組み合わせて、戯れに作ってみたんじゃが、これが何故か好評でなぁ。」
「はぁ~なるほど。 さぞかし性能もすごいんでしょうねぇ・・・。」
「うん? 何をいっとるんじゃお主。そんな訳なかろうが。光っておるからといって何の加護もなければ、別に呪われておる訳でも、ましてや空を飛べるわけでもないぞ。」
「えっ?・・・」
感心しつついうユーリアに、あっさりと返すマグヌスさん。
「もしかして・・・あれは単なる・・・飾り?」
「そーじゃ。ウチの工房で鍛えた以上、並みの武具より質がいいのは間違いないがな。古代文明の遺跡で発見されたものや、上位の精霊や竜族の元にあった装備などは自然と加護が宿り、あのような見た目になるものもあるが、そもそも数が少ないのでのう・・・。 それにじゃ、鎧や兜など、大きさが合わねばどうにもならん。そうじゃろ?」
「なるほど・・・。貴族や騎士様にはそういった趣味をお持ちの方が多いのですか?」
「多いのぅ、みな小さいころから英雄譚や、建国の王と三賢と竜にまつわる物語を聞いて育っているからのう。魔法の武器や防具に一度は憧れる、というのも無理もないことかもしれんのう。」
顎鬚をしごきながらいうマグヌスさん。
「う~ん。完全に趣味の世界ですね・・・。」
「まぁ、中には士気を鼓舞するような場面で演出として用いたり、敵を威圧する為に用いる・・・という具合に用いる場合もあるようじゃが。 まぁ、財産を管理する家人に対するいい訳みたいなもんじゃろうよ。 とても、とても、その制作費とは引き合わんだろうて。 嬢ちゃんの『戦車』とやらといい勝負じゃ、道楽じゃよ、道楽。フォッフォッフォッ!」
「な、なるほど・・・。」
自分には一生縁のない世界を覗いた気がしたマルクは改めてマグヌスさんに礼を述べると、そのまま足を審査官の詰め所へと向かった。
*******************************
「失礼します・・・。」
そう言って審査副官長の執務室に入ると、書類の山の向こう側にいて姿の見えなかった上司のピグリルさんが、
【ガバッ!】
と立ち上がると。両手を開きながら大げさな仕草でこちらへと向かってくると、ユーリアの手を取ってブンブンと振りはじめた。
「おおっ! ユーリア君戻ったか!」
「は、はい、おかげさまで。長い間留守にしてしまい申し訳ありませんでした・・・。」
「なにをいっとるんだね?! 審査官の仕事なぞ!早馬で届いた報告書は私も読ませてもらった。聞けば帝国の陰謀だったそうではないか! ナスネル家のクライバー様の名代であるマクス殿下も大層お喜びであったぞ。 いつでも構わぬから復命に館まで来るように申し付かっておる。早速行きたまえ、さぁ早く!」
歓迎されていたと思ったら、今度は急かすようにユーリアたちを戸口へと押しやるピグリル男爵。
「えっ? えーと、すぐですか? 」
「当たり前だろう! いつでもとは『可能な限り早く』という意味に決まっておる! 職場の復帰手続きなどは私が万事やっておくから気にするな。 さぁ行きたまえ!」
「わっ、わかりました。失礼します・・・。」
そうして慌しくピグリル男爵の元をあとにすると今度はそのまま慌しく、『公式には』初めての訪問であるナスネル邸へ報告へ向かった。
お読みくださりありがとうございます。
よくゲームの初回特典で配布される、見た目はかっこいいけど低スペックな装備のイメージですねw
感想や評価などぜひお寄せください。 お待ちしております。




