自治領主ビンスキー
これにて調査官編は終了です。 一話閑話を挟んで、また王都に舞台を移します。
その後、ユーリアたちはゲラントの町でユーリアたちは自治領主のビンスキーをはじめ、町の人々の熱烈な歓迎を受けた。
獣人3人が復讐の標的になることをユーリア達はは警戒していたので、ユーリアは帝国の策謀(テルトの推論だが)についてやや帝国側の悪意をわざと強調して語り、心を入れ替え自治領の解放に協力したという実績もややオーバーに宣伝することにした。
その結果、ダール達は好意的・・・、と言わないまでも、概ね自治領の人たちに同情的に迎えられた。
獣人とは言え、見た目は年長のダールでさえまだ幼さの残る顔であり、また威圧的になる監視役たちからしばしば市民たちを護るなど、『隊長』の言いつけを愚直に守る『忠犬』ぶりを発揮していたことも随分心象にプラスに働いたようだ。
そして宴の翌朝、領主の館に呼ばれたユーリアたちは改めて、獣人3人の寛大な処置を求めるべく自治領主ビンスキーの館を訪れていた。
王国の半属領のような関係であっても小なりとはいえここは自治領である、ダール、ルフ、ゾフの扱いは自治領主に一任されていると言ってよかった。
3人が町に戻った時点で、すぐに身柄の引き渡しを求められても仕方のない立場だが今のところユーリアの手元に3人がいることを黙認してくれている。
これを好意のサインと理解したユーリアとテルトは相談の上、自分たちから自治領主のもとに乗り込むことにしたのだ。
「・・・以上の事からここに居ります3人は若い未熟さゆえ、帝国の策謀により操られていたと考えられます。 しかし、今は改心し、私たちのゲラント自治領解放の作戦にも自ら積極的に協力してくれました(ダールは・・・内緒だ)。 どうか自治領主様の寛大な御心を以てして、3人への罰を過酷なものとせぬようお願いする次第です。」
そう言い終えて、領主の前に平伏するユーリア。彼とてやろうと思えば格式ばった言葉遣いも出来るのだ。・・・やろうと思えば。 それに倣うようにテルトやフルーは勿論、事前に教え込んでいたように3人の獣人も続く。
「ユーリア調査官。どうぞ、お顔をお上げください。」
ビンスキー自治領主はそんな様子を興味深げに眺めながら鷹揚に言った。
禿頭にがっしりした骨格、太い眉に大きな意思を宿した目、大きな口。
やや老境に差し掛かりつつあるとはいえ、自治領主としての威厳を感じさせる。
「辺境の小領とはいえ、貴方はこのゲラントの恩人も同様だ。その貴方にそこまでされては私も首を縦に振らざるを得んよ。」
「では・・・」
言いかけるユーリアを遮ってビンスキーはきっぱりとした口調で言う。
「だが、3人が帝国の陰謀に加担していたことも事実、自治領主としてそれを有耶無耶にはできん。」
表情を厳しくしていうビンスキー。 獣人3人は頭を下げたままだが、その言葉に動揺したように肩を震わせた。
「おっさん! 言ってることが違うじゃねぇか!」
顔を上げ、腰を浮かしかけるフルーを鋭く制するユーリア。
「フルー! 控えろ!」
「くっ・・・」
頭を押さえるような鋭い声に、フルーは渋々もとの姿勢に戻る。
その様子を見てまたビンスキーは表情を変える。
「ユーリア殿はなかなか困った部下をお持ちのようですなぁ。」
台詞とは裏腹にその表情はユーリアの懸命な嘆願を聞いている時に似ていた。
「はっ、御無礼平にご容赦を・・・。」
内心で冷汗をかきながらそう言うしかない彼に聞こえてきたのは意外な言葉だった。
「だが、よい心ばえの部下でもあるようだ。 違いますかな?」
「・・・はい、そのとおりです。未熟な私はいつもこの二人に助けられております。ですから私も部下の同郷の出身である未来ある少年たちに、出来る限りの事をしてやりたいのです。」
こうなっては駆け引きではなく、本音をさらすしかない。
そう覚悟を決めて、ユーリアは正直に自分の心情を吐露すると、再び深々と頭を下げた。
「よろしい、では私の決定を伝えよう。・・・ルフ、ゾフ、ダールの獣人3人は犯罪奴隷に落とす。」
「・・・はっ。 ここはビンスキー様の御領地、そう決められたのなら私どもに口出しをする権利はありません・・・。」
そう言いながら、ユーリアは失望を隠せなかった。
勿論罪状だけでいえば死刑もあり得た。 そう考えるならば、これは十分温情のある処分だ。
(しかし、犯罪奴隷とは・・・。こんな事なら、密かに逃がしてやるんだったか・・・。)
事がここまで大きくなった以上、そんな事が出来る訳が無かったことは十分理解しながらも、そう思わずにはいられない。
視界の隅で見ると、フルーは今にもとびかからんばかりの様子でこちらを睨んでいる。
(あーもう露骨に顔に出すな馬鹿犬! すべてが台無しになるぞ!)
そんな思いを込めて見返したとき、ビンスキーがさらに言葉を継いだ。
「まぁ、そう堅くなられるな、まだ続きがある。」
「はっ・・・。」
笑顔で言う自治領主に困惑する一同、それにかまわずビンスキーは淡々と続ける。
「なお3人は自治領主館付きの奴隷とする。自治領主に仕える奉公人扱いとし、館内に住まいを与え月銀貨3枚の給金を与えるものとする。そして5か年の年限を以てその役を免じたのちは召し放ちとし、自由の身分とする。まぁ、こんなところでどうじゃろうか? 部下思いのユーリア殿、同胞思いのフルー君?」
「おっさん! やっぱいい奴だったんだnごっ!ザクッと来た、ザクッと!!」
パッと顔を上げ満面の笑みで領主をおっさん呼ばわりしたフルーにテルトのマジックストックがめり込む。
「フルーいい加減にしろっ! ビンスキー様、寛大なご処置感謝の言葉もございません。 なんとお礼を申し上げてよいか・・・。」
そうぐりぐりとフルーのあたまを床に押さえつけながら言うユーリア。
「あ、ありがとうございます! 領主様。」
「お、おれっ! お役に立てるように頑張りますっ!」
「おれも、今までみたいに二人に任せずに一生懸命奉公します!」
3人もそう口々に領主に感謝していた。
実質これは年限付きとはいえ、元の世界で言うなら長い執行猶予付きの有罪判決に近い。
(こういうときばかりは大岡裁き的なことが可能な中世的なこの世界に感謝だな・・・。)
5年という年限にしても、人の世について世間知らずに過ぎる獣人たち3人が一人前になるまでは自分のもとにおいてやろうという、ビンスキーなりの温情だ。
とにかく、ビンスキー自治領主は自分の立場の中で最大限、好意的にユーリアの意思を汲んでくれたと言っていいだろう。
ユーリアの反応に満足したビンスキーはだが再び居住まいを正していった。
「しかし、全ての物事ををそのように運ぶわけには残念ながらいかん。 監視役の賊の中で幾人かを帝国からの『工作員』とするのはやむをえまい。」
「・・・犠牲の羊、ですね。」
ビンスキーの言葉を聞いてそれまで沈黙を守っていた表情を消した顔でテルトが言い、即座の理解を示した彼女にビンスキーは感心したように眉をわずかに上げる。
「その通り、、その者に『帝国に内通し、3人を扇動してゲラント自治領の占領のみならず友好関係にある獣人族との関係を裂こうとした。』という重大な罪を問わねばならん。元々犯罪奴隷であった身からの所業、民心の安定のためにも極刑は当然と考えておる。」
「ええ、それが至当であると私も存じます、領主様。」
口を引き結ぶとそういってテルトは再び頭を垂れる。
「そういってくれるとわしもありがたい。 そのあたりのお膳立てはワシがやらせてもらう。・・・構わんかな?」
形式だけであるかもしれないが、ユーリアたちの意思を尊重しようとする領主にユーリアは改めて感謝すると共に、辺境にあって自治独立を守ってきたビンスキーの人としての器を感じていた。
「はっ・・・、本当に何から何までご配慮感謝いたします。」
「よいよい、こういう事には向き不向きがある。失礼ながらユーリア殿はこういった物事にはあまり慣れておらぬようだ。ナスネル家へはワシからも事情を書いた書簡を認めるゆえ、それを以て奉答するがよいじゃろう。」
自ら汚れ役を買って出ようというビンスキーの意図を理解したテルトとユーリアはただ恐縮するしかない。
とことんビンスキーに甘えるしかない自分は情けないが、自分にそこまでの泥臭さがない以上、ただ素直に感謝する事しかユーリアにはできなかった。
テルトとユーリアは深々と頭を下げ、なんとなく話を了解したフルとゾフはそれに倣う。
そして、フルーとダールは
『うん?なんかよー分からんけど?』
という表情を浮かべていたが、テルトの紅く輝く瞳に気付き、慌てて頭を下げた。
「はははっ、本当に変わった御仁達じゃのう。 数日中には王都に戻ることになるとは思うが、それまではゆっくり寛がれると良い。」
その一部始終を愉快そうに観察しながらいうビンスキーの言葉を合図に、謁見は終了した。
こうして、ようやくゲラントの魔鉱石をめぐる一連の事件は何とか終息を迎えようとしていた。
お読みくださりありがとうございます。
この辺りがユーリアたち転生者のリアルだと自分は思っています。
酸いも甘いもわかったおっさんが転生者だとか、大往生で転生した戦争経験者のおじいさんとかならまた違うかもしれませんがw
引き続き拙作を評価、感想などで応援していただければ幸いです。
よろしくお願します m(__)m




