オペレーション・ゲラント(後編)
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「おーい? ダール?」
鉱山の監視役の制圧を終え、ペチペチと失神してノビているダールの頬を叩くフルー。
「う~ん・・・ も~食べれんぞぉ~。 いくらなんでももう腹が・・・」
しかしダールは気絶したにもかかわらず、なかなか幸せな夢を見ているようだ。
「何ノンキな夢みてるんだよ!」
フルーが再び意識を失わない程度に軽くチョップをお見舞いすると、さすがに幸せな夢は弾けたようだ。
「!! う、うーん・・・?! はっ!? フルーのあんちゃん?! 何でここに? うえっ!? 何でオレ縛られてんの? 」
意識を取り戻してから目の前にあきれ顔のフルーがいてびっくり、さらに身じろぎしようとして体ががんじがらめに縛られていることに再び驚くダール。
「それはお前が悪の手先だからだぁっ!
『をい、ややこしくなるから代わってくれ。』
って、あう・・・」
【ビシイッ!】と効果音がつきそうな仕草のキメポーズで言うフルーを押しのけて、額に手をあてて天を仰ぐユーリアが前に出る。
「えーと、初めまして。 私は調査官のユーリアと言います。 フルー君には補佐官としていつも私のお手伝いをしてもらっています。 暴れないと約束していただけるのなら縄を外して事情をお話ししますがどうでしょう?」
笑顔で言うユーリア、ダールから見てもその顔はお人よしそのものでスキだらけに見える。
(この人間は甘そうだな・・・。 ほかに厄介そうなのは・・・。 フルーのあんちゃんだけか。 ちっこい女もいるけど。アイツの方へ逃げれば・・・。)
なとど考えているダールを見透かしたように、フルーの声が飛ぶ。
「何考えてるか見当はつくけどやめといたほうがいいぞー。 ユーリアも剣を使わせたらかなり強いし、何よりそっちのテルトちゃんのほうが俺の100倍怖いからな・・・マジで。」
そう言われて再び少女の方を見ると、いつの間にかその傍らには炎の精霊がいた。
恐ろしい形相で燃えさかる焔となってダールの方を見つめている。
「ひっ!」
思わず漏れた小さな叫びにテルトの呟きがとどめを刺す。
「獣人の丸焼きか・・・あんまりおいしくなさそう。」
少女の燃え上るように赤く光る片目がダールの反抗の気力を瞬く間に削り取っていった。
「わ、わかったっ!! 約束する! ルフとゾフもいるんだ! あいつらも助けてやってくれ!」
「ん? あぁ、お前まだ気づいてないのか?」
そう得意げに言うフルーにジト目でつっこむユーリア。
「・・・自分も同じ立場なら気付けないくせに。」
「ちょ! 外野っ!」
ユーリアを牽制にしておいて言葉を続ける。
「ごほんっ! あー、ルフもゾフももうコッチについてるよ。っていうかさっきの爆発も二人の仕業だけどな。」
「・・・へっ?」
「ここへ潜入する途中の森の中で二人に会った。 っていうか襲われ時に気付いてさ、協力してもらったんだよ。」
「我を忘れて気付いてなかったバカ獣人がいたけどな・・・。」
再びジト目のユーリアによるツッコミが入る。
「シャラァアップ!! ゴホ、ゴホンッ! 鉱山の中の監視役の連中は解放したゲラントの兵士たちに自治領の牢へ連れて行ってもらった。
爆発現場に行ったお前の部下はルフとゾフが上手くあしらってくれるだろーよ。 お前に使ったのと同じ爆弾持ってたからな。 」
出番が終わったと思ったのか、砂糖をまぶしたプリッツェルをポリポリもそもそ食べていたテルトが眉を寄せて、フルーの発言に訂正を求める。
「フルー、爆弾じゃない。 スタングレネード。大きな音と強い光が出て戦闘力を奪うけど、身体的なダメージや後遺症はない・・・と言われている。」
そのテルトという少女の説明を聞いてダールは自分の意識を刈り取った物の正体がなんとなく理解できた。
「なるほどなぁ~。 おれもそれにやられたのか? 完敗だなこりゃー。」
そう正直に本心を吐くダールはなんとなく憎めない。
「ええ、まぁそう言う事ですね。 じゃあ、もうこれは必要ないみたいなので外します。 いいですよね?」
そんなダールに苦笑しながら近づくと、ユーリアは手にしたナイフで縄を切ってやる。
「あーそうだな、もうそんな気は起きないわ・・・。そのスタン何とかと、炎の精霊使いにフルーのあんちゃんまでいたら戦う気なんて無くすわぁ~。」
締め付けられていた手首をほぐすように両手で揉みながらダールは正直にそう言った。
「ふふっ、まぁそうでしょうね。 どうです、飲みますか?」
そう言うとユーリアはダールにハチミツ入りのお茶のカップを差し出す。
「・・・フッ、あぁ、もらうぜ。」
ダールはそんなユーリアを不思議そうに見つめたあと、苦笑ともため息ともつかない息を漏らしてカップを受け取ると口を付けた。
そして一言、
「うーん、ちょっと獣人にはあちぃわ。」
息をふうふうと吹きかけ、ちびちびと飲み始めた。
『こちらブラボー。 犯罪奴隷のおっちゃんたちをゲラントの兵士さんへ引き渡し完了!』
『こちらチャーリー。 同じく完了だよー!』
その時ルフとゾフから、当初予定していた作戦の全てが終了したことを知らせる魔道レシーバーの報告が入ってくる。
「ご苦労、ブラボー、チャーリー。こちらもダールの身柄を無事確保した。 今夜は肉とお菓子でお祝いだ。では町で落ち合おう。」
『『やたーっ!』』
微笑しながらレシーバー越しに二人を労うテルトの声に、レシーバーの向こうで無邪気な歓声がはじける。
通信を終えるとテルトは小さな手でちょこんと芝居がかった敬礼をしながらユーリアに報告する。
「指揮官、状況終了。 『オペレーションゲラント』、成功だ。」
かざしていた手を下ろすと、かすかに微笑する。
「おう、お疲れさま。 何とか終わったな、テルトのおかげだ。」
「礼には及ばない、それが参謀の務めというものだ。」
少し照れながらもテルトの望み通り、最後まで『指揮官』を演じるべく答礼するユーリア。
そして手を差し出すと、優秀な『参謀』と握手を交わす。
しかし、あることに気付いてしまい、気持ちの良い笑顔が浮かんでいたその顔が急速に曇っていく・・・。
「あぁ・・・事後処理はたんまりありそうだけどなぁ・・・。」
「補給(甘味)さえ確保されていれば力になるぞ?」
「ドンマイ、調査官!」
頼もしいテルトの言葉。 そして何の慰めにもならないフルーの言葉と労いの肩ポムポムを受けながら、一人ユーリアは肩を落とすのであった・・・。
一行はゲラントの町へと凱旋する。
お読みくださりありがとうございます。
如何でしたでしょうか? テルトの華麗なる(?)作戦これにて終了です。
ユーリアはリーダシップを発揮するタイプではなく、調整型の上司ですね。「俺が俺が!」ではなく、みんなの力を集めて「じゃあ責任は俺がとるからやろう!」ってタイプです。
また皆様も作品の感想や評価などいただけると有り難いです。m(__)m




