妄想の果てに~そして黒歴史へ~
投稿三日目でブックマークしてくださる方が!
ありがたやー、ありがたやー。それだけでモチベーション上がりますねぇ。
5/5大幅加筆修正しました。 テンポよく読めるかな?
「お、さすがばーさん、よくわかったな。実は次男のユーリアがな・・・」
言いかけるジュトスを手を軽く上げる仕草でさえぎると、弛んだ頬をゆっくりとさすりながらバーレナは続ける、
「まぁ、みなまで言いなさんな。 当ててやろうともさ・・・。 そうさねぇ、『僕は魔法が使える!才能があるんだお父さん!』ってなところじゃないのかい?ヒッヒッヒッ。」
「なっ! 何で? それも魔法なんですか?」
自分の言った言葉を当てられ、浮かれたような顔に初めて驚きの表情が差し込んだユーリアが尋ねるが、バーレナは事も無げな表情で言う。
「魔法などと大げさなものではないわい。 まぁ、よくおるわなぁ。弟子入り志願とかいうて押しかけてくるそういう勘違いをした若いもんがねぇ。もっとも、そういう輩は大抵商人や、名主のようなこの辺じゃちょっと良い所の家柄の坊ちゃん、譲ちゃんじゃ。それにお前さんくらいの年頃はちいと珍しいがねぇ。」
そこでいったん言葉を切り、低い声で告げた。
「で?お前さん、確かめて欲しいんじゃろう?自分に魔法の才能があるかどうかを。当然、どんな結果が出ても、受け入れる覚悟はあるんだろうねぇ?」
ユーリアを節くれ立った指で指し、不気味な笑みを浮かべる。どこまでもフォーマットに忠実なバーレナ。
ユーリアはその迫力に一瞬だけ気圧されたが、勢いのままバーレナへ答えた。
「はい!お願いします!バーレナさんに調べてもらえばきっとお父さんにも納得してもらえるはずです!」
「ヒッヒッヒッ、そういう生意気なところが父親そっくりだねぇ。いいさ、このバーレナ老が直々にあんたを見定めてやろう。さぁ、そこへかけな。」
その答えに顔をしわくちゃにして、満足そうに笑いながらバーレナは自分の向かい側にある椅子を指した。
流石に緊張した面持ちで、ユーリアが椅子に腰掛けると、バーレナは机に広げていた羊皮紙や、毒々しい色をしたペーストの入った薬研などを脇へ押しのけ、代わりに水晶と、何かの文字が書かれた金属板を机の上に載せる。
そしてしわがれ声でユーリアに向かって宣言した。
「では、、はじめるとするかねぇ。」」
彼女が水晶に手をかざすと、透明だったそれが水晶が一瞬のうちに真っ黒になった。
「さぁて、ではこの水晶の上に手を置いてみな。そっと触れて私が良いというまで動くんじゃないよ。」
ユーリアは恐る恐る手を水晶の上に乗せる。
黒く変わった水晶の中はよく見ると霧のような何かが渦巻いているように蠢いて見える。
「・・・・。」
そしてそのまま、しばらくの時間が流れたが水晶は何も変化を見せない。
初めは笑顔だったバーレナはしばらくすると僅かに眉を寄せ、目を細めたようにも見えるが、深いしわの刻まれた奥に隠れてその変化ははっきりとは読み取れなかった。
・・・結局、前世の記憶でいうところのカップラーメンができる時間が過ぎても何も起こらず、バーレナはその間一言も発しなかった。
そしてユーリアが一体これはどういうことなのか尋ねようと口を開きかけたとき、バーレナはあっさりと言った。
「フム、ではもう手を放してよいぞ。」
「えっ?!・・・はい・・・。わかりました・・・。」
バーレナは手をかざすと水晶は透明に戻り、それを脇へと押しやった。
そして今度は金属板を押しやると、再びユーリアに告げた。
「さぁ、今度はこの板の上に手をかざしてみな。今度はな、触れてはならんよ。」
「・・・、はい。」
(あれ?あれ?もしかして自分は魔法が使えないのか? いやいやいやいや~! そんな馬鹿なわけないっしょぉ~。 だって転生者なんだよぉ~? 転生者と言えば、剣と魔法はお約束だろっ!勇者に、チートに、ハーレムでウハウハっ!! ふぅ、まだ大丈夫、落ち着け、まだ慌てる時間じゃないぞ・・・。 よしっ! 今度は上手くやってみせるさ!)
冷静を装いながら狼狽しまくりな本人も全く分かって言いなかった、一体何をうまくやるのかを。
水晶も、この金属板も、おそらくは魔道具であろうことは想像できる。
けれどどういう仕組みなのか、何を試されている道具なのか全くわかっていないというのに、頑張るも何もないというものだ。
それでも、一応自分なりに精神を集中し、瞑想の真似事のようなイメージを浮かべつつ、少し緊張で震える手をゆっくりと金属板へかざした。
(・・・・)
しかしやはり何事も起こらない。前言を即撤回し、ユーリアはめちゃくちゃ焦っていた。
(くっそぉおおおおお!をいをいをいいいいっっっつ!! 何か反応しろよぉおおおお! なんでだぁああああー!)
水晶の時と同じくらいの時間が流れ、その間ユーリアは『気』とか『チャクラ』やら、『魔力』やら、『龍脈』やら、『フォース』やら様々な前世の怪しげな知識を総動員して必死に金属板にユーリアがあると信じている自分の「魔力的な何か」を送り続けた。
(なんか起きろっ! 何かでろっ! マジカル美少女とか、最高位天使とか贅沢は言わないから、何か来てくれっ!!頼むっ! 神様っ! あああっ!このさい悪魔でもいいっす! オネシャス! )
そう内心で叫びながら必死に手をかざす。
そして・・・、
「・・・リア、ユーリア。もう良いぞ。」
「・・・はっ?! えっ?」
いつの間に没頭していたらしく、ようやく呼びかける声に気づき、ハッと金属板へ落していた視線を上げる。
そこには至って神妙な表情のバーレナの顔があり、来た時と同じようにたるんだ顎をさすりながらユーリアに淡々と告げた。
「・・・よいかな、はっきり言うでなぁ・・・。」
バーレナの顔から目が離せない、喉がゴクリとなった…。
「お主に魔法使いの才能はない、残念じゃったのう!ヒェッヒェッヒェッ!」
「?!?!?! ほへ? はひ? いま・・・なんですと???」
目を見開いて固まるユーリアを小馬鹿にするように、笑い始めるバーレナ。
ユーリアの背後ではジュトスが「やっぱりな」という表情でため息を殺すようにばつが悪そうに髪をかき上げる。そして息子を気遣うような視線を送りながら、それでも黙ってその背中を見つめている。
あれだけ元気で、突然の自意識過剰で、妄想過大だった息子は今やすっかり意気消沈し、肩を落としているのが背中越しにも痛いほど伝わってくる。
勿論、ユーリアは
「そうですか、魔法使いのお婆さん! ありがとうごさいます! それではごきげんよう!」
と爽やかイケメン風に素直には納得しなかった。
「そんなっ!!まだ二つしか魔道具を試してないじゃないですか?!他の道具も色々あるんでしょう! 試しましょうよ! いや、ためすべきだ、絶対!」
というか思い切り見苦しく、縋るように身を乗り出してくるユーリアにバーレナはあくまで淡々としている。
「あぁ、あるさ。精霊魔法で向いている属性を調べる貴石や、呪術使いの適性を調べる海亀の甲骨もある―」
「ちょっ?! じゃあなんで?!」
バーレナの説明を遮って再びそう言いかけるユーリアに、バーレナは静かに、だが、ぴしゃりと言った。
「ム~ダ。 じゃからじゃよ。」
「え・・・? む、無駄? ど、どゆこと? ですか?」
「どういう事もあるかい。 言った言葉の通りじゃ。 これ以上おぬしを何でどう調べても無駄。そういうことじゃ。察しの悪いやつじゃのう・・・わかったかえ? お主に魔法使いの才能はナシ、
ゴブリンの脳みそほどもな。 ヒャヒャヒャ!」
あまりにどストレートなバーレナの答えに、出かけていた言葉は霧散してしまい、頭が真っ白になる。
「・・・ほぇ・・・」
口を半開きのまま固まったユーリアに、バーレナは言葉をつづけた。
「ええかな、ジュトスの息子や、最初の水晶、あれは試したものの適性によってどのような魔法が向いているかがわかる魔道具じゃ。」
そういいながら水晶を指差すバーレナ。
「4元素を司る魔術ならば紫、精霊魔法ならば黄色、呪術師ならば灰色、といった具合になぁ。じゃがお前さんの水晶は何色にも変化しなかった。つまり、どの系統の魔法にも才能がないと言う事になる・・・。」
そう告げていったん言葉を切り、チラとユーリアを見るが呆けた表情のまま変化がないと見るやさらに金属板を手で弄びながら続ける。
「次にお主が試したのは、魔力に反応する古代文字の刻まれたミスリルの板じゃ。これはどんな微弱な魔力にも反応して光を発する。ちょうどほれ、このようにな。」
バーレナが手をかざすした瞬間、ミスリルの金属板はまばゆいばかりに輝きはじめる。一瞬のあいだ薄暗い部屋の中を照らしたが、バーレナが手を遠ざけると力の源を失い。ただの金属板へ戻った。
「稀に、水晶で系統が見えずとも、魔力を扱うことができる者もおる。じゃからアタシも、念を入れて調べたんじゃが、これにもお主は全く反応しなかったでなぁ。つまり、魔術の系統に関わらず、お主には魔力を使う力がない。という訳じゃ。もっとも、この年の頃で系統が見えない使い手なんぞはあまり上等な魔法使いになれないことがほとんどじゃがのう。ヒッヒッヒッ。」
「は・・・へ・・・」
最後をしわがれた笑い声で締めくくったバーレナに向き合っていたユーリアは椅子に崩れるようにもたれかかったまま、口をパクパクさせながらろくに言葉を発することができなかった。
こうして、
『剣と魔法に天才的な才能があり、寄せ来る敵をバッタバッタとなぎ倒し、かわいい同世代の女の子にモテモテの絶対的主人公ポジションの勇者な俺様爆誕!』
というユーリアのあまりと言えばあまりな転生者無双のイメージはあっさりと崩れ去り、自業自得とはいえ厨二病によって痛ましすぎる傷を負った少年が出来上がった。
「おい、ユーリア・・・ユーリア? そろそろ行くぞー。」
ポンポン、と優しくジュトスが肩を叩いても口を半開きにしたまま、しばらくユーリアは真っ白に燃え尽きた灰のように動けずにいた。 目は焦点が定まらず、虚空をさまよっている。
「立てるか、って駄目っぽいなこりゃ・・・。よぉい、しょっと! じゃあな! なんか迷惑かけちまったなば―さん!」
息子の顔を覗き込んだ父はそう判断すると、背中に息子を抱えてバーレナ宅をあとにする。
「フェッ! お前さんには迷惑をかけられた記憶しかないんだがねぇ。 暫くはいるんだろう?・・・また工房へ寄らせてもらうよ」
「ん? ああ、いつでも構わんが?」
バーレナの悪態のあとの言葉に多少の引っ掛かりを覚えつつも取り敢えずジュトスは家路を急ぐ。
ジェイガンも待っているはずだ。
「うぅ・・・あぁ・・・あ、う・・・。転生、ハーレム、勇者、チート・・・。」
「うおーい、しっかりしろぉー。もうすぐ宿だぞー。」
その日、放心状態のユーリアを久しぶりにおぶってやりながらあてがわれた空き家へ戻ったジュトスは、何が起こったのか困惑しているジェイガンが口を開く前に目くばせをする。
(まぁ、無理もねぇわなぁ。しばらくそっとしといてやるか・・・。)
フラフラと向かった寝床へ向かう息子、その後姿に、ジュトスは単純に憧れていた魔法使いの才能がないとわかりショックだったのだろうと思っていた。
だが違うのだ、魔法が使えないことは、確かにショックはショックだった。
しかしその100倍の恥ずかしさで、自分の厨二病全開の妄想がいま黒歴史と化して彼に襲い掛かってきていた。
ラノベのようなテンプレ主人公の転生者であると舞い上がって、膨らませてきた数々の妄想。
今ならわかる、痛いほどわかる。
あの時鍛冶場で浮かべていたジュトスの同情と哀れみと、理解不能な生き物でも見るような何とも言えない表情が。
あの時自分の目の前で、リアルで頭を抱えていた彼の心境が・・・。
(うひぃいいいいっ!申し訳なさが止まらないぃいいいっ!父さん生まれてきてごめんなさい!このままひっそりと消滅してしまいたい!消滅したいよぉ~!いっそ原子に還元すればいいのに、ううう・・・。んひょぉおお!!!)
そんなわけで、父親の予想に反して、少年はひたすら、おのれのこさえた香ばしすぎる出来立てほやほやの黒歴史が容赦なくハートをえぐる苦行に身悶えしていた。
・・・その日の夜はユーリアにとって長い、長い一夜となったことは言うまでもない。
やっぱりこうなっちゃいましたねw
さて、いよいよ次話からはユーリアは自分なりの「地に足の着いた人生」について考えるようになります。