オペレーション・ゲラント(前編)
無謀にも同時進行していた N9897DG 残念女神にだまされて救世主になった没落貴族 の完結の影響か、ありがたいことにこちらの作品のブクマも増えました。
見放されないように頑張ります m(__)m
「あれかぁ・・・思ったより規模が小さいな。」
ユーリアが望遠鏡から見る景色。
洞窟のように奥へと伸びた坑道は木枠で補強されていて、中までは見通せないが鉱山へ続く道幅を見てもそれほど大規模な採掘を行っているようには見えない。
ルフとゾフとの遭遇戦から数時間後、二人のおかげで誰に咎められることもなく、一行は鉱山の入り口までたどり着いていた。
もっとも話を聞く限り鉱山の監視役だけでも兵力は不足しがちなので、国境の詰め所と、迂回されやすい森の中にフルとゾフの獣人ペアが配置されている以外は警戒網もあまり厚くはないようだが・・・。
因みに3人のテンプレ山賊達は催眠の魔法で眠らせて炭焼き小屋に放り込んである。
丸一日は目覚めないだろうと言うテルトの説明なので取り敢えず逃走は心配しなくてもいいだろう。
ユーリアが望遠鏡で覗き込んだ景色に呟いた感想をテルトが拾う。
「一部の魔道具には欠かせない素材だけど、鉄や金銀のように幾らでも需要がある訳じゃない。魔道具への応用が進んだのも最近の事・・・。」
その鉱山には10名弱の元犯罪奴隷たちが今は監視役として労働者をこき使っているらしい。
もちろんこの兵力配分を考えたのも『隊長』であり、どうやらダールは監視役に回らせている犯罪奴隷に睨みを利かせる以外は特に指示を出すわけでもなく、大して仕事はしていないようだ。
ユーリアからすればうらやましい限りの身分である。
「毎日夕方の休憩の時間になると、ダールの兄ちゃんが鉱山の様子を見に来るんだ。」
「そうそう、ボスの貫録を示さないとな! とか言ってさ。」
ブーたれるルフとゾフ。
「ならその現場を押さえたほうがよさそうだな・・・。」
呟いたユーリアに視線を向けて片手で干しアンズを手にしたままスッと手を上げるテルト。
「お、どうしたテルト?」
「指揮官、提案がある。」
「うむ、テルト参謀の意見を聞こう」
促すとテルトは棒きれで地面にゲラント自治領の鉱山周辺の地図を描き始め、「はむっ」と残りの干しアンズを口に放り込むと切り出した。
「指揮官の基本戦術は正しいと考える。 そこで私としては敵の首魁ダールを無傷で確保するための最も効果的な作戦を提案したい。」
そして10分後テルトの作戦概要の説明が終了する。
指揮棒代わりに状況説明に使っていた棒切れをビシッと手のひらで弾くとテルトがユーリア達に問いかけた。
「・・・以上が作戦の概要だ。 指揮官どうだろうか?」
「うん、いいんじゃないかな。 ゾフくんルフくんが単独行動なのは少し気になるけど・・・まぁ、二人にとっちゃ勝手知ったる場所だから大丈夫かな? あと、僕は指揮官じゃないんだけど・・・。それはまぁいいか・・・。」
そう頭を掻くユーリア。
「へーきへーき。 これならダールの兄ちゃんをギャフンと言わせられるぜっ!」
「うんうん! 僕もワクワクしてきたっ!」
ルフとゾフはテルトの説明した作戦案に完全に乗り気である。 尻尾の旋回が止まらない。
「フルーは?」
「う~ん・・・よく分からんけど、テルトが言うなら間違いないっしょ!」
親指を立ててキメ顔で言うが、この獣人はこれでいいのだろうか・・・。
「あんちゃんは昔からこうだからなー」
「だなー」
そう言う二人もフルーの脳筋ぶりには慣れているようだ。
(ルフとゾフは「賛成」、フルーは「よー分からんが面白そうなので賛成」ってことみたいだからあとは自分の決断次第、か・・・。)
思いながらしばし考えたあとユーリアはみんなに告げる。
「じゃあテルトの作戦で行こう。 ダールの巡回までそう間が無いはずだ。 各自準備にかかろう!」
「「「「おうっ!!」」」」
ユーリアの言葉と共に、鉱山突入の準備が始まった。
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「こちらアルファ、各自準備はどうか?」
『おおっ!ホントに聞こえる! こちらブラボー 準備オッケーだぜっ! 』
『すごいねー! あっ、こちらチャーリーいつもでいいよー』
興奮したような二人の声がテルトの持つ魔道レシーバー越しにはっきりと聞こえてくる。
「わかった、私の合図とともに状況を開始する。 状況開始までそれぞれの作戦地点で待機、よろしく頼む。」
『『オッケーぃ!』』
テルトのルフとゾフとのやり取りを横目で見ながらフルーが感心したように見ている。
「ひぇー。テルトちゃんスゴイの作ったねー。」
「うん? まぁ、コレは私が作ったというよりはギルドなどで使われてる通話用の水晶を応用しただけなんだが。 まだ試作品のレベだ。」
テルトの小さな手元に握られたそれは見た目は前世の携帯用レシーバーにそっくりだった。
今度の『出張用』に3人分用意しておいたらしい。
テルト曰く、『情報を制する者は戦場を制する』そうだ。
・・・ここは戦場ではないのだが、ヤボは言うまい。
ユーリアはそう心に決めて『指揮官』と呼ばれてもフツーに返事をすることにしていた。
「因みに・・・そのデザインにする必要は?」
尋ねるユーリアに、若干頬を赤くしながら即答するテルト。
「えと、特にない・・・その・・・このほうがカッコいいと思ったから。」
「でも、便利だよな~それ。」
それに気づくでもなく素朴な感想を呟くフルー。
だがテルトは小さく首をふるふると横に振ると冷静に返す。
「そうでもない。 魔力を発生させることができない人は内蔵された魔石の力を使わないと使えないし、魔力というのは溜めておくのがすごく難しい・・・。 この小さな道具でも数時間しか使い物にならない・・・。」
「ほぇーそう言うもんなのかぁ。」
呑気に言いながら寝転がって干し肉をつまむフルー、休日の野球中継を見るオヤジさながらである。
確かに待機とは言ったがこの待機は『ナシ』なのではなかろうか。
「けど、ルフもゾフもテルトに教えられたらあっという間に魔道レシーバーの操作方法マスターしてたよな。 僕は獣人っててっきり・・・」
ユーリアはそこで言葉を切るとツツツッ・・・と、視線をある獣人の方向に向ける。
「そうだな、私も獣人とは『こういうモノ』かと思っていたが誤解だったようだ・・・。」
テルトもそこで言葉を切ると視線のサイトスコープを移動させていく。
二人の視線は横で寝そべりながらだらしなく干し肉を齧る獣人に固定された。
「ほぇ? なんだよ一体? 二人とも?」
しかし二人の会話が耳に入っていなかったらしく、干し肉を咥えたまま間の抜けた声を出すフルー。
「「いや、なんでもない・・・」」
2人はそう言って小さなため息をついて視線を逸らした。
「あ?干し肉食べたかった?」
「いらんっ!」
そう言いつつ茂みの向こうに再び目をやるユーリア。
3人は先ほどまでよりもさらに接近し、作戦開始地点である鉱山脇の茂みにまで来ていた。
もう望遠鏡は使わない(使えない)距離だ。
そのとき町の方角から一塊の集団がこちらの鉱山目がけてやってくるのが見えた。
「テルト、きたぞ!」
呼びかけるフルーの横合いからフルーが一瞬位置を確認し、すぐにフルーを呼ぶ。
「フルー来て、獣人の嗅覚の探知距離はどれくらい?」
「え?ちょっと待てよ・・っと。」
フルーも茂みに近づくとダールたちと思われる集団を見て少し考える。
「えーとそうだな・・・。 山際でこっちが風上だから、余裕をもってあの岩辺りまでくらいならダールもこっちに気付かないと思うぜ? ちなみにありゃあ確かにダールだ、間違いない。」
「わかった、獣人は目が良い。私たちは茂みの奥へ。 指揮官は今フルーが言った岩のあたりまでダールたちの集団が到達したら合図を。 合図があり次第状況を開始する。」
テルトは自らが建てた作戦がいよいよ実行に移されるこの状況を楽しんでいるようで、目が輝いている。
フルーもウズウズしているのはピンと立った尻尾とミミでわかる。
「わ、わかったっ・・・うわーまじかぁ・・・・。一体いつの間にこんなことに・・・。」
そんなやる気十分の部下二人(+獣人少年2人)とは対照的に、ユーリアだけが間近に迫った本番に緊張を募らせ、一人生唾を飲み込んでいた。
お読みくださりありがとうございます。
さていよいよ調査官編も大詰め! です。
拙作ではありますが、ブクマ、感想、評価など引き続き皆さんからのご声援よろしくお願いします。
m(__)m




