潜入ゲラント領 ・・・って、えっ?もうバレた?
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「オイ、見てみろよ。」
声を潜めながら、押し分けた茂みにそのまま手をかけて、フルーが後ろのユーリアを呼ぶ。
「いるな、バルボさんの言うとおりだ。」
見つめる先には今は閉鎖されているゲラントとガリアの関所がある。
今3人はフルーの先導にその関所を迂回して森に分け入り、ゲラント自治領の中へと潜入しようとしていた。
馬車はここから半日もかからないパテ村に預けてある。
人間向けの物資には困窮しているが、魔鉱石の積み出しに使われていた馬たちのために秣の用意はたっぷりあったので快く引き受けてくれた。
先行して派遣された調査官達は勿論正面から関所へ向かったはずだ。
そして行方を絶っている。
である以上馬鹿正直に正面から押し通るという選択肢はユーリアには無かった。
戦いになるにせよ、ならないにせよ、最悪殺害、良くて軟禁に違いないのだから。
これが騎士や貴族身分であれば逆に森に分け入る事などプライドが許さないだろうが、ユーリアたちにはそんなものは関係ない。
フルーは獣人族だけあって森での行動には慣れている。
道の無いように見える中に、けもの道を辿り、邪魔になる草木を後方に続くユーリアとテルトのために押し広げてやりながら、早くはないが迷いなく順調に進んでいた。
今3人は関所とその先のゲラントの町までを一望できる場所に立っていた。
いや、潜んでいた。
「やっぱりちょっと不自然だな、コレは。」
望遠鏡詰め所を覗きながらユーリアが呟く。
別にマジックアイテムというわけではなく、ユーリアがテルトのアドバイスを受けてレンズ職人に作ってもらったものだ。
高級品とは言え、レンズは既に金持ち向けの眼鏡を製作しているガラス工房があり、実用に耐えるモノがあるので、意外に簡単に手に入った。
前世の記憶から、
『双眼鏡のほうが使いやすいんじゃないの?』
と思ってテルトに聞いてみたが、技術的な課題も多いし、実現には金も時間もかかるらしい。
ハンバーガ一つ簡単には手に入らないこの世界で、ホムセンなどで簡単に手に入った物ですら手に入れるのは困難だ。
もっとも、もう『出張』の機会もないだろうから開発をする事はないだろうが。
(テルトは戦車長の装備として望遠鏡実現の野望をひそかに抱いているようではあったが・・・。)
例の魔道戦車プロジェクト実現の暁には自らが戦車長として当然乗り込むつもりであり、その際に双眼鏡は必需品・・・らしい。
「(まぁ、フラグが立っても困るしな・・・。)」
そう思いつつ、見つめる先に人影がある。
本来なら衛兵と自治領の下級官吏が詰めているはずで、今も槍を構えた数人が立っているがどうも様子がおかしい。
一応関所というのはその領地の玄関になる。
衛兵も下級官吏もユーリアたち王都審査官ほどでは無いとは言えそれなりに身なりを整えて、小さな自治領と言え威厳を示しているはずである。
だが、やや苦労しながら望遠鏡の視界に収めたそれは違う。
槍に寄り掛かるようにだらしなく立ち、鎧こそ正規兵の着ているモノのようだが、腕周りや足回りの装具は取り払われてゴツゴツした体躯がむき出しになっている。
頭髪も伸び放題の者や、無精髭姿の者もいて、とても正規の兵士とは思えない風体だ。
オマケにどうやら昼間から酒でも飲んでいるらしく、陽気に笑いながら談笑している足元はややおぼつかない。
それは『関所』というよりも『山賊のアジト』とでもキャプションを付けてくれたほうがよほどしっくりくるような光景である。
テルトに注意されていたように、万一レンズの反射などで関所の兵士に感づかれては潜入した意味がない。
はやばやとレンズにフタをしたユーリアに、横合いからフルーが声をかける。
「なぁ、この様子なら別に関所から入っていっても大丈夫なんじゃね?」
どうやら彼にはユーリアが今見ていたような光景が裸眼で見えているらしい。
アフリカの先住民族並みの素晴らしい視力だ。
が、悲しいかな優秀なハードに搭載されたソフトウェアが『脳筋XP』であるために完全に宝の持ち腐れだが。
天は二物を与えず、なのである。
「確かに、あのくらいの兵力なら戦になっても殺さずに突破することもできるかもしれないけど、騒がれたり仲間を呼ばれたりししたらどうするんだ?」
ジト目で問うユーリアにしどろもどろに答えるフルー。
「い、いやぁ。 ほらこの間の『山賊もどき』の時みたいに捕虜にするとか、さ。」
(絶対今考えただろ・・・。)
「で? その捕虜をどうするの? 口封じに殺したら結局後味が悪いし、縛りあげて放置して逃げられても困るし、絶対に逃げられないようにしてもいつ戻ってこれるかわかんないのに水や食料はどうすんの?」
「わかった、わかった!冗談だって~。」
手を振りながら顔を微妙な表情で顔を歪めるフルー。
「どうせまたちょっと騒いでみたかっただけのくせに・・・。」
ユーリアの反応は冷ややかだ。
「・・・絶対に昇進さたらダメな兵の典型だな。」
テルトにとどめを刺されるフルー。
「ぐぬぬ・・・。」
哀れである。
ユーリアは再びレンズのフタを外し、今度は関所からゲラントの町の方をうねりながら続く街道をなぞる様にたどっていく。
当然というべきか、ガリアからゲラントへ至るまでの道程は人通りが全くない。
町の様子もここから見る限りでは静かで活気に欠けるように見える。
ゲラントの町は元々ガリアとの交流の窓口として発展した経緯があるので国境からごく近い。
そうはいっても、テルトによるとせいぜい6倍程度らしいこの望遠鏡の性能ではそれほど詳しくわかるわけではないので今は印象の範囲を出ないが。
これ以上ここにとどまっても仕方ないので、ユーリアは望遠鏡にフタをする。
丁寧に畳むとケースに入れて背嚢にしまいながら2人に声をかけた。
「よし、行こう。この森を抜けて一気に鉱山地帯まで出たい。町に出るのは状況がはっきりするまで避けたいからな。」
真面目な表情でユーリアがまとめかけたその時、
【ゴォ~~ッ】
【キュルキュル】
「「(お)腹減った・・・。」」
と獣人とエルフから低音、高音、二種類の腹の虫が泣き、切ない訴えを聞いてユーリアは言った、
「わかりましたよ・・・。ほんとにこの人たちは・・・。フルー、さっきの少しひらけた場所まで戻ろう。 昼食だ。」
「よし、大休止だ。」
静かに言って小さなこぶしを握り締めるテルト、
「ひゃっほい! おい! こっちだぜ? ユーリア逆だ、逆。 そこだけはホントダメだなオマエ・・・。」
「お、おう、すまん・・・。」
そして、全く逆方向に向き直っているユーリアの襟首をつかんでフルーは再び先頭になり道を下っていく。
一度来た道だが、ユーリアは決して先頭にたったりはしない。 ごらんのとおりユーリアは、
『破滅的な方向音痴』
だからである。
王都で警邏に出ても狭い裏路地やなどに入ると下手をすると迷ってしまうので、もはやこれは一種の才能と言えた。
これもまたフルーが「たまには役に立つ」良い例である。
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暫くして3人は森の中の少し開けた場所で昼食をとっていた。
「うーん。 マズイ、とは言わないけどやっぱり味気ないなぁ。」
いいつつ堅パンと干し肉とチーズというシンプルなメニューを口に運ぶフルー。
「しょうがないだろ、買い込んできた食料は村の人たちに分けちゃったし、考えてみたら最初から馬車は置いていく可能性が高かったんだから。はいよ。」
言いながら火は使えないので、テルトにお願いしてお湯を出してもらってお茶を淹れながらユーリアは二人に配る。
「むしろ無駄にならなくて良かったよ。 旅と言ったらこの世界ではこれが普通なんだ、僕らが普段から贅沢しすぎなんだよ。 」
茶を啜り、パンを齧りながら、ユーリア自身の表情もそうフルーに説教をしながらも味気ない食事にげんなりしている表情だ。
「ユーリアの理屈は正しいけど食事だけはイタリア軍に同意してもいい。」
もはやテルト専用となってしまった感のあるハチミツの小瓶の中身を木の小匙で掬うと堅パンに塗り、パクッと口へ運ぶ。
そして少し迷ったが木匙もパクリと口に運び、束の間恍惚の表情を浮かべている。
「うぅ・・・甘い。」
恥はかき捨て、木匙も洗えばよい。
が、ハチミツはこのさい、黄金よりも貴重なのだから・・・。
実際3人のエンゲル係数は普段から高い。
しかし、それでも、である。
長旅ともなれば、食事は唯一の楽しみと言ってもいいくらいなのだ。
ユーリアは食事に関してはあまり妥協せずなるべく3人がおいしいものを旅先でも食べられるように工夫してきた。
これもまた、舌の肥えた転生者ならではの(贅沢な)悩みと言えるのかもしれない。
ほどなく(3人にとっては)質素な食事が終わり、少し腹ごなしを兼ねて休憩をとったあと、
「さて、そろそろ行くか?」
片づけを済ませ、背嚢を整理したユーリアがそう言いながら立ち上がりかけるとフルーが鋭く言った、
「シッ、足音が近づいてくる。」
そういいつつ地面に伏せて耳をつける。
「なに?! ホントか? 」
今まで慎重に行動してきただけに、まさかバレているとは思わず、ユーリアは驚いていた。
フルーはそれには答えずにさらに言葉を続ける。
「速度の速い、それでいて静かな奴が二人、 それにやや遅れてドタドタした奴らが3人。」
「ってことはバレたのか?俺たち?」
答えは分かりつつも、そう聞かずにはいられない。
「多分な、どんどん距離が縮まってきてるし。最初の二人だけなら気付かなかったかもしれないくらいだ。 後ろの奴等がうるさすぎるから気付けたけどな。」
(フルーがそこまで言い切るんだからコレはもはや確定事項だな。)
決断するとユーリアは即座に二人に指示を出す。
「しかたない、フルー、テルト。分断されないように逃げるよりここで迎え撃つ。荷物はまとめて茂みの向こうに置こう。 テルトは足を止めさせるような阻害魔法の準備を、フルーはいきなりとびかからないように自重しろよ?」
「了解した。」
「をい・・・何でおれは指示じゃなくて注意なんだ?」
3人のもとに迫る足音がようやくユーリアの耳にもかすかに聞こえてきた。
「来るぞ!」
そう緊張を含んだ声で言うフルーに全員が身構える。
そして二つの影が現れた。
お読みいただきありがとうございます。
潜入成功かと思いきや、一人苦労人の星に生まれた主人公が若干名。 笑
ブクマ、感想、評価などお待ちしております。
派手さはない作品かもしれませんが、これからもどうぞ応援よろしく願いします。m(__)m




