村の窮状 いざゲラント領へ
ユーリアたちはレベルの低すぎるアマチュア(?)山賊の襲撃をみごと説得(物理)によって降伏してもらい、事情聴取を始める。
「えっ?すると皆さんこの先のパテ村の人たちなんですか?」
「ああ、そうだ。 5年ほど前、魔鉱石の鉱山が発見されてから、自分たちの村からもゲラント自治領へは大勢村人が働きに出ていた。
だがいきなり国境が閉鎖されてしまい、今まで物資や、食糧を供給してくれていた行商人もまったく来なくなった。 働き手の村人も帰ってこん。」
リーダー格の男が苦々しく言う。 バルボさんというらしい、覆面姿でわからなかったが年齢はもう50半ばを過ぎているようだ。
「それでやむなく山賊まがいのことを?」
「そうだ。村長には止められたが、もう背に腹は代えられん。」
(まぁ、この世界のたくましい農民のメンタリティなら家族や村が飢えるくらいならあり得る発想なんだよなぁ・・・。 フツーに兵士に取られて戦争したり、盗賊に襲われたりした経験のある人もいるだろうから。 戦国時代にも一揆や、落ち武者狩りなんてあったらしいし・・・。 そう考えたら理屈では理解はできるんだけど、やっぱイマイチ共感はできないなー。)
そう平和な国の平和な時代に生まれた自分の価値観と比較しつつ、ユーリアは言葉をつづけた。
「で?成果は?」
「・・・あんたらが初めて通った通行人だよ。」
予想していた答えだが、改めて本人たちの口から聞くとやはりその計画性の無さに呆れてしまう。
「そりゃあ、ゲラント自治領との唯一の交易品といってもいい魔鉱石の供給が途絶えたんですから、誰も通らないですよね。・・・そこまでは考えなかったんですか?」
「「「・・・」」」
考えていなかったらしい。
その会話の最中、後ろからユーリアの肩をちょいちょいとつつく者がいる。
「ねえ? どゆこと?」
もちろん眉を八の字にしたフルーである。
「あのな、この辺の村はガリア王国の領土の中にある。ここまではいいな?」
「おうっ! それで?」
「経済圏・・・って言ってもわかんないか。 えー、要するにこの辺の村の人たちが物を売ったり、買ったり、人が行き来したりする流れは、じゃあどこの町とのあいだが多いかわかるか?」
「えーと・・・」
早くもつまずいたフルーの代わりにテルトがさくっと答える。
蜂蜜がなくなった今は、干したイチジクをもちゃもちゃと食べていた。
「・・・(もちゃもちゃ)ゲラント自治領ね。・・・(もちゃもちゃ)」
「そう、その通り。自治領といっても領地は小さなものだけど、鉱山で潤っているから町の規模はそこそこ大きい。
それに魔鉱石が発見される前、ただの山奥の僻地だった昔から王国との結びつきが強いところだから通貨や、言葉も通じる。
だからこの先の今日滞在予定だった村も、ゲラント自治領との物の売り買いや、人の行き来で自分たちの生活を成り立たせていたわけだ。 それが突然なくなったらどうなる?」
そう投げかけるとフルーが勢いよく挙手をする。
「ハイ! ユーリア先生!」
「うむ、フルー君。」
「すごく困るッ!」
「うーん30点。 なんでかな? その理由は?」
「食べ物やお金がゲットできなくなるから!」
「おぉ、75点。うん、すごい大雑把だけどそういうこと。 さらに村から農閑期に働きに出た人もそのまま帰ってこないから村の働き手も居なくて生活が成り立たなくなってきてる・・・。ってことですよね。」
「そう、そうなのだ・・・。 恐らく王都が状況を掴んだのはこの一月ほどだろうが、もうこの状況が二か月近く続いている。
魔鉱石が見つかって以来、元々穀物に適していない土地の我々の村は麦を作るのをやめてしまった。
畑で最低限の野菜などを作り、鉱山で資材として使われる木材と、自分たちが働きに出ることでゲラントの盆地で出来る穀物を買い、生計を立てていたんだ。 それがいきなり途絶えては生きていけんよ・・・。」
どうやらすっかりゲラント自治領の経済圏に取り込まれていたようだ。
もっともゲラントはガリア王国の属領に近いから今まではそれで何の不都合もなかったのだが・・・。
「なるほど、そうですか、距離的な物がありますし、魔鉱石の輸送もそう頻繁にある訳でありませんからね。因みにですが、私たちの前にも調査官が2度ほど派遣されているはずですがこころあたりは?」
「あぁ、王国では私たちの村が最後になるから2回ともわれわれの村を通過して行ったが、戻っては来なかったよ。 君は、その・・・なんというか服装がその・・・、まさか・・・調査官だとは。すまなかった!」
確かにユーリアは普段の審査官の恰好ではない。日よけにツバ広の帽子を被り、マントで身を包み、速度より頑健さを重視した馬に牽かれた馬車姿は姿は行商人に見えなくもない。
ユーリアもそれは自分で迂闊だったと反省していた。
時には権力をひけらかすのも有効なのである。
「いや、まぁ、僕は今まで派遣された方たちと違って正規の調査官でも騎士身分でもありませんからね。しかし、う~ん、やっぱりか・・・。」
(捕らわれて監禁されているとかならいいんだけど、最悪の可能性も考えられるな・・・。)
謝るバルボさんをフォローし、内心でそう思いつつも、いま推論を言うのははばかられたのでこの辺でその話題を打ち切ることにする。
「それはひとまず置いておいて・・・、領主様にはご相談されましたか?」
問うユーリアに自嘲気味な顔で答えるバルボさん。
「あぁ、もちろん行ったさ。 国境を封鎖された時すぐに相談にいった。だが、冷たくあしらわれておしまいさ。」
その言葉に首を傾げすこし考えたあとユーリアは納得したようにいった。
「あぁ~。つまり、皆さんはゲラント自治領と懇意にしすぎてるからあまり領主様にとっては『良い領民』というわけではないからですね?」
「ハハッ! そう言うことだ、さすが調査官のお偉いさんは察しがいいな。」
自棄気味な笑いで評価されたユーリアの背中がまたチョイチョイとつつかれる。
「・・・どゆこと?」
もちろん困り眉のハスキー、もとい獣人である。
「・・・あのな、パテ村の人たちはどこから来た商人から麦とかの穀物を買うんだ? そしてパテ村の木材はどこへ行く? 農閑期の村の労働力はどこへいくんだ?」
そう言われて、フルーは暫し虚空を見つめていたが、
「・・・おおっ! なるほどな!」
そう言うなり『ぽむっ!』と手を叩いた。
・・・どうやら今回は繋がったようである。
「そういうこった。 今までは租税はきちんと納めてきたから見逃されてきたが、ここにきてそれがアダになったよ。 『お前らのようなへんぴな村のことなど知らん、どうにでもなれ』、というような態度だな。」
苦々しげに言うバルボさんの口調には憤りよりも諦めが強い。
そんな都合のいい立場を利用してきたのは自分たちだ、という思いもあるからだろう。
バルボさん自身も今さら取り繕いようのないその件について、もはや未練はないらしい。
尋問が一区切りついたと見るや、覚悟を決めたように表情を引き締めてユーリアに居住まいを正して(と言っても縛られているので背筋を伸ばした程度だが。)言った。
「さて、調査官殿。 俺たちが把握していることはこれくらいだ。 別に何を聞いてくれても構わないが、仮に拷問をされてもこれ以上の事は何も知らん。 ・・・俺たちをどうするつもりかね? 」
間違っても『殺すつもりか?』などという挑発や、ヤブ蛇になりそうな事は言わない。
周りの捕虜たちもバルボさんを信頼しているのか怯えの色を見せながらもじっとその様子を見守っている。
山賊の頭としては0点だが、人望はあるようだ。
「えーと、本来なら捕らえた山賊は最寄りの町の衛兵に引き渡すか、出来ない場合は『現場で処理』というのが通例なんですけど・・・。」
ちらっと視線を巡らせると、山賊さんたちの目に怯えの色が走るのがわかる。
それを見ながら少し苦笑してユーリアは続けた。
「まぁでも、今回は私たち以外の被害者はいないみたいですし、山賊というにはあまりにもお粗末なレベルなんで・・・。情状を酌量して不問にすることにしましょう。 『今夜泊まる村の人たちを縛り首にした』、とかさすがに寝覚めが悪いので。」
「そうか、感謝の言葉もない。 恩に着る、調査官殿。 ・・・名前を聞いても良いか?」
「ユーリアです。 普段は王都で一等審査官をしているのですが、今回はちょっとわけあって調査官の辞令を頂いて魔鉱石途絶の調査にやってきました。 後ろにいるのは補佐官のフルーとテルトです。」
歩み寄り、バルボさんの手足の縄を切ってやる。
「わかった、こんなことを今言うのもおかしいが、パテ村はユーリア審査官達を心から歓迎しよう。」
そう言ってユーリアと握手を交わす。
「こちらこそ、お世話になります。」
こうしてユーリアは元アマチュア山賊の皆さんとパテ村へ向かい、事情をバルボさんから聞かされた村人から歓迎と村を上げての『お詫び』を受けた。
往来する人たちに向けた村で一軒の宿屋を貸し切りにし、風呂まで用意してくれたのである。
食事はと言えば、バルボさんが言うように食料をはじめとする物資全般が不足していたので、御馳走どころか、自分たちが補給してきた余剰の食料を逆に放出するハメになったが、仕方ないだろう。
それでも幾日か凌げるほどの世帯数であったのが不幸中の幸いだ。
代わりに村長が秘蔵のハチミツの小瓶をテルトに供出してくれたので彼女は逆に大満足だったが・・・。
さらに食料の購入に充てるようにと経費の中から幾らかの銀貨や銅貨を割いて村長に渡す。
今は収穫前の時期で普通の村でも食糧は豊富とは言えない。
このあたりの村の周囲でも事情は同じだろうが、ゲラントへの依存度がこの村より低いところであれば金さえ出せばいくらかの食料を融通してもらうことはできるだろう。
夜のうちに王都と領主に調査官の自分の名で救恤の要請の手紙を記して託した。
なるべく早く解決してゲラント領との経済循環を再開させたいとは思うが、今打てるべき手は打っておくべきだあろう。
・・・そして次の出発日の朝
「しばらくは厳しい日が続くかもしれませんが、もう無茶なことはせずに何とか耐えてくださいね。」
言いながら自分が認めた文書を村長に手渡すと、村長はひたすら恐縮していた。
ユーリアは領主充ての手紙には特に、自分の本来の王都審査官と臨時の調査官の身分と、その目的に加え、ナスネルの弓の称号を持つことをさり気なく文章に盛り込むのも忘れなかった。
権力や名誉は自分一人でいるときは邪魔なばかりだが、こういう時は役に立つことを自分なりに理解していたので。
これで、当座をしのげば少なくともどちらかは力になってくれるだろう。
「よし、今できる手は取り敢えず打ったし、そろそろ行くか!」
「了解した。村長、ハチミツ・・・感謝いたします。」
「おう! 早くゲラントいってステーキ食おうぜ!」
ぺこりと頭を下げるテルトと、干し肉にウンザリした獣人を乗せ、馬車はいよいよゲラント領へ向かう。
お読みくださりありがとうございます。
ハチミツあればすべてよし、テルトさんでした 笑
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