魔道戦車開発プロジェクト始動!(納期は未定)
「こんな安易に戦車欲しがる前世日本人なんで信じられんっ!最低な悪女や!」
と言う趣旨の感想を頂きました。
えー、この異世界が血で血を洗う世界大戦になる事はありませんのでご安心下さいw
気になる方は感想ページまでw
「・・・をい、ユーリア。これ一体いつになったら終わるんだ?」
フルーが円卓に突っ伏してこちらへ顔だけを向けて覇気のない顔でユーリアに尋ねる。
「わからん・・・もうちょっと、もうちょっと・・・我慢しよう、な?」
答えるユーリアの顔もげんなりしている。
この工房に来てから戦闘用ゴーレムの手厚い歓迎を受け、やっとマグヌス氏と対面してはや数時間。
円卓にテルトが持ち込んだ膨大な資料を広げ、マグヌスとテルトはひたすらティーガー重戦車について熱く語っていた。
因みに、この兵器が異世界の物である事はエンジンや、砲弾の説明をするまでもなくテルトの1/35モデルを見た瞬間、マグヌス氏の観察眼によってあっさりとバレた。
しかし、
「これが異世界の物ということは・・・嬢ちゃんも異世界の?」
「いえ、記憶はありますが。生まれは大森林です。」
「そーかそーか! なら話は話は早い! おかげで魔道具への置き換えも捗りそうじゃ!いやいや、異世界の兵器とはますます愉快じゃ! 心が躍るわいっ!」
という具合に全く問題にされなかった。
まさに、
『面白ければ何でもアリ』
というちょっと危険な技術屋の典型である。
そして、話が車体の構成材に及んだとき、場が大いにざわめくことになる。
「素材は嬢ちゃんは何で作るべきだと思うかね?」
1/35のティーガーを弄りながらそう問うマグヌスにテルトは温めていた試案をぶつける。
「前世のように内燃機関を望めない以上、ミスリルをふんだんに使った鋼板にするべきかと・・・。そうすればオリジナルと同等の強度で格段の軽量化が可能なはずです。」
「しかし嬢ちゃん、ミスリルとなるとコストが・・・。」
「金に糸目はつけません。これを・・・取り敢えず、当面の開発資金としてください。」
差し出された数枚の金属プレートを見てマグヌスの曇っていた顔が一転笑みがこぼれる
「おおっ! 1000ゴールドの小切手とは豪儀じゃのう!」
「なっ!1000ゴールドだとうっ!」
「俺の・・・俺の給料何年分だ・・・?」
その言葉に反応して、フルーが突っ伏していた円卓から跳ね起き、ユーリアは口を半開きにして指折り数え始める。
そしてハッとしたように、フルーが勢いよく円卓に両手を突き腰を浮かせるとテルトに問う、
「テルトちゃん一体どこでそんな大金手に入れたのっ?!いつのまにっ?!」
「むかし・・・ちょっとね。」
「ちょっとって、ちょっとじゃないだろその金額は・・・。」
再起動を果たしたユーリアはツッコミに加わる。
単純に前世の金銭価値に換算すれば銅貨一枚が約300円ほどなので、1000ゴールドは約3000万円という計算になる。
しかし、この世界では王都に暮らす貨幣経済の浸透した市民でも、家賃などを入れても月々必要な金は金貨換算で5枚に満たない。
これは中流層の話で、貧困層やスラムでは一日銅貨1枚で生活などということも珍しくない。
因みに、ユーリアの給料は月金貨20枚と中級官吏だけあってかなり恵まれている。
因みに補佐官職は月10枚、これも平均所得の2倍だから十分高い。
要するに、この中世的な世界は、『可分所得=自由に使えるお金』の割合が収入に対して非常に少ない。
なので1000ゴールドという金額は単純な額面換算以上の価値を持っているのだ。
マグネルさんがニヤニヤするわけである。
「しかし、良いのか嬢ちゃん。これだけの大金をつぎ込んでしまって。」
頬を緩めながらも、一応年長者らしく心配して見せるマグネルさん。
その手は商業ギルド発行小切手のプレートをがっちりと握っており今さらダメだと言われても返す気はさらさら無さそうではあるが。
「マグヌスさん、その点についてはご心配なく。必要であればまだ追加投資は可能です。」
「ほぅ!そいつはすごいな。一応聞いておくが、あと幾らくらい出せるんじゃ?」
淡々と告げるテルトに興味本位でだろう、軽い調子で尋ねるマグヌス。
「さぁ・・・細かい額面は計算しないとわかりませんが。確か・・・4000ゴールドに少し足りないくらいだと思いますが?」
「「「・・・」」」
首をかしげながらサラッと告白するテルトにフルーやユーリアだけでなく、マグヌスもさすがにフリーズしていた。
「・・・嬢ちゃん、補佐官になる前は盗賊の親玉でもやっておったのか・・・?」
「いえ、ドライアドの涙を少々里から持ち出しましたので。」
サラリと答えるテルトにマグヌス氏はようやく合点がいったようだった。
「なるほどのぅ。魔道具でごく小さな粒を用いることがあるが、あれすらもべらぼうに高いからのう。納得じゃわい。」
そして雑談は終わりとばかりに、また二人は戦車の開発計画について熱く語りだす。
開発費が事実上、天井知らずだとわかったせいか、マグヌスさんのテンションは明らかに上がっている。
先ほどよりも活発に自分から代替素材や魔道具の仕組みについてテルトに意見を出し、ラフスケッチのようなものまで書き始めた。
そんな二人に対して再び蚊帳の外になったユーリアとフルー。
「なぁ、ユーリア」
「・・・ん~?」
「なんかさ、自分の仲のいい奴が実はロト6当選者だったって分かったときってこんな気分なのかねぇ〜。」
「そーかもなー。」
「・・・」
「・・・」
今更ながらテルトが自分たちが逆立ちしても敵わないハイパー金持ちだと言う事を知り、二人はしばし呆けていたのであった・・・。
それから、さらに時間が経ちいい加減心配して様子を見に来てくれたシュタルフさん。
「これは・・・。」
空腹で円卓に突っ伏しているユーリアとフルー二人。
その反対側、白熱した議論に夢中で空腹など全く気にしていないマグヌスとテルトの二人という対照的な2ペア。
「・・・すみません、ああなってしまうとマグヌス様は何もほかの事が目に入らなくなってしまいますから。もっと早くに様子を見に来るべきでした。」
とすまなそうにいいつつ、簡単につまめる食事と飲み物を用意してくれた。
そんなシュタルフさんのイケメンすぎる行動に心の底から感謝し、食料を次々と腹に納めていくフルーとユーリア。
イケメンすぎる行動に感謝も感動も示さず、サンドイッチ状のパンをつまみながらも、議論を続ける二人。
4人の様子を伺いながら、お茶のお代わりのお世話などもしつつ、片付けを始めたシュタルフさん。
ゴーレムとの戦闘によって、魔道具の破損などはないものの、目茶目茶に散らかった室内を淡々と片づけていく。
どうやら護衛役というだけでなく、生活無能力者らしいマグヌスさんには必須の人材ようだ。
そしてシュタルフさんのあと始末が終わったころ、ようやくテルトとマグヌスさんの企画会議は終わったらしい。
2人は笑顔でがっちりと握手を交わすとマグヌスさんは待ちくたびれた二人に声をかける。
「待たせたな二人とも、嬢ちゃんの話を聞いて大体の案は固まった。
細部をほかの職人とも話して検討するから少し時間をくれ。
また次の非番の時にでも来ると良い。
恐らくユーリア君たちにも関係のある話になるじゃろうから、また3人で来てくれるかのう?」
どうやらまた3人で来なければならないようだ。
それは仕方がないが、これだけは釘を刺しておかないと、そう思いながらユーリアはマグヌス氏に告げた。
「?ええ、わかりました、また3人で伺います。・・・その時はゴーレム無しのおもてなしでお願いしますよ?」
「わっはっはっ! 心配するなユーリア君、そんなに早く新型は完成しやせんよ、安心したまえ!」
(ダメだこの人…。)
「いやいやいや、そんな言い方して。新型ができてももう運用試験のイケニエなんてごめんですから!」
「そうそう、次出くわしたらすっ飛んで逃げるね!」
「つれないのう・・・、まぁよい。 とにかく次じゃ。三日ほど時間をくれればいつ訪ねてきても良いからの。」
必死に反論するユーリアとフルーに構わず、自分のペースで会話を進めるマグヌスさんに見送られ、シュタルフさんの案内で工房を出る。
こうして、もうすっかり日が落ちて暗くなった工房の外を3人はひとまず帰っていった。
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数日後、やってきた非番の日に3人は再びマグヌス氏の工房を訪れていた。
「さて行くか。」
「今度はしっかり食ってきたからな!」
そう、3人は前回の教訓を生かし、少し早めの昼食を済ませてマグヌス氏の工房を訪れていた。
シュタルフさんに案内され、再び最深部の工房を訪ねる。
「おぉ、よく来たな待っておったぞ!」
マグヌスさんはよほど待ち遠しかったのか訪問の連絡を受けてから外で待機していたようだ。
「ご無沙汰しております、マグヌス様。」
マグヌスさんを認めてぺこりと頭を下げるテルトと2人、
「さぁさぁ、中へ!」
本人はそんな形式ももどかしいらしくマグヌスはテルトの手を取り、引きずるように3人を円卓へと座らせる。
シュタルフさんがこちらも同じく前回の反省を生かしてお茶と茶菓子を置いていく間ももどかしくしていたマグヌスさん。
扉が閉まるなり口を開いた。
「結論から言おう、アイツは十分モノになる。」
そうマグヌス氏は拳を握り、力強く宣言したのであった。
お読みいただきありがとうございます。 別に隠していたわけではなく、単に(ミリタリー関連以外の)物欲に乏しいんでしょうね。テルトお嬢さんは 笑
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