ボーナスタイム ~テルトの図々しいお願い~
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さて、勝手口までマクス殿下を送り届けてから数日後。
ユーリアたち3人は王都審査官の現場のトップである副審査官長のピグリル男爵と共に、王都審査長官から王宮に召しだされていた。
『先日の死霊騎士討伐と違法奴隷の摘発を賞する為』
、というのがその召喚の名目であった。
世間の注目を浴びすぎた出来事であるだけに何らかのけじめをつけねばなるまいとお偉方も考えたようなのである。
そしてそのお偉方の一人に王都審査官長がいる。
その審査官長その人こそが先日のマクス君の父、弓のナスネルの現頭首であるクライバ―・ナスネルであった。
簀巻きの金髪少年の父親は名誉職とはいえ、ユーリアたちの上司だったのである。
(そんなの、自分も言われてやっと思い出したけどな・・・。)
そう、上司であるからといってユーリアもほとんど面識はない。
その面識のない上司からの召喚を受けてユーリアたち3人とピグリル男爵は「黄の広間」に立っていた。
ガリア建国に功のあった3賢。その門地は未だ剣のオーリア、弓のナスネル、槍のボッフェンという3つの大貴族として存続している。。
3家は王宮内にそれぞれの竜の鱗の「蒼」、竜の瞳の「黄」、竜の炎の「赤」の広間が与えられており、そこではしばしば三家に関わる式典や、論功行賞が行われる。
今回はナスネル家の管轄である王都審査官の論功なので、「黄の広間」がその舞台として用いられることになったというわけだ。
因みに過去、例の「ハンバーガー」事業の時にもユーリアは黄の広間に通されたことがある。
そんなわけでこの世界では貴重な巨大な歪みの無い鏡や、金を基調とした装飾で飾られた部屋。
絢爛さを誇り、権威を示すような威圧的な空間にも若干慣れていた。
もっともその時は代理人と称する官吏から、ナスネル家より下賜される事業資金を受け取っただけだったが。
しかし、そんな過去を振り返るような余裕のあるユーリアの近くでガチガチに緊張している人物が約一名。
「あ、あのー大丈夫ですか?」
無論それは世間知らずな脳筋獣人と、ミリオタエルフの二人ではなく、苦労人のピグリル男爵その人であった。
「だ、だだだだっ、だ大丈夫だ。それよりも、くれぐれも、くれぐれもだ!失礼の無いように!」
震える声で囁くピグリルにあっけらかんんとして答えるユーリア。
「えぇ、大丈夫だと思います。それに本日お見えになるのは代理人の方だとお聞きしましたが?」
「だと思います、では困る!代理人と言えどナスネルの家名を背負っているのだ。頼むから粗相のないようにしてくれ!」
「はぁ・・・。善処します・・・。」
「全く・・・ユーリア君は肝が据わっているいうかなんと言うか、あの3家を前にしてそんなに落ち着いていられるのが私には理解できんよ・・・。」
小声で上司にささやきかけるユーリアに、ピグリムも小声で囁き返す。
前半はやや怒っているような口調だったが、後半はあくまでフラットなユーリアに感心とも諦めともつかない感情が混じっていた。
(そうはいわれてもなぁ・・・。)
というのがユーリアの正直な気持ちだ。
ユーリアも勿論それなりに緊張はしているし、フルーとテルトの2人も一応礼装をして(着られている感がハンパないが)神妙な顔をしているが男爵はレベルが違う。
ろれつが回っていないだけでなく、まばたきがやたらと多い。
手を握ったり開いたり、顔をせわしなく揉みしだいたり、落ち着かない様子で、顔色も良くない。
彼は日ごろから、貧乏男爵家の3男から苦労して審査官の副官長にまで栄達した事を誇りにしてきた。
ユーリアも酒宴のたびに、うんざりするほどその立身出世物語を聞かされてきたのだが。
要するに真面目で誠実で、努力家なのである。
そして権威には絶対服従、別にピグリルが卑屈なのではなくそれが貴族というものである。
そんな彼も長官に会うことは年に一度あるかないか。
黄の広間にも副官長に叙任されたとき以来なので、緊張はいまやピークであった。
この世界の住人ならプレッシャーを感じて当たり前の状況。
が、そこは皇族以外は全て平民という貴族制度に縁もゆかりもない世界の記憶を持つ3人のこと。
貴族様という存在を理屈ではわかっていても、この世界の住人から見るとどこかのほほんとして映ってしまう。
その時広間の奥側の扉がゆっくりと厳かに開いた、それに合わせて平伏する4人。
儀典官が高らかに告げる、
「代理人、マクス・ナスネル様ご入来!」
「えっ?むぐっっ!」
声を上げかけたフルーを、脇に控えるテルトが頭を押さえつけたようだ。
ユーリアはさすがに声は上げなかったが、やはりそのキャスティングには驚いていた。
(まさかマクス殿下本人から出向いて来るなんてね・・・。それとも偶然かな・・・?)
考えを巡らせるユーリアとは関係なく式典は進む。
マクス殿下が絨毯の上を進む僅かな靴音が広間に響き、やがて止まると。
若いが、威厳と気品のある声が広間に響いた。
「一同面を上げよ。」
「「「はっ!」」」
「はひ、は!」
音程のずれた一人と、静かに応じた声でそれぞれ答える4人。
4人それぞれの顔へ順に視線を巡らし、ユーリアまで戻るとマクスは僅かに悪戯っぽい笑みを浮かべて続けた。
「本日は父クライバーの代理人として3男たるわたしマクス・ナスネルが先日の死霊騎士討伐と違法奴隷摘発についての論功行賞を申し渡します。」
厳かに懐から丸められた羊皮紙を取り出すと封緘を剥がし、堂々とした態度で読み上げ始める。
「過日の死霊騎士討伐と違法奴隷討伐の功績により、ユーリア審査官および補佐官にはそれぞれ金貨10枚を下賜する。
・・・また、ユーリア審査官には『ナスネルの矢』の称号とその徽章を授けるものとする。」
「(えっ!!)」
何とか声に出すことは耐えたが、ユーリアは驚愕の表情をマクスへ向ける。
ピグリルの、同じく驚きに見開かれているであろう視線を、横からひしひしと感じる。
あぁ、上司の視線が痛い・・・。
(よりによって「ナスネルの矢」とはね・・・。)
ユーリアは内心頭を抱えた。
「ナスネルの矢」とは『名誉騎士』の称号と違い、領地も騎士身分もないが、いわばナスネル家のお墨付きのようなものである。
因みに「オーリアの盾」、「ボッフェンの石突」という他の2家にもそれに対応するような称号がある。
3家の称号とも、あるのは名誉のみ。
しかし、3家のお墨付きともなれば大変な名誉である。
「名」を重んじる貴族や騎士からは羨ましがら、同時に嫉妬されるだろう・・・。
だが給料も待遇も変わりはしないので、ユーリアにとっては正直ありがた迷惑であった。
当然辞退などできるはずもなかったが。
(くっそ〜、絶対今二人はニヤニヤしてるな・・・。)
ユーリアの困惑をよそにマクスの言葉はまだ続いていた、
「また、このような王都審査官の精鋭を束ねる労を賞し、ピグリル男爵にも同じく「ナスネルの弓」の称号と、金貨20枚を下賜する。 以上。 弓のナスネル頭首 クライバ―・ナスネル」
「!?ありがたき幸せ!今後とも懸命にナスネルと、王国のために尽くす所存でございます!」
その言葉に雷に打たれたように平伏するピグリル。
それを見て今更だが慌ててそれに倣う3人。
流石というべきか、ユーリアが無駄な妬みを持たれないように組織の長へも気前よく称号とと金貨下賜することにしたようだ。
少なくともこれで職場に居づらくなることはなさそうで、ユーリアはほっとしていた。
「期待していますよ。ピグリル男爵。
・・・以上で父からの論功を終わります。
また、父からは4人についてはなるべく便宜を図るように言われております、何か希望があれば遠慮なく申し出なさい。」
そう言って返事を待つマクス。
もちろんこれは社交辞令のようなもので、普通ここで図々しいお願いをする者などそうそういない。
切迫した事情・・・例えば失った領地や身分の回復。
縁に連なるものに罪人がいた場合の助命や減刑の嘆願。
などなど、よほどの事情のない限りは。
「とんでもg「僭越ながら、一つお願いしたき儀がございます。」なっ?!」
緊張のうちに結びかけたピグリルの言葉を遮るように、少女の声が上がった。
ピグリル男爵の狼狽した声、しかし止めることはできない。
テルトである。
式典の場ではめったにない「図々しいお願い」にマクスも興味津々なことが声で伝わってきた。
「ほう?なんでしょうか?お伺いしましょう」
その声を真上から聞きつつテルトは意外にTPOを弁えた口調で話し始めた。
「王都随一の魔道具の作り手であり、高名な鍛冶氏でもあるマグヌス氏はナスネル家の庇護を受けていると聞き及んでおります。
私も魔法使いの端に連なる者。
魔道具の研究の為、かの高名なマグヌス氏をナスネル家の御威光に縋り、紹介していただきたいのです。」
そう恭しく告げるテルト。
(魔道具の研究、とか言ってはいるけど。どう考えても目的は・・・『アレ』しかないだろうなぁ・・・)
ユーリアだけが唯一その目的をほぼ確信していた。
言うまでもなく『戦車』だ。
しかも第二次大戦中戦車最強の一角ティーガー重戦車・・・。
これしかない、これに決まっている。
(欲望に忠実な奴め・・・)
もちろん、マクスやピグリルには想像がつくはずがないが。
「なるほど・・・しかしマグヌス氏は。・・・わかりました。では後日ユーリア殿のところへナスネルからの紹介状を届けましょう。よろしいですか?」
途中何かに迷うように言い淀んだマクス。
だが、自分で勝手に納得したらしく申し出は受理されたようだ。
「はっ!ありがたき幸せ。今後ともユーリア審査官は一層職務に精励し、王国とナスネルの御為尽くす所存でございます。」
(をいっ! おまえもがんばれよっ!)
こうして、この日の式典は終了した。
その後、男爵からフルーのお行儀と、テルトの大胆すぎる行動ついてお小言を頂戴した。
だが棚ぼたで、思わぬ名誉と、臨時収入を手に入れたその頬は終始緩みっぱなしであったので、こちらは大した問題はなさそうだ。
数日後のある非番の日、ナスネル家の使者から届けられた紹介状を携え、ユーリアたち一行は王都の外れにあるマグヌスの巨大な工房へと足を運んでいた。
「ここが、この王国随一の魔道具工房・・・。」
分厚い仕様書と1/35の偶像を手に、テルトは工房を仰ぎ見て、一人期待に胸を膨らませていた。
いつもお読みくだっさりありがとうございます。
はてさて、テルトの野望の行方は? 笑
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