その7 テルト魔人の心を折る(後編)
投稿遅れました!すみませんっ!
今回は長くなりましたので、前後編で二話投稿させていただきました。
著者としてはテルトはただ嗜虐的なのではなく、彼女なりの義憤や倫理観に照らして許せない相手には容赦なくそれが発揮される、という解釈で書いていますw
しかしテルトはそのエフリートの困惑を知ってか知らずか淡々と復唱した。
「聞こえなかったのですか魔人殿?ティガー戦車を1両、と言ったのですが?」
聞き返しても全く同じ語句が聞こえ、しかもそれが全く未知の存在であることに魔人はさらに困惑の色を深める。
「てぃ、てぃーがー?それは一体何だ?一両というからには馬車か何かのようなものか?」
「いえ、そのようなものではありません。」
「なにぃ、で、ではどのようなものだ?」
「ききたいので?」
試すような口調で言ったエルフの少女に自尊心を刺激され、魔人は乗ってはいけない挑発に乗ってしまった
「無論だっ!どのようなものかわからねばお主の願いとやらもかなえようがなかろうがっ!」
「ほう?聞けば分かると?」
「?!」
(『しまったっつ!この小娘め・・・。ハメおったな・・・!』)
魔人の言葉を聞いてテルトはあくまでも優雅に微笑する。
「なるほど?ではどのようなものか理解できればわたくしの願いを叶えてくださるのですね?」
「あっ、あっ、あたりまえだ!!我に不可能はないっ!なぜなら我は全知全能の精霊なのだからなっ!」
(『ええいっ!ままよっ!』)
もはや自棄気味にいう魔人の言葉を面白そうに聞きながら、テルトは芝居がかった口調で告げた。
「そうですか。それならばお教えしましょう。鋼鉄の虎の全貌の全てを・・・。」
いうなりおもむろに背中の背嚢から工房巡りをした時の辞書のような分厚い仕様書を取りだすと、自らの愛する鋼鉄の虎について、怒涛の如く語り始めた
「まず性能諸元から申し上げます。全長は8.45 m、車体長6.316 m、全幅3.705 m、全高3m、重量57 t、そして懸架方式はトーションバー方式。速度 は整地にて40 km/h、不整地にて20 - 25 km/h、行動距離 整地100 km、不整地60 km。続いて主砲は56口径8.8 cm 砲一門、副武装7.92 mm MG34機関銃2門。装甲は前面 100 mm、側面および後面 80 mm、上面および底面 25 mm。続いて動力です、エンジンマイバッハ HL230 P45水冷4ストロークV型12気筒690馬力。であります。・・・以上のところまででご質問は?」
「質問しかないのだが・・・(ボソッ」
「えっ!?今なんとおっしゃられたのですか全知全能なる魔人殿?」
「なっ!何でもないわ!続けろっ!」
嗜虐的な笑みを浮かべるエルフの少女と、明らかに動揺し始めた魔人を異様なものを見るまなざしで3人が見つめる中、テルトの鋼鉄の虎についての熱意と愛情のこもったレクチャーが始まった。
「シュバツさん?」
「わからん、分からんが気がすむまで放っておこう。」
「じゃな。まぁ幸いまだ水や食料にはゆとりがある。今夜はここで夜営としよう。」
蚊帳の外である3人は全く理解不能なその会話を理解することを早々に諦めた。
彼らが旅装を解き、夕食を済ませ、野営の寝床が済んだ頃、ようやく性能諸元から始まったテルトによるティーガー戦車の一大抒情詩は終わりを迎えようとしていた。
「・・・と言うわけで、その類稀なる性能と、卓越した技量を持つ戦車兵によって戦場で華々しく活躍した虎達も最後には数の暴力の前に敗れたのです・・・。」
静かに仕様書を閉じるテルト。
おもむろに空いている方の拳を握りしめ、高らかに締めくくる。
「しかしっ!我々の胸にその雄姿と、戦車兵の栄光の物語は永遠に刻まれているのですっ!」
「・・・」
拳を握りしめ、彼方を見つめるテルトと対照的に、魔人は嵐を潜り抜けた船乗りのようにぐったりとした表情をしている。
大きさはレクチャーの間徐々に火力を絞られていくガスコンロの火種のように小さくなり、今は成人男性の背丈ほどにまで小さくなっている。
精神体の世界に生きるが故の哀しさであった。
すっかりグロッキーの魔人。しかし、本当の地獄はここからだった。
「以上で私の説明は終わりです。何かご質問は?」
「・・・、・・・。」
「ご質問は?!」
「・・・ない・・・。」
「では今こそ私の願いを叶えてくださるのですね?!」
「・・・い、いや、しかし、だな、そのぅ、いくら何でも異世界の戦争機械などというのは・・・。ムリだ・・・(ボソッ」
「は?いまなんと?もしかして、できないのですか!?全知全能なのに?!」
口に手を当て、芝居掛かった口調で驚いてみせるテルト。
「うぐっ!」
言葉に詰まる魔神に容赦なく追撃をかける。
「エフリートさん、あなたの事は同族のヴァイリーから調べはついているんですよ?
聞けば上位精霊は空間魔法が使えるそうじゃありませんか!?
素晴らしい!
それならばティーガーを、あの鋼鉄の虎をこの世界に召喚することも可能でしょう?」
もはや外堀は埋められているが、エフリートはなおも呻きながら見苦しい弁解を続ける。
「いや、しかし・・・。それには膨大なエネルギーが・・・。形象のイメージもまだ我にはよくわからんものであるしだな…。」
冷汗をかき、後ずさりしながら言いかける魔人にテルトは滑るように追いすがり、頭をわしづかみにしながら言った。
「あ、る、で、しょう?エネルギーなら。1000年引きこもって溜めた有り余る力が。さぁ、キリキリ召喚してもらいましょうか?」
「ひぃっ!」
満面の笑みで魔人の頭蓋をぎりぎりと締め上げながら楽しそうに言うエルフの少女と、それに魂からおびえる魔人の光景を見ながらラーティルが呟いた。
「シュバツさん・・・」
「いうなラーティル。オレもこわい・・・。怖いから気のすむまでそっとしておこう。な?」
「賛成じゃ、触らぬエルフに祟りなし」
「「「うんうんうん」」」
こうして、誰にも止められないまま魔人は1000年の引きニートで溜めたおのれの力を全て吐き出すことになった。
そして・・・・、
≪パァーーーッツ!≫
テルトの前が光に包まれ何かが現れた
「こっ、これでどうdぶっ!!何をするっ!」
魔人の頭を思い切り魔術杖でしばきながらテルトが淡々という、
「誰が貯水槽を出せといいました?『ロシア向け水タンク』ならまだしも・・・チッ!」
ゴミを見るような目でエフリートを見るテルト。
目線は下のハズなのに、なぜか見下げられているような圧迫感を覚えてエフリートは喘ぐように言った、
「す、すまぬ、いまやりなおす。今やり直すからっ!」
≪パァーーーッツ!≫
「どうだっ!今度こそ!あうっ!何故ぶつのだ?! 戦車だろうが、これはっ?!」
「そうですね、よくできました。これぞまさにティーガー1ですね!・・・1/35の。・・・私を舐めていらっしゃいますよね?」
「もっ、もう一度だっ!もう一度チャンスをくれぇいっ!」
「いいでしょう。折角ですからこれはこれで頂いておきましょう。」
そのあとも、人知の超えた光景を全てを悟ったような平穏な表情で眺める3人の前で何度も光が満ち、魔人がシバかれていった。
(「「「魔人殿、哀れな・・・」」」)
「誰がベンガルトラを召喚しろと言いました?粛清しますよ?還してきなさい。」
「誰がワンコイン洗車コーナー的なプラント一式を召喚しろといったのですか?あなたの脳みそを洗車して差し上げましょうか?言語野がおバカ菌で汚れているのでは?」
「・・・再び1/35、しかもチハたんとは・・・。戦車界のアイドルを召喚すれば誤魔化せるとでも思ったのですか?いい加減粛清しますよ?」
・・・そんなやり取りが魔人の発動した召喚魔法の光の数だけ繰り返された。
それが100を数えた頃、周囲の無数のガラクタに取り囲まれ、左手にチハ中戦車、右手にティーガー重戦車の塗装済みプラモを持ちながら仁王立ちするテルト。
その足元に息はを切らせながら這いつくばるやせ細った魔人の姿があった。 その姿を見るでもなく、1/35ティーガーを弄びながらテルトが言う。
「あら、どうしたのですか?えっ?もしかして、もうおしまい?」
その言葉に肩を震わせながらも魔人は喘ぐように言う。
「も、もう・・・勘弁してくれ・・・。我が・・・我が悪かった・・・。」
「ほう、それはどういう意味です?」
「違うのだ、我は全知全能の魔人ではない、すこし・・・おぬしらをからかってみようと思ったのだ・・・ほ、ほんのげぇむのつもりで・・・。だ、だから・・・。」
必死に上目遣いで言う魔人にテルトはきょとんとしたあと、思い出したようにぽんっ!と手を打つと、こともなげに告げた。
「・・・あぁ!そんなことですか。」
「え?・・・え?」
「わかっていましたよ?出会った最初から。あなたが1000年この迷宮に、ゲームしたさに引きこもっていただけの単なる引きニート精霊だってことくらい。」
事もなげに言うテルトに魔人は声を失う。
「あ・・・。あ・・・。」
「そしてシュバツ殿の言葉を聞いて、私たちをゲーム感覚で弄んでやろうと思った?そうでしょう?」
「まさか・・・そんな・・・・」
「そのまさかに決まっているじゃないですか? でもせっかく無駄に1000年も力を蓄えていたのですからですから、もしや戦車の一両でも・・・と思ったのですが、期待外れでしたね。」
淡々と言うテルトの表情は彫像のように端正なだけに恐ろしい。
「エフリートさん」
「ひゃいっ!」
「私が保証しましょう、貴方は粛清にも値しない、無能精霊の中の無能精霊だということを。」
そう断言するとテルトは氷の微笑を浮かべた。
そして・・・
「あぁっ!うあぁあああああああ!!」」
魔人の心が折れた。
精神体としての限界を迎え、白目をむいて倒れた魔人に、テルトは暫く何事かを囁き続けていた。
翌朝、再起動を果たした魔人は人格が変わっていた。
「ごきげんよう、エフリートさん。あなたは私のなんですか?」
「・・・はい、私はテルト様の忠実なしもべ、エフリートでございます閣下。」
謹厳そのものの表情で頭を下げるエフリート。その様子に満足そうにテルトは頷いて続けた。
「わかっているなら宜しい。今回は役に立ちませんでしたが、もし再び私が呼ぶことがあったならば例えその身が原子に還元しても役に立ってみせなければなりませんよ?」
「はっ!そのご厚情、この犬めは感謝に耐えません。なんでしたらポチとお呼びください。」
「そうそう、そういう素直な心が大切です。エフリートさん。では私たちは帰りますので。」
エフリートの返事に満足したのが、そう嬉しそうに告げるテルトに、彼はうやうやしく頭を下げる。
「承知しましたテルト様。道中くれぐれもお気をつけて。お付きの方も先ほどまでの無礼な私をどうかお許しください。」
「「「・・・」」」
うやうやしく見送る精霊の変わり果てた姿と、精霊の人格を上書きしたテルトに戦慄しながら、一行はとにかく迷宮踏破を知らせるべく再び地上を目指したのであった。
「シュバツさん・・・」
「やめろ、おれもこわい。こわいから早く帰ろう・・・。」
「えるふこわい、えるふこわい。えるf・・・。」
・・・それからひと月後、王の親書を携えて改めて迷宮へと分け入った騎士団とシュバツの一行はソファの上に一言、
「たびにでます、さがさないでください。 エフリート」
震えた文字で書かれた羊皮紙を見つけるのであった。
どうやらテルトの「教育」は完全には成功しなかったようだ。
・・・こうして、テルトはティーガ―を手に入れるという悲願は叶わなかった。
だが心のオアシスとして1/35の偶像2両と、おまけにエフリートを服属させるという成果を手に入れて、ノ―ヴィスの町をあとにしたのであった。
魔法技術の発展著しいガリアへと入国した彼女は、そのガリアの首都アルドラである青年と出会うことになる。
その青年こそ、街頭で駅弁売りのような販売スタイルで試作品のハンバーガーの実食を懸命に勧める売り子姿のユーリアだった。
しかしそれはまた別の機会に語る事もあるだろう。
お読みいただきありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?外伝テルト編。
皆様のブクマ、評価、感想をお待ちしております。
この節目にブクマいただいている方は、評価、感想などいただければ幸いです。 より良い小説をより沢山の人に読んでもらえたら幸せですね…。




