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夢は国家公務員!?~異世界なのに転生者に優しくないこの世界~  作者: ETRANZE
外伝テルト編「エルフが魔人の心を折るまで」
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その4 戦車を求めて迷宮へ

そして、数刻の後。

テルトは傭兵ギルドの応接室にいた。


しばしの時腹の虫を聞きつけたラカンが気を利かせて用意してくれたパンとスープを応接室で遠慮なくモクモクと咀嚼するテルト。


やがてテルトの元いギルドマスターと出入りの宝石商らしき男が緊張の面持ちで現れた。


「まず、急な招待を詫びさせてくれ、私は傭兵ギルドのマスター、シュバツと言う。」


手を差し出すと、テルトと握手を交わす。


言葉は丁寧で品もあるが、服の上からでもわかるその鍛え上げられた肉体と、戦傷に飾られた面立ちは歴戦の兵のそれである。


彼は平時の騎士のような服装をしていた。


「私の隣にいるものは、宝石商のトネーコ、ギルドや王室御用達の出入り商人だから信用してもらって良い。」


紹介されたビロードのチョッキに貫頭衣を着た小太りの男トーネコは慌ててテルトに向かって頭を下げるが、すでにその視線は卓上の宝石に釘付けである。


そのトーネコの正直な反応ををやや面白そうな表情で横目で見ながらシュバツはテルトに告げた。


「・・・申し訳ないが、まずそちらのドライアドの涙を改めさせていただいて構わないだろうか?トネーコの反応から見るにその必要もなさそうだがね。」


そう少しだけいたずらっぽい声を出して、テルトに微笑んだ。


「ええ、構いません。。」


トネーコの様子はテルトの目にも可笑しかったので、そう微笑みながら返す。


「では、失礼して!」


トネーコは、前のめりになりながら、震えそうな手を宥めるようにゆっくりと絹の手袋を嵌め、宝石を持ち上げると拡大鏡で食い入るように検分をはじめた。


最初興奮気味に見えたトネーコはやがて、


「うむぅ・・・」


とか、


「はぁ・・・」


とかため息が混じるように呟き、さらにいくばくかのあと、瞬きを忘れていたのか目頭を揉むと、宝石を静かに戻し、テルトへと告げた。


「いや、ありがとうございました。久々に良いものを見せていただきました・・・。ラカン氏からお話を頂き、ある程度心の準備はしておりましたが、これほどのものとは・・・いやはや。」


そう言いながらしきりに顔を揉みしだくあたり、宝石商として並々ならぬ興奮の中にいるようだ。


「そんなにすごいものなのか?私には綺麗な石にしか見えんのだがなぁ。ハハハ!」


嘆息するようにいうトネーコにシュバツは豪快に笑っている。


先ほどの物腰は表向きのもので、本来はこちらが地なのだろう。



「それで、いくら位になるのですか?」


そう尋ねるテルトに、トーネコは真剣そのものの表情で厳かに告げた、


「・・・金貨一千枚でいかがでしょう?」


「「なっ?!」」


「?」


ギルドマスターとラカンの目が驚愕に見開かれ、椅子から立ち上がりかける。


今までの人生を人間の貨幣経済の外で暮らしており、金額にピンときていないテルトだけが場の異様な雰囲気に首をかしげていた。


その反応に慌ててトーネコは続ける、


「すみません!お二人の反応はもっともです!私の言葉足らずでした。」


「「えっ?」」


慌てて訂正するトーネコ、そして戸惑う二人。


「一粒につき・・・、1000枚です。」


二人の驚愕した金額の5倍へと金額は跳ね上がった。


「そうですか、ありがとうございます。」


「「・・・」」


取り敢えずお礼は言うべきだ、そんな相槌のような意味で軽く頭を下げ答えるテルト。


口を半開きで固まった二人。


その様子に気づいているのかいないのか、しみじみと告げるトーネコ。


「いえいえ、お礼を申し上げなければならないのはこちらのほうです。


このような品を自分で扱う日がこようとは…。今世の中に出回っているドライアドの涙にこれに匹敵するものが無い以上、これでも控えめな金額かもしれませんが・・・。」


「けっこうです。私が持っていても仕方の無いものですから。ただ、金貨で5000枚というのは少し不便ですね・・・。」


考え込むように、首をひねるテルト。


しかしトーネコはそのあたりの事もしっかりと考えていた。


もし『かさばるから』などという理由で


『換金は一粒だけ、残りは宝石のままポケットに』


などという話にでもなれば千載一遇の商機は去ってしまう。そんなバカげた話はない。


待っていましたとばかりに頷きながら力強く請け負った。


「その点についてはご心配なく、主要諸国の商人ギルドと冒険者ギルドで通用する小切手でご用意いたします。


額面も金貨100枚程度の少額に分けてお渡しいたします。


とりあえず御入用なものもあると思いますので、金貨50枚ほどは銀貨などと合わせて硬貨でご用立ていたしましょうか?」


金貨100枚は全く少額では無いのだが・・・。


「ご配慮感謝いたします。ではそのように手配してください。」


金銭感覚の無いテルトにそのような突っ込みは不可能であった。


「分かりました。私共商人の習慣としまして、大口の取引には証人を立てさせていただいております。ギルドマスターどのに今回は証人になって頂きたいのですが宜しいでしょううか?」


「あ、あぁ・・・、あぁ勿論だとも。喜んで請け負おう。」


驚愕を通り越して凍り付いていたギルドマスターはトーネコの言葉にようやく再起動を果たし、夢から覚めたように頷いている。


結局、あくまでも冷静なテルトと、興奮の抑えられないトーネコにより、取引の詳細が詰められる間、二人は顔を見合わせたまま座っていたのであった・・・。


後日の引き渡しの日取りが決まり、トーネコがラカンに伴われて退席する。


そこから漸く、シュバツは彼女から何故エルフが人間の里へ、そしてここノ―ヴィスへ流れてきたのか、その経緯を聞くこととなった。


テルトは途中秘書と思しき女性がもってきた砂糖菓子を遠慮なく咀嚼しながら、ドールア帝国と里との長い確執の歴史、そして今回の対エルフ戦闘に特化した帝国軍の侵略、そして撃退までの話ををかいつまんで語っていった。


「・・・なるほど。帝国の執念には恐れ入るな・・・。しかし、その年で4元素の上級魔法を使いこなすとは・・・。人間が一生をかけても辿りつけぬ高みにいるとはなぁ。テルト殿の才能の豊かさよ。」


そう嘆息するシュバツに淡々とテルトは答えた。


「エルフは恐らく皆がそれだけの素養は持ち合わせているでしょう。私のように古いしきたりや、考えに無頓着であるならば、エルフのだれもがそこへ辿り着くだけの力を秘めています。」


「なんと…、改めて古の民の血の恐ろしきことだ。・・・、しかし・・・、そうであるがゆえに、エルフの民は火や土の魔法を禁忌として自らの力を縛ってきたのかもしれぬな・・・。」


呟くシュバツの意外な知性の片鱗をテルトは感銘と共に聞いていた。


優秀な軍人は優秀な頭脳を持つのは世界が変わっても同じらしい、そう嬉しく思いながら。


「おっしゃる通りです。であればこそ私は里を追われねばならなかった…。」


少し自嘲の色を込めてつぶやくテルトにシュバツは言った、


「若いのに好んで苦労をする方だな、貴方も。」


首をすくめながら言うシュバツにテルトは久々初めて人間に対して心から微笑んだ。


「ええ、シュバツ殿のように頑固な性格ですから。」


その日の会見はそれでお開きとなり、シュバツは身分証明版の発行を受けってくれた。


砂糖菓子の残りもさり気なく自分のチーフに包んで渡してくれた。


彼はできる男であった。


そしてテルトはトーネコが示した宝石の引き渡しの日まで、ギルドの職員がリストアップしてくれた鍛冶公房を回ることにした。


なんのために?


愚問である、もちろん、戦車のためにだ。


外観図を描き、魔力式の発動機の概略や、特殊鋼の代わりにとミスリルを混ぜた金属板などの素材について記し、砲の性能や速度などを網羅した仕様書を資料として携えて。


さながら製品の外注先となる町工場を探すサラリーマンである。


しかし、予想はしていたものの、返事はそっけないものであった。


「嬢ちゃん、馬鹿を言っちゃあいかん、そんな魔道具を作るとして一体どれほどの量のミスリルが必要か見当もつかん!それにそのような複雑な動く機械など作れるものか!」


ある鍛冶公房のマスターは言い、


「魔力で動かすですと・・・。御冗談でしょう?これだけ巨大で重量のある物体を魔力で動かしたらあっという間に術者の魔力は枯渇し、干からびて死んでしまうでしょうな。


しかも馬が駆けるよりも早くですと?


ギルドの紹介状があるゆえ形ばかりはお相手したが・・・。すまないがお引き取りいただきたい。」


魔道具工房の魔術師は夢遊病者でも見るような目でそう告げた。


そして大した時間もかからず、ノ―ヴィスの全ての鍛冶公房、魔道具工房を訪ね歩き、テルトは見事に玉砕した。


残る望みはドワーフの王国か、魔法技術の発展著しいといわれるガリア王国くらいしかないだろう。


しかしドワーフはエルフと犬猿の仲であり、ガリア王国には何の人脈もない。


テルトは再び絶望しそうであった・・・。


だか、希望は思わぬところから投げかけられた。


受け渡しに証人として立ち会ったギルドマスターから迷宮探索の誘いを受けたのである。


それはノ―ヴィスの郊外にある荒れ地で最近見つかった古代文明の迷宮だった。


そしてその迷宮に封じられると伝えられる存在こそが、


「全ての願いを叶える」


そう伝わる伝説の精霊エフリートであるというのだ。


「迷宮・・・。全てを叶える?本当に?」


話を聞き、呆然とした表情で問い返すテルトにシュバツは正直に告げた。


「あくまでも500年ほど前に書かれた古文書による伝承では、な。


しかし、古代文明が我々の計り知れない技術と魔法文明を持っていたことははっきりしている以上、可能性はあると考えている。


別に恩を返してくれなどと厚かましいことは言わぬ。ただ、貴殿の魔法の力を見込んでお願いしたい、如何だろうか・・・?」


そう武人らしくひたむきに、ギルドマスターに似合わぬ低姿勢で頼みこむシュバツにテルトは言った、


「やりましょう。私の願いのために。」


そう、力強く。

さて、いよいよ、テルトは迷宮へ。

しかし、ドライアドの涙、すんごい価値ですね。ギルマスの生涯給与余裕で越えてるんでしょうね(;´・ω・)


ブクマ、感想、評価お待ちしておりますっ♪

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