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夢は国家公務員!?~異世界なのに転生者に優しくないこの世界~  作者: ETRANZE
外伝テルト編「エルフが魔人の心を折るまで」
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その1 矜持と雪辱

外伝テルト編です。


王都に辿り着くまでの彼女を描きます、若干シリアス展開です。

ユーリアが生まれたのと同じ頃、エルフの里にもまたひとつの命が生まれていた。


緩やかに年を重ね、数百年の歳月を生きるエルフは元来人口の増えにくい種族である。


そんな中にあって里の中で実に10年ぶりとなる赤子の誕生を両親は勿論、里に暮らすもの全員が喜んだ。


「この新しき命を、テルトと名づける。この者に精霊と大森林の加護のあらん事を。」


そして里の長老の厳かな宣言によって、その赤子は「テルト」と名づけられた。


エルフは魔法の素質豊かな種族である、特に風や水といった系統の魔法は得意で、魔術、精霊魔法にかかわらず得意とするものが多い。


当然幼いうちから魔法の素質の片鱗を見せるのだが、テルトもこの例に漏れず、一歳になる頃に魔術を使い両親を驚かせた。


けれど、その喜ぶべきわが子の成長の瞬間は夫婦の秘密として決して、明かされなかった。


 

 ある日の昼下がり。


父は畑仕事に出かける中、母が家事をしに寝ているテルトを置いて目を離したわずかな時間、わが子は寝床からいなくなっていた。



「テルトー?テルト?どこへ行ってしまったの?」


「キャッ、キャッ!」


慌てて探しかける母に、わが子の楽しそうな笑い声が聞こえてきた、母は安堵しながら台所のほうに目をやると、息を呑んだ。



竈から炎が吹き上がり天井を舐めるように燃え上っている。


「テルトーッ!!テルト!大丈夫?怪我はないの?!」


テルトはいきなり現れた母親がなぜ心配そうな顔をしているのか理解できず、きょとんとしていた。それでも視線は燃え盛る炎から離さない。


前のめりに駆け寄り、わが子を抱きしめながら、母は混乱した頭の隅で理解していた。


(この子がやった・・・。この子が火魔法で竈に火をつけたのだわ・・・。)


森に住まい火を忌み嫌うエルフは決して埋み火のように火種を残したりはしない。


面倒でも必ず必要な度に必要なだけ火を使う、自然に火がつくなどという可能性は万に一つもないのだ。


エルフにとって火は必要悪のような存在であり、忌むべきものだった。


(しかしこの子は・・・。)


母はわが子の才能の開花を祝福する気にもなれず、ただ火を見つめながら楽しげに笑うわが子の横顔を見つめていた・・・。

 

それから、数年が過ぎた。テルトは一見何の変わりもないエルフの子供として成長していた。


べつに火魔法しか使えない、というわけでもなく、程なく風と水の魔法も、魔術精霊魔法ともに使えるようになった。


テルトには魔法の才能があった。


「おぉ、なんと爽やかな風のそよぎじゃ、そしてなんと清らかな水の流れであることかのう。まことにテルトは将来の楽しみな子じゃ。」


テルトがその幼さに似合わず、風や水の魔術、風と水の精霊術を披露して見せると、長老をはじめとする周囲の大人たちはみな才能豊かなテルトを喜んだ。


「ちょうろうさま、ありがとうございます。これからも水と風に愛されるエルフであるようにしょうじんいたします。」


幼い姿でかしこまり、そういいながらペコリと長老に頭を上げてみせる愛らしい姿に誰もが微笑み、「火魔法や土魔法を使って見せろ」、などと言うものはいなかった。


忌むべき火と、ドワーフの得意とする土魔法などどのエルフにとっても存在しないも同然だった。


だが両親は知っていた。


テルトが密かに火魔術だけでなく土魔術も風と水と同じくらい、いやそれよりもはるかに巧みに操るようになっていたことを。


「火の精霊さん。みんなねー、あなたのことが怖いんだって。こんなに綺麗なのにねー。だからね、こうやってお話してるのはテルトと精霊さんと二人だけの秘密だよー。えへへ。」


煮炊きの間にだけ灯る竈の火、その火に呼び寄せられるように束の間やって来るか細い姿をした火の精霊に向かって、娘が親しげに語りかけている事を。


両親たちには微かに魔力の揺らぎを感じるだけで見ることはできないが、テルトには確かに見えているであろう精霊と。


そして両親はそのことを誰にも漏らすまいと話し、頷きあった。


子供ながらにわが子は火魔法や土魔法がこの里で忌まれていることを知って、意識して自らの力を隠している。


であるならば、事を荒立てることなどない。


自分たちが口を閉ざしてれば、十分に才能豊かなこの子と、家族仲良く里で幸せに生きていけるだろう、そう思っていた。


確かに、それは正しい選択肢といえた。


ゆっくりと流れる穏やかで、変化は少ないが幸せな日々。


しかし、平穏な時はテルトが16歳になろうとしたときに突如として終わりを告げた。


悠久の時を生きるエルフの両親にとって、それはあまりに短いわが子との平穏な時間の終わりであった。


 

エルフの里は突如として数十年ぶりとなる、ドールア帝国の襲撃を受けたのである。


ドールア帝国。


百年ほど前に建てられたこの人間の国は、建国の昔からしばしばエルフの里と諍いを起こしてきた。


建国からほどないある日、帝国から使者がエルフの里を訪れた。


「森の賢者と称えられるエルフの民よ、どうかわれわれに力を貸していただきたいとの皇帝の仰せでございます。」


建国の始め、ドールア帝国は使者を立て、丁重な様子でエルフとの交易と、豊かな大森林の森林資源を利用する許可を求めてきた。


しかし、新興の人間風情の皇帝など、自分たちを神と精霊に愛された高貴な存在であると信じるエルフたちは歯牙にもかけなかった。


低頭して返答を待つ王国の使者に長老は冷たく告げた、


「帰られよ。そして建国幾年にもならぬ若輩の皇帝とやらに伝えよ。我ら誇り高きエルフの民、いかなる人間にもまつろう事はない。


・・・われらの森に手をかけてみよ、きっとその血で贖うことになろう。とな。」


長髪とも侮辱ともとれる長老の発言。


怒りに震える使者が王国へ戻って間もなく、ドールア王国の軍勢が大森林目掛けて押し寄せてきた。


「愚かなる人の子に教えてやらねばなるまい。エルフに仇為すということがどういう事であるかを。」


長老は数千の軍勢を大森林の入り口で、僅か数十人のエルフと共に迎え撃ち、完膚なきまでに人の軍勢を打ち負かした。


ある兵士は突如伸びてきた蔦に絡めとられたまま濁流に呑まれ、またある兵士は巻き起こった竜巻に全身を切り刻まれてボロ切れのように中空に放り上げられて。


帝国は何も得ることなく、それどころか森に一歩踏み入ることすら叶わず、いたずらに千人あまりの屍をさらして退いていった。


同じことが二度ほど続き、帝国はそれきり再び軍勢を送ってこようとはしなかった。


長老は満足し、二度と人間が愚かな真似をすることの無いよう、大森林にエルフの弓使いによる結界を張った。


時おり、大森林の豊かな自然を欲して森に分け入ろうとする愚か者もいたが、それらは全てこの結界を守る弓使いによって容赦なく射殺された。


やがてそのような無謀な人間も絶え、この数十年エルフの里と大森林は不可侵の土地となったはずだった。


しかし、突然その時はやってきた。


「に、人間の襲撃だ!数およそ100っ!ぐっ、お、男たちは戦支度を整えろ・・・!女子供は、女子供は早く、大森林のお、く、へ・・・。」


村の広場までよろめき出て、そういいながら息も絶え絶えに告げた弓士の結界を担っていたエルフは、そのまま傷だらけの体で前のめりに倒れたきり、動かなくなった。


エルフたちに動揺が広がりかけるが、そんな同族を長老は叱りつけるように言う。


「うろたえるな!大方、矢除けの魔法でも使われ、不意を撃たれたのであろう。


人の兵は百名足らずという。魔法の使える者達は私の元へ集まれ!


いささかの時が流れて、うつろい易き人間たちはもう自分たちの無様な過去を忘れたようだ。久々に教えを垂れてやらねばなるまい!」


「「「オオッ!」」」


「皆も案ずる事はない、すぐこのつまらぬ諍いも終わろう。魔法の不得手な者達はここに留まり、万一の伏兵に備えて女子供を守るがよい。」


その長老の力強い言葉に男たちが叫び、魔法の使い手たちは50人ほどの集団となって森へと消えていった。


結界の男は賢明であった、襲撃のほぼ正確な人数を伝え、敵を侮ることなく、万全の体制を整え、戦えないものは逃げろと、そう告げた。


しかし、長老は結界の弓使いが命がけで伝えた数を知ったが故に敵を侮った


敵を侮り、50も魔法の使い手がいれば訳もなく人間風情の軍勢は草木でも刈り取るように倒せると信じて疑わなかった。


仕掛けられたいくさを諍い(いさかい)と呼び、戦えないものたちを大森林に逃がすこともしなかった。



なぜ人間が100というそれまでにない少数で、魔法に卓越したエルフに襲撃をかけてきたのか考えもせずに・・・。


お読みいただきありがとうございます。

常に新規のUVが1話にあるのは嬉しいものですね。ブクマや評価など(切実に 笑)お待ちしております。



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