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衛士とは(哲学)

少し短いですが、きるのよいところまで、ということで(汗

「お手柄。フルーよくやったな。


ではこの隠し扉とその中の「積み荷」。


一体どういうことか説明してもらいましょうか?


奴隷の密輸は重罪だと勿論ご存知でしょう?バルタスさん。」


「・・・・。」


ようやく目が覚めたような眼差し、かすかに眉根を寄せ、静かな怒りを込めて問いかけるユーリア。


先ほどまでとは違う気迫のこもった視線を受けてバルタスは糸が切れたようにがっくりと膝をつき、うな垂れる。


どうあがいても口八丁でここからごまかすことなど出来そうにない。


違法奴隷の密輸入など、悪くすれば死罪。


よくても犯罪奴隷に堕とされることは間違いないのだから。


すっかり肩を落として、大人しくなってしまったバルタスに歩み寄りながら内心ユーリアは安堵のため息をついていた。


(よかったー。下手に逆ギレでもされて暴れられても困るし、違法奴隷の発見は、まぁ手柄と言えば手柄なんだけど・・・。


別に今日の残りの仕事が減るわけでもないしなぁ。


でも案外すんなり認めてくれたみたいだし、サッサとこの後の審査を済ませてしまえば今日もなんとか・・・)


そう考えながら、バルタスに縄をかけるべく歩み寄ろうとしたその時、耳障りな音程の外れた声が飛び込んできた。


「馬鹿共がぁああっ!!おい!バルタス、何を諦めていやがる!!俺達にはこいつがあるだろうが!」


(うわー。まじかぁ〜。勘弁してくれぇー。諦めろー、諦めてくれー。トホホ・・・。)


レギナさんはどうやら素直に諦めモードとはならなかったようだ。


懐から複雑な文様の描かれたスクロールを取り出すとバルタスに向かって叫ぶ。



元々ストレスに弱い小心者だったのだろうか、悪事が露見したショックのあまりハイになってしまっている。


完全にあちらがわにイッてしまったのだろう、瞳孔の開いた目がちょっと怖い・・・。


(これはもうだめですかねぇ・・・。)


と思いつつも定時上がりを諦めきれないユーリアは最後の説得を試みるべくあくまで優しく、ゆっくりと声をかけた。


「あ、あのーレギナさん、大丈夫ですか?気を確かに?もうそういう三下が言う様なセリフが出てきた時点でおしまいな気がしますよ?


ねっ?ここはもう大人しく我々と一緒にご同行していただけませんかねぇ?ダメ?」


「やめろレギナ!それはあのお方から盗賊除けに預かったものだろうが!いまさら・・・」


ユーリアは前世の記憶が導いた若干メタい知識と無自覚のディスりがミックスされてしまった説得。


すでに十分アレな状況に、これ以上ケチをつけたくないバルタスは必死に相棒に呼びかける。


だが、二人にとって残念なことに、イッてしまわれたバルタスさんには届かなかったようだ。


「うるさいうるさいぃぃ!誰が三下だ!後悔させてやるぅううう!!貴様ら全員蹴散らしてぇえええ、逃げおおせてやるぞぉおおおお~!!ウヒャヒャヒャヒャ!」


よだれと鼻水を垂らし、絶叫しながらスクロールを投げ上げると、黒い炎をあげ、中空に黒々とした魔法陣が現れた。


「危険だ!テルト!いったんそいつから離れろ!」


そうユーリアが鋭く叫ぶのとほぼ同時に、テルトは意外な身軽さで、後ろ飛びにレギナから距離を取る。


そのままユーリアの元へ走りこんできた。


「なんだなんだぁ?」


・・・そんな中、違法奴隷二人を降ろそうと両手に抱えて荷馬車から顔を覗かせたフルー。


いつものように危機感のないのほほんとした声、緊張感ゼロである。



そんな彼らの前でレギナが瞳孔の開いた瞳で叫ぶ、


「主との約定を今こそ果たせえぇ!冥府より出でよ!死霊騎士達いぃい!!」


その刹那、スクロールが一瞬不気味に輝くと黒い炎とともに燃え上がり、地面に黒く蠢くシミが幾つも生まれる。


シミが広がったと思ううちにその漆黒の地面の切れ目からゆっくり這い出る冥府の亡者達。


長剣と盾で武装した白骨の戦士たちがそのホラーな姿を現し始めた。


「ひぇえええ!化け物!」


骸骨戦士スケルトンウォーリアだ!逃げろ!」


「いや、あれは骸骨騎士スケルトンナイトだ!無駄飯ぐらいの衛士じゃ手に負えんぞ!!誰か王竜騎士団を呼べ!」


野次馬根性で集まっていた人々は悲鳴とともに四散してゆく。


騒ぎを聞きつけてめったにない捕り物にお祭り気分で駆け出してきた暇を持て余した衛士たちも我先に逃げ出してゆくのが見える。

あれ? 衛士・・・?


(だがそれも責められないか。)


目の前のホラーな光景も気にならないのかユーリアは場違いにのんきに考える。


王城に詰める王国騎士団や、近衛兵ならいざ知らず、衛士は仕事にあぶれた傭兵や一般市民が多い。


普段はせいぜいチンピラやコソ泥の相手が精々で、モンスターなどお目にかかる機会はまずないのだ。


王国の創成期や、そんな棲み分けのあいまいな辺境ならともかく、今はガリア歴216年。


人間は人間、モンスターにはモンスターの縄張りがある。


踏み入ればお互いに血を見るのがわかっているので、好き好んでお互いのテリトリーにちょっかいを出すもの好きはあまりいない。


魔物はゴールドもアイテムも落とすわけが無いし、剝ぎ取りも一部の例外を除いて需要は無い。


そしてモンスター達も人間を滅ぼして世界征服を目論んでいるわけでは無いのだ。


ましてや障気の濃い戦場や死霊術でもない限り、アンデッドやスケルトン系のモンスターは自然には生まれない。


逆に、モンスターがポコポコ国の首都の周辺に次々生まれてくる世界ってどんなのなのだ。


そんな王道RPGみたいな世界、ハードすぎるぞ。


いちおう衛士長クラスには一線を退いた騎士や、腕に覚えのある傭兵出身の衛士もいる。


だが、そういった者たちも恐慌状態になった野次馬を非難させるのに手を取られて全く身動きが取れずにいる。


(はぁ~、これってもしかしなくても、自分たちがなんとかしなきゃいけないパターンかぁ…。)


そう心の中でユーリアが本日何度目かの全力投球のため息を吐きかけたその時!


『『ザッ!!』』


衛士の動きに変化があった。


職務放棄で逃げ散るのかと思いきや、2-30ドーガ(1ドーガ=1メートル)離れたあたりで、華麗にUターンする。


衛士たちはまるで申し合わせたかのように城門を背にしたモンスターを取り囲み一糸乱れず剣と槍で壁を作って見せたのである!


「お?お?おぉー!あの無駄飯ぐらい共の衛士たちがか?!し、信じられねぇ。」


「いいぞ、衛士!日ごろ怠けてる分、やってやれ!」


市民からもその意外すぎる行動に、悪口7期待3の声援?が飛び交う。


レギナも召喚はしてみたものの、衛士の圧倒的な数を前に、どこへ死霊騎士たちを叩き付けるべきか逡巡しているようだ。


暫くの時が過ぎた。


しかし・・・、待てど暮らせど、衛士はそこから微動だにしない。


衛士たちの形成した包囲の輪は、一向に縮まる気配がなかった。


「「「「????」」」」


市民が再び困惑し、不安を感じ始めたその時・・・、遂に衛士は口々に勇ましく「口撃」を開始した!!


「おのれ、死霊の類か!!わが剣の錆にしてくれるわ!!くぬっ!あれ?ふんっ!」


(・・・錆び付いていて剣が抜けてないんですが・・・。)


「この一騎当千の兵、ビタスの名を知っての狼藉か!!」


(・・・知らん。アンタ誰?)


「そこを動くな!邪悪なるものども!わが聖槍ゲイボルクを食らえ!」


(おーい、どっからどう見ても官給品の鉄の槍だよそれ。)


勇ましさが逆に哀愁を誘う叫びが虚しく城門に跳ね返る。


決め台詞と決めポーズを済ませると衛士達は一ガドも動こうとしない。というか動けないようだ。


半数以上の衛士の膝は生まれたての小鹿のようにガクガクと震えている。バ○ビか。



い、いや・・・きっと武者震いなのだ・・・そういうことにしておこう。



・・・いい大人たちが厨二病なうえにチキンとか、もう目も当てられない大惨事である。


(う~ん、職務放棄と判断されて、解雇されちゃうと明日から飯の食い上げ、しかし命は惜しい・・・。


衛士さんたちなりのギリギリの自衛手段だと言う事は理屈ではわかる。


わかるんだけどなぁ・・・。あの~全部僕らに丸投げっすか?)


そんな思いを込めて彼らをこの上なく生暖かいジト目で見つめていると、男たちはチラッ、チラッとユーリアに視線を送ってくる。その2ダースの血走った目、涙ぐんだ目、哀願するような目。


彼らはユーリアに必死に訴えていた、



(「「「はやく!! お前が!! なんとかしろ(して)!!」」」)


目は口程に物を言う、これほ今の状況にしっくりくる言葉をユーリアは他に知らなかった。


「なぁ、テルト・・・。衛士って何だろうな・・・。」


「・・・。」


必死さと哀願とが交錯した光景を見ながら、テルトに発した哲学的な呟き。


彼女は答える事は無く、その呟きは虚しく風に吹かれて消えていった。

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