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君となら  作者: 中原やや
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旅立ち 1

 あれからロードは、クリスと翌日、町の東門で会うことを約束し、いつもの安宿屋<アトラス>に帰っていた。そして、そのことを報告すると「お前が野郎と旅するだぁ?こりゃ明日は嵐だな!」と主人は豪快に笑った。しかし、ロードを5年もの間、世話をしてきたことは事実で、いざいなくなると寂しいものがあるのか、時々目頭を押さえてはいたが。

 その主人、アトラスの予報とは裏腹に、この日も快晴だった。ロードはいつものようにアトラスに起こされ、いつもより豪華な朝食を食べ終えると、クリスとの待ち合わせの場所へ向かう。東の門にはすでに、クリスの姿があった。彼にまとわりつくように少年の姿も見える。

「あっ!」

「よう」

 少年がロードを見て指をさすが、ロードはそれに左手を上げて答えた。

「やっぱ、ガキも一緒か」

「おいら、ガキじゃないやいっ!!アルフレッド=フォックスって名前があるんだいっ!」

 ロードのからかいに、<レッド>はぴょんぴょん飛び跳ねて抗議する。それでも、ロードの胸くらいまでしか届いていなかったが・・・。

 そんな彼を見て、クリスは微笑み、

「ロード。この子はアルフレッド。俺は<レッド>って呼んでる。今は・・・、まだあまり詳しく言えないけど、俺の旅の相棒なんだ。仲良くしてやってほしい」

 言うとレッドの背を押し、ロードの前に出す。ロードはレッドの赤い頭をぽんぽんと優しく叩くと、

「よろしくな、ボーズ」

「・・・・こちらこそ。おっさん」

 二人の無言のにらみ合いに、クリスは「やれやれ」と肩をすくめた。

(この先が不安だな。・・でもロードが一緒に来てくれたことで、かなり戦闘が楽になるのは確かだ。正直、俺一人では不安だったからな)

 ロードとレッドはひとしきりにらみ合った後、ほとんど同時にプイっと顔をそらしていた。そのままの格好でいる二人に、クリスは口を開く。

「ほら、いつまでそうしてる気だ?置いてくぞ」

「あ!待ってよ!クリスぅ〜〜」

 駆け寄るレッドと、小さくため息をつくロード。

 そして、奇妙な三人の旅は始まった。



 

 クリスはどうやら東の町<ピース>に向かっているようだった。理由を尋ねると、彼は、「秘密」としか答えなかった。

 <リリィ>から<ピース>までは街道でつながってはいる。しかし、街道と一言で言っても、森を切り開き、人や馬車が通れるようにしただけの簡易なものであったが。

「なんで馬車で行かねぇんだ?」

 と、ロードが訊くと、「モンスターに囲まれたらどうするんだ?」との返事が返ってきた。確かに毎日のように、町新聞に『モンスター 馬車を襲う!』の文字が記載されている。ロードはあまり詳しく読んだことはなかったが、モンスターに驚いた馬が暴れだし、暴走するのも危険の一つに挙げられていた。 

 ロードの前を行く、クリスとレッド。

 クリスはライトアーマーの下にゆったりとした淡いグリーンの長袖のシャツと赤茶のズボン。腰のベルトはこげ茶色で、ブーツ・手袋と同じ色だった。これは、ロードがクリスと初めて会ったときの服装と同じものだったが、今回はそれに加え、グレーのマントを羽織っていた。

 レッドはというと、アーマーのたぐいはつけておらず、動きやすそうなチェックの半そでのシャツに赤い短パン。背中にリュックを背負っていた。

 背中に揺れるクリスの輝くブロンドの髪を見つめ、ロードは今朝の新聞を思い返していた。

「わが町のジャクソン町長 本性現す!!」

「セブの酒場で男を口説く!!」

「町長 支持率激減!!辞職か!?」

 様々な見出しが頭をよぎる。昨夜のことを思い出し、ロードは(町長もマヌケだな)と思わずにはいられなかった。約8年も町長として、<リリィ>を治めてきた。それが、昨夜、酔った勢いでクリスに言い寄ってしまい、全てが水の泡となりつつある。おそらく、当の本人はまるで覚えが無いだろうが・・・・。

 そんなことを考えていると、

「どうかしたのか?」

 クリスが振り向き、ロードに問う。

「何か考え事か?」

「今朝の新聞だよ」

 ロードはちらりとクリスを見て言った。クリスはそれで分かったらしく、

「自業自得じゃないかな?」

 と、冷たく言う。

「そうは思わないのか?ロードは」

 逆に問われてロードは、「うーん・・・」とうなり、頭をかいた。

「俺は人の事、とやかく言えねぇしな・・」

 頭の後ろで腕を組み、澄み渡った青空を眺める。暖かい陽気に小鳥がピチチと鳴きながら飛んで行った。

「ねぇ。どうしてロードは右に下げてるの?」

 突然の問いに、ロード始め訳が分からなかった。声の主を見下ろす。

「はぁ?」

「だから!どうして剣が右にあんの?左にあるのがフツーじゃねぇの?」

 レッドはやや苛立たし気に言う。ロードは口の端を上げた。

「俺は、左利きなんだよ」

「ふぅ〜ん・・・なんかクリスのと形が違うね」

「そりゃそうだ。俺のはロング・ソード。クリスのはライト・ソードっていう細身の剣」

「ロングは腕の良い剣士じゃないと扱えないくらい、重くて強力なものなんだよ」

 ロードの言葉にクリスは続けた。

「それに、ロードのは改良されてるみたいだし、だいぶ年季が入ってる。剣士なら剣を見ただけで、その人の実力がわかるんだよ」

「へぇ〜〜」

 感心するレッド。まじまじとロードを見つめる。その視線に耐え切れなくなり、ロードが口を開きかけたそのとき、

「じゃあ、なんでロードのは鎧が皮なんだ?」

「ぐっ・・・!」

 痛いところをつかれ、思わずうめきが漏れる。ちらりとクリスを見ると、フッと笑っただけで答えようとはしていなかった。自分で答えろということらしい。

 ロードは一つため息をつくと

「俺のはこれでも、はがねだ。長年使ってるから痛んできたんで・・・この前、上から皮を張ってもらったんだ。一見ただの皮に見えるけど、かなり丈夫なんだぜ?」

「はがね?あ、ほんとだ」

 腹の部分をコンコンと叩き、レッドは確認する。そして、視線を右手の盾に移し、

「盾も?はがね?」

「ああ。こっちも改良してる。つーか、クリス。お前、盾いらねぇのか?」

 ロードは通常、盾を装備していた。鎧と同じく、こげ茶色で、鎧の下には青いシャツと黒のアンダーシャツ。手袋・ベルト、ズボンも黒で、マントはつけていなかった。右肩に小さめのリュックをひっかけている。この中に、着替えやら少しの非常食を入れていた。

 ロードに問われ、クリスは答えた。

「俺はらないんだよ」

 言い、にっこり笑う。レッドも「うんうん」と大きくうなづいている。

 ロードは少し眉根を寄せたが、今は特に理由を知りたいとも思わなかった。





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