エピローグ
「ここまでくりゃ、もういいだろ」
「そうね・・・」
二人は今、小高い丘の上に立っていた。ここからだとローズ城が一望できる。オレンジ色の朝陽が、くすぶる城と賑わいを見せ始める城下町とを映し出していた。
庭園を水浸しにした後、二人はジェイコブに後の事を全て任せてここまで走って逃げていた。後の事とは、もちろんクリスの王女としてのことである。
「部屋でお父様宛に手紙を書いておいたの。それを必ず見せて。お願いね」
王女としての最後の命令にジェイコブは「承知いたしました」と騎士の礼を示して言った。そして、それはロードにも示される。
「姫様を・・・どうか宜しくお願い致します。ロード殿」
改めて畏まられ、ロードは顔を赤くしたが、いつものように口の端を上げると手を差し出しながらこう言っていた。
「・・・いつかまた本気で戦ろうぜ」
城下町まで流されていた兵士たちがぞろぞろと城への坂道を登っているのが見える。もう、どうやらロードとクリスを追いかける気力も無いようだった。
「ねぇ」
クリスは隣のロードを見上げた。朝陽が眩しいため、少し目を細める。
「どうして、私を助けようと思ったの?」
クリスは少々赤くなりながら訊いた。ロードは困ったように頭を掻き、
「どうしてって言われても困るけど・・・」言いながら城を見下ろす。
「お前がいないと淋しいから、かな」
クリスの顔がみるみる真っ赤になった。さらりとキザなセリフと言うロードから視線を足元に落とす。
(・・・時々、ロードってキザよね・・・)
高鳴る胸に手をやり落ち着かせていると、ロードが「あ、そうだ」とその場の雰囲気をぶち壊すような声を出した。思わず振り向き、クリスはロードを見やる。
「ハーグがさ、俺たちにくれたんだぜ?金貨約100枚!」
「ハーグ王が?・・・・大丈夫なのかしら、セージ城」
「さぁね」
セージ城の財政を心配するクリスにロードは肩をすくめて見せた。
「何とかなるんじゃねぇか?ハーグのやることに間違いはねぇよ」
「私たちが心配するまでもない・・・わよね」
なだらかな斜面をゆっくりと下り始める二人。
先に降りていたロードがクリスを振り仰いだ。
「お前の親父は・・・怒ってるだろうな、きっと」
「そうね」
クリスはそう言うと、上り始めた太陽を眩しそうに見上げた。
「私たちは『犯罪者』だから・・・。権利は全てピートに譲ったし・・・・。私がいなくても<キルズ国>は大丈夫よ、きっと」
優しい風が二人を包み込んだ。ロードはゆっくりと彼女に近づき、その手を握った。
「さ。お姫様、どこへ参りましょう?」
従者の口ぶりでロードはおどけて言った。明らかにクリスを元気づけるためのものであった。
(国へ帰れなくたって、この男と一緒に居られれば、私はそれで十分なのかもしれない)
にっこりと笑い、クリスは目の前の長身の剣士を見上げた。
「あなたとなら、どこへでも行くわ」
「俺も。クリスとなら・・・」
言い、二人は近づく。
見つめあいながらクリスは思った。
(・・・お母様、この人と巡り合わせてくれてありがとう)
足元の草が静かな音を立てている。
そして、二人はゆっくりと唇を重ねた。二人の影が絡み合うように一つのものへと変わる。
「・・・ねぇ」
ロードの胸に顔を埋め、クリスは小さく問うた。
「一つだけ、教えて欲しいんだけど・・・。いい?」
「なに?」
彼女の短い髪に顔を埋めるロードは、その耳元で甘く囁く。くすぐったさに、身をよじらせながらクリスは言葉をつなげた。
「ハーグ王に言ってた『例の約束』って何?」
「ああ・・・。そのこと?」
ロードはクスリと笑い、彼女を胸から少し離した。そして真正面からクリスを見つめる。
「どうしても、教えて欲しい?」
「ええ。・・・ずっと気になってたの」
ロードは口の端をニッと上げた。彼女の頬に大きな左の手のひらを当てる。
「『結婚したいって思った女性を見せに来る』だよ」
草原を行く二人の上には青く澄み切った空がどこまでも続いていた。
今日も暑くなりそうだった。
―Fin―
最後まで、駄文に長々とお付き合いいただき本当にありがとうございました!
初めての小説なので、所々意味不明な箇所もあるとは思いますが(反省)、自分なりに楽しんで書けました♪
感想・コメント・批評などどんどん送ってきてくださいね♪
これで、ロードとクリスの物語は終わりになりますが、ここから先もまだ色々とあるんだろうと思います。
それは読者の皆様が想像することでそれぞれ楽しんでいただけたらなぁ〜と思っております。それはレッドもしかり。彼はこれからどんな大人になるんでしょうね。
書いてみたい気もするし、このままのほうがいい気もするし・・・。難しいところです。
では。この辺で。
本当に最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
中原やや