出会い 4
「へへっ。ラッキー」
夕暮れが近づいていた。ロードは金貨4枚と銅貨数枚の入った袋を腰に下げ、上機嫌で町を歩いていた。
<クリス>と別れ、あれからロードは夢じゃないかと自分の顔を何度もつねってみた。しかし、そのたびに痛い思いをするだけなので、夢じゃないことが分かると、普段は入れないような高級料理店へと足を運んだ。そして、たらふくご馳走を食べた後、小さなカジノで時間をつぶしていた。
(これだけ遊んでもまだ4枚もある。・・・今夜は誰にしようか・・・)
町の離れにきらびやかな文字の店が軒を連ねている。もうそろそろ、開店の時間なのだろう。着飾った女たちがせわしなく出入りしている。
ロードは普段、夜を共にする女性を銀貨数枚払うことで手に入れていたのだが、今夜は豪華な夜が楽しめそうである。
(あの<チェリーハウス>って店は良い女がいるってうわさだし、<ピンク・ラビット>ってとこも『上手い』って聞くしな・・・)
などと、あれこれとロードが頭の中で考えていると、その<チェリーハウス>からショールをまとった女が出てきた。黒っぽいワンピースに灰色がかったレースのショール。それをフードのように頭にかぶっていた―と、いうより、まるで隠れているようだった。
(あんな女・・・いたっけ?)
ロードがいぶかしく思っていると、その女性がこちらをちらりと振り向いた。
一瞬のことだったが、ロードの全身は金縛りがあったかのように動けなくなっていた。
その女性は今まで見た誰よりも美しかった。ショールからちらりと覗いた髪は、おそらくブロンド。瞳は透けるようなスカイブルー。赤い薔薇のような唇に、思わずロードは釘付けになっていた。
その女性は、ロードの存在なぞ気付かずに、何かを探すように、きょろきょろとしながら脇道に入っていく。自然とロードの足は彼女の後を追っていた。
彼女が入っていった脇道は、ロードが足しげく通う<フラワー・ブルーム>という売春宿がある通りだった。いつものように、宿の女将が開店前の掃除をしている。目ざとくロードを見つけると、
「あら、ロード。今日は誰にするんだい?」
ほうきの手を休め、女将はうれしそうな顔をする。しかし、ロードは辺りを見回しながら、
「なあ、ここにブロンドの美人、来なかったか?グレーのショールかぶってるやつ」
女将の質問には全く答えず、尚も通りの端を見つめている。
女将は少し眉根を寄せて
「もしかして、あの子のことかい?」
「知ってるのか!?」
思い当たる節がありそうな女将に、ロードは詰め寄る。
「ありゃ誰なんだ!どこの店だ!?」
「ど・・・どうしたんだい。そんな剣幕で・・」
「何でもいいから、早く教えろっ!」
「わかったから、放しておくれ」
知らぬ間に、女将の肩を揺さぶっていたらしい。ロードは素直に彼女を解放してやった。女将は「まったく・・・」と小言をロードにぶつけてから、
「あの子、名乗りはしなかったけどね、誰かを探してたみたいだよ。何とか・・・フォレストだったか・・・。あら、もう忘れちまったよ」
言ってケラケラと笑う。ロードは先を促した。
「それでさ、そんなやつは知らないって言ったら、残念そうに帰って行ったよ。それだけさ」
「それだけか?」
「そうだよ。なんか文句でもあるってのかい?」
強い口調で言われ、ロードは内心舌打ちしていた。彼女について、何も分かってないのと同じだった。しかも完全に彼女を見失っている。
「くそっ!」
毒つきロードはきびすを返す。
「何だいっ!人がせっかく教えてやったのに!」
後ろで女将が非難の声を上げるが、ロードの耳にはもはや入ってこなかった。
陽はいつの間にか沈み、町が夜の顔を出す。ロードは一人で酒を飲みたい気分になっていた。華やかな女性たちが客引きをしているその脇をくぐり抜け、ロードは町で一番大きい西の酒場へと歩を進めた。