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君となら  作者: 中原やや
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奪還 1


場面がころころ変わるので、少し読みにくいかもしれません。ご了承ください。

 長い廊下を駆け抜ける。階段のところにいたウェイドに「あんたの王は最高だな!」と言っておくのも忘れはしなかった。

 ロードが城を出ると、それを待っていたかのように門番が白い馬を引きつれ、立っていた。

「ハーグ王がロード殿に、とのことです」

 そう言うと、赤い手綱を手渡す。

「ああ。さんきゅ」

 すぐに馬の背にまたがろうとするロードに、門番が声を掛けた。

「セーラ姫は馬車で北へ行かれました。・・・ロード殿もお気をつけて」

「ああ!王によろしく言っといてくれ。いつかまた礼を言いに来るからってよ」

 気合の入った掛け声と共に、ロードは白馬を走らす。

 目指す先は<キルズ国>ローズ城――。





 馬車はものすごい速さでローズ城を目指していた。景色がどんどんと後ろへ流れていく。

「はぁ・・・」

 クリスは大きくため息をついた。

 馬車の中にはリディアとピートとその側近が一人。ピートは未だ失神している。

 窓から景色を眺めていると、クリスに向かい合わせで座っている継母ままははが口を開いた。

「あの男のことを考えているの?貴女はピートちゃんと結婚することに決まったのよ?分かってるの?」

「・・・分かってるわよ」

 ぶっきら棒に言い放つ義理の娘にリディアは眉間に皺を寄せる。

「分かってないわね。良い?あの男は一般市民よ。お金も権力も地位も無い。それに比べてピートちゃんにはお金も権力も地位も名誉も気品も、全部揃ってるわ。お前の望むもの全てが手に入るのよ?素晴らしいじゃない!」

 興奮気味に叫ぶリディア。それとは逆にクリスは冷め切っていた。

 じっと継母を見つめ。ゆっくりと口を開く。

「それならお義母さまが愛しのピートちゃんと結婚すれば?」

「なっ・・・・」

 言葉に詰まり、リディアはクリスを凝視した。そして、キッと睨みつけ、

「お生憎様あいにくさまね。私はビゼルト王と結婚してます」

 と、皮肉たっぷりに言い放つ。クリスは視線を窓の外に戻すと

「愛の無い結婚よね」

 ぽつりと呟き、瞳を閉じた。リディアが何か言っているが、クリスにはもう何も聞こえては来なかった。何も聞きたいと思わなかった。

(・・・ロード・・・・)

 まぶたの裏にロードの顔が焼きついている。ピートを殴ったときの怒りに満ち溢れている顔。淋しげにクリスを見つめていた顔。そして、唇を合わせたときの顔――

(・・今この馬車を止めたら、ロードの下に帰れるわ。・・・でもそうしたら国民が・・・)

 逃げることは簡単だった。魔法を使えばクリスに敵う相手はこの馬車の中にはいない。しかし――

(私は、キルズ国の王女)

 自分に言い聞かせるように、心の中で呪文のように繰り返す。

 そして、馬車はいつの間にか、クリスがロードの前で初めて魔法を使った森の中へと入っていった。




「くっそ〜・・・全然追いつけねぇ」

 全速力で白馬を走らせているのだが、クリスの乗った馬車の姿は依然としてロードの視界には入ってこない。

 草原には馬に乗ったロードの長い影が伸びている。夕焼けで空は赤く燃えるようだった。

 セージ城から最短距離の真北を目指している。<オレット>を過ぎるとアスター川の流れる森に入る予定だった。

(休まさねーと・・こいつがもたねぇな・・・)

 ロードには徹夜するほど体力は十分残っているのだが、先程から走り続けている白馬はだいスピードが落ちてきていた。

「もうちょっとで休むからな。もう少し頑張ってくれよ」

 白馬の首を優しく撫でてやるロード。それに答えるかのように、馬はヒヒンといなないた。山間に西日が沈み、景色がうっすらと藍色に染まっていく。

(待ってろよ・・・クリス!)

 ロードは手綱を握る手に力を込めた。





 <リリィ>の街の宿からクリスは星空を眺めていた。この街一番の高級宿<サンシャイン>のロイヤル・スイート。家具も設備も確かに一級品だった。

(ロードに言ったら、目玉が飛び出るんでしょうね)

 今日は満月のはずなのに、生憎その部分にだけ薄く雲がかかっている。まるで自分の心のようだと、クリスはふと思い、自嘲気味に微笑んだ。星空を見ながら、ロードのことを想う。

(ロード・・・今頃、どうしてるのかしら・・・。この空を見てるのかしら・・・)

 胸が締め付けられ、自然と涙がこみ上がってくる。

(ロード!!)

 柔らかいベッドに身を投げ、声を殺してクリスは泣いた。

 ロードと初めて出逢ったこの<リリィ>で、クリスの長い夜は静かに過ぎていった。



 アスター川のほとりで、ロードは横になり、降るような星空を見つめていた。

 隣にはクリスではなく、白い牝馬ひんばが瞼を閉じて眠っている。

 焚き火の時々ぜる音を聞いていると、クリスの魔法が思い出された。

(ここで、初めて見たんだよな。火炎フレイム・・・っけ?クリスがいてくれりゃ、焚き火なんてあっという間なんだけどな)

 火打石と枯れ枝で何とかつけたものの、ロードは相当てこずった。

(今頃、どこにいるんだろうな。・・・<リリィ>くらいか?泣いてっかな・・。あいつ、結構泣き虫だから・・・)

 クリスの泣き顔を思い出し、フッと笑うロード。そのまま瞳を閉じる。

(明日の夕方くらいには着くだろう・・。それまで、待ってろよ・・・クリス)

 固く誓うと、ロードはすぐに夢の中へと引きずり込まれていった――。


「はっ!!」

 まだ陽が出ていない森の中をロードの掛け声が響いた。彼の気合に答えるかのように、白馬も力強く地を蹴る。一瞬でも早く、クリスに会いたかった。彼女を奪い返し、自分の気持ちを言葉にして伝えたい。それだけが、今のロードの全てであった。

「待ってろよ!クリス!!」

 ロードの叫びは森を抜け、風に乗ってクリスの下へ届くような勢いだった。





「・・・ロード?」

 部屋で召使いが持ってきた鮮やかな薔薇色のドレスに袖を通しながら、クリスはふと自分の名を呼ばれたような気がしていた。思わず、窓の外を見やる。青い空の下、朝市が開かれようとしていた。人々がにぎわっている。

「・・・そんなはず、ないわよね・・・」

 口では否定してはみるものの、気持ちは高ぶっていた。

(ロードが私を追いかけてきているのかもしれない・・・。私を助けに・・・)

 そこで、クリスは気がついた。

(助けるって・・・誰から?父から?義母から?国から?でも、逃げだしたいって思っているのは私本人・・・)

 心臓が早鐘を打ち始める。クリスは窓際をうろうろしながら考えた。

(そもそも法律を変えたくてしろを抜け出したのよ。これだけでも、立派な『国外逃亡』で犯罪よ。それに、今だって、私、逃げたいって思ってる。じゃあ、逃げなきゃ!でも、そうしたら国民が――)

 部屋にある姿身にクリスの全身が映っていた。昨日までの剣士姿とは違い、すっかり王女としての<クリス>がそこにはあった。クリスは鏡の中の<クリス>に言う。

「帰ったら法律をすぐに変更して、ピートに全ての権利を譲りましょう。それで、国民の反乱が治まったら・・・その時は――」

コンコン

 扉が軽くノックされて、召し使いの声がする。クリスは曖昧に返事をすると、決意した瞳でゆっくりと扉を開けた。

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