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君となら  作者: 中原やや
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セージ城 2

 『ようこそセージ城へ』という門をくぐると、目の前に青い屋根の城が見える。

 ここ城下町は、城を中心に正方形のような形で広がっていた。<サラン国>の中央に位置しているため、主に陸を使って物資を運搬しているのだが、小さな町よりもはるかに魚介類の鮮度は良い。それは<特急馬車>と呼ばれる馬車がセージ城とその近くの漁村や港町とをつないでいるためであった。

 また、ハーグ王の治める<サラン国>は<魔法禁止>が厳守であった。が、実際は魔法を使える者がほとんどと言って良いほどいなくなってしまったので、今ではもう一般市民にとっては無意味な法律でもあった。 

 雨は上がり、雲間からは時々光の帯が街を照らしている。昼時の街の喧騒も今の二人には全く耳には入ってはいなかった。ただ、真っ直ぐに城下町の中央にそびえるセージ城を目指す。

 城は堀の中心に建っていた。四方の架け橋が街とを結んでいる。

 その城の正面にロードとクリスは立っていた。青い両開きの扉の前に、同じ青い鎧に身を包んだ兵士が一人立っている。ロードは雨に濡れた雨具を脱ぐと、兵士に近づいていった。兵士はロードに気付き、右手に持っている槍をカシャンと鳴らす。

「旅のものか?」

「ああ。ハーグ王に会いたい。『セーラ姫が来た』って言えば、通してくれると思うんだけど」

「セーラ姫?」

 いぶかしそうに片方の眉を上げ、兵士はロードと彼の後ろにいるブロンドの青年を見た。ブロンドの青年は青い瞳を兵士に向け、にこっと微笑む。兵士の槍ががしゃりと音を立て、地面に落ちた。

「おいおい。大丈夫か?」

「ちょ・・・ちょっと待っていろ」

 火照った顔をロードたちに見られまいと、兵士はそそくさと伝声管に向かい何やら話し出す。おそらく城の中の誰かと繋がっているのだろう。しばらく話していたが、兵士は2,3回頷くとロードたちのほうへやってきた。

「通せ、との命令だ」

「そ。ありがと」

 ロードはニッと笑うと、クリスを振り返った。クリスは手に雨具を持ち、緊張した面持ちで佇んでいる。

ごごご・・・

 重い音と共に大きな扉を開けると、長い廊下が広がっていた。その両側に左右対称に同じような扉がいくつも並んでいる。

「まっすぐに行くと右手に階段がある。それを上がったら兵士がいるから、そこでまた名を名乗るといい」

「ありがとう」

 クリスが答えると、兵士は顔を真っ赤にした。それを見て、ロードは笑う。

「ほら、誘惑してないで行くぞ。クリス」

「なっ・・!ちょっと!ロード!!」

 赤いカーペットの上をゆっくりと進む二人。二人の他に、歩いている人影は見えない。靴の音も分厚いカーペットに吸収され、静かなことこの上なかった。

 二人の後ろで、再び重い扉がゆっくりと閉められる。

「・・・ねぇ、ロード」

「うん?」

 小さな声で、クリスは言った。

「・・・なんか、怖い」

「どうして?」

「・・・わからない」

 クリスは緩くかぶりを振った。短いブロンドがさらさらと左右に揺れた。

「わからない・・・けど、ここには来ちゃいけなかった気がする・・・。悪い予感がするの・・・」

「でも、お前のお袋さんの友達だろ?それに、ハーグは俺の友達でもあるし」

「そうなの?!」

「ああ」

 階段を上がると、青い鎧の兵士が立っていた。門番とは違い、こちらは兜を被っている。

「クリスティ=セーラ=ガーティンです」

 クリスは本名を名乗る。兵士は小さく頷くと、

「ついて来て下さい」

 と、靴音と甲冑を響かせロードたちを先導し始めた。二人は顔を見合わせた後、兵士に続く。

 2階も1階と同じように、長い廊下は赤いカーペットで敷き詰められて、左右に扉がいくつも並んでいる。ただ1階と違うのは、こちらには大臣のような格好の人や、学者らしき人物の姿を頻繁に見かけるということだった。

「お前んとこも、こんな感じか?」

「そうね、だいたいこんな感じ。どこも造りは同じようなもんなのね。私のとこはちょっと守衛が多いかな」

 などと話しているうちに、二人はまた階段を上っていた。途中で右に曲がり、再び階段を上る。そこに、銀の鎧を着た青年が立っていた。年はちょうどロードと同じくらいだろうか。長めのブラウンの髪を後ろになびかせている。

 ロードとクリスを連れて来た甲冑の兵士は、その銀色の兵士に敬礼をした。

「お願いします。ウェイド隊長」

「わかった」

 ウェイド隊長と呼ばれた青年はじろりとロードとクリスを見ると、「こっちだ」と言わんばかりに顎で指し示した。一瞬、むかっとしたロードであったが、ここは黙って彼についていくことにしていた。

 3階もたいして差はなかったが、扉の間隔が広くなっていた。それは一部屋の大きさを意味していることでもあった。また、調度品や装飾品が豪華になっており、格段に階下に比べレベルアップしていた。

「あんたが、あのロード=リッツァーだって?」

 いきなりウェイドが振り向き、口を開いた。驚くロードだったが、玄関を通るときにクリスが名を呼んでいたのを思い出した。あの門番が伝声管を使い、ロードのことも付け加えたのだろう。

「あのロードなんだろ?」

「どのロードかは知らねぇけど、俺の名はロード=リッツァーだ」

 口の端を上げロードは言う。ウェイドは笑顔を見せた。

「今でも王はあんたの話を時々してるよ」

「そうか」

 自然とロードの顔に笑みが広がった。すると、クリスが「何の話?」とばかりにロードの視界に入ってきて首を傾げている。ロードはフッと笑うと、小声で説明をした。

「俺とハーグは故郷が同じなんだよ。つまり<ティアン>出身。村でもハーグは人気があった。俺もハーグを兄貴みたいに慕ってたしな。ハーグも俺を可愛がってくれた。剣を教わったのもハーグからだしな。で、ある時、『城で兵士を募集してるから受けてみないか』って誘われてよ。ハーグはもちろん、すでに一人前の剣士だったんだけど、俺はまだまだほんのガキ。ま、ダメもとで受けてみたら――何故か受かっちまったんだよな〜」

 言い、ニッと笑ってみせる。クリスは瞳を大きくさせた。

「すごいじゃない!」

「だろ?しかも、ハーグはすんなり隊長になりやがって。そこに俺は入れられたってわけ。あん時は正直辛かったぜ。なんせ俺は12,3くらいだろ?後は17,8だし・・・。ハーグは当時の王に気に入られて、どうやったのかは知らねぇけど、いつの間にか王様にまでなっちまって。王になってからはあんまり逢うことも無くなったけどな。そのおかげかどうかは分かんねぇけど、色々教えてもらったし恩に着てるんだぜ」

「成程ね」

 クリスは悪戯っぽく笑うとロードに指を突きつけた。

「そこでエッチなこといろいろ教わったんでしょ?」

「さぁね」

 肩をすくめて見せるロード。目が笑っているところを見ると、クリスの言葉もあながち嘘では無いだろう。

「ここが、王の間だ。くれぐれも粗相そそうのないようにな」

「ああ。分かってるって」

 ロードの軽い口調にウェイドは笑う。

「全く、お前が羨ましいよ。俺も王と共に戦ってみたいもんだ」

 ウェイドはそう言うと、もと来た道を戻り始めた。残されたロードとクリスは分厚い両開きの扉の前に立ちすくむ。互いに顔を見合わせた。

「ロード。今まで、ありがと」

「なぁに。俺は別に何にもしてねーよ。金貨6枚分の働きをしたまでさ。ん?12枚か?」

 ロードの言葉にクリスはフフと笑った。

「あなたのこと、絶対に忘れないわ。だから、あなたも――」

「ああ。ずっと覚えてるよ。お前のこと――」

 言うと左手で彼女の頬に触れる。クリスもロードの大きな手に自分の右手を重ねた。

「おっし」

 一つ深呼吸をすると、ロードは意を決したように言った。それが何かを断ち切るために発したものだったのかは、ロードにも分からない。両手を扉にあてると、クリスに囁いた。

「開けるぞ?いいか?」

「うん」

 クリスが頷くのを見届けると、ロードはそれをゆっくりと押し開いた。音も立てずにそれはすっと動く。前方の玉座では、ハーグ王がにこやかな表情でロードたちを待っていた。

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