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君となら  作者: 中原やや
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再会 1

 <シャトー・ムーラン>の扉壊し事件の犯人をコステロになすりつけたロードとクリスは、夜の町を歩いていた。傍から見ると娼婦とお客なのだが、クリスはもうそのような視線に慣れてきていた。

「ねぇ。どうして、私があそこにいるって分かったの?」

 こちらを見ながら何やら内緒話をしているカップルから視線を逸らし、隣を歩くロードを見上げ、クリスは問う。ロードはちらりとクリスを見てから口の端を少し持ち上げた。

「さぁね。何でだと思う?」

 質問を質問で返され、クリスはぶぅと膨れる。ロードはクッと笑うと、左手の人差し指をびっと上げた。

「んじゃ、クイズな。1、俺には超能力がある!2、お前の声が聞こえたような気がしたから!3、あのアホとお前が歩いてるのを目撃&追跡した!4――」

「まだあるの?!」

「4」

 クリスの抗議の声をロードはもう一方の手を上げて制すると、ロードは彼女を真っ直ぐに見つめ、言った。

「4、お前が心配だから」

「!!」

 ロードに面と向かって言われ、クリスは耳どころか全身が真っ赤になっていくのを感じた。ロードはクリスの反応をよそに、先程と変わることなく平然と歩いている。そして、前を見据えたままクリスに答えをせがんだ。

「どれだと思う?」

「・・・3でしょ?」

 ロードはくるりと振り返った。そして意地悪そうな笑顔を向ける。

「残念でした!答えは5!タダの勘でした〜!クリスちゃん、おしいっ!」

「な・・・なによぉ〜!ずる〜い!5なんてなかったじゃない!」  

 文句を言いながらもクリスは可笑しくてたまらない。時々見せるロードの子供っぽさ。彼に本心を聞いてもおそらくはぐらかされるのがオチだろう。

 クリスは欠けた月を仰いだ。いつの間にか満月に近くなっている。

(旅に出たのはいつだったかしら・・・月は出てたかしら・・・)

「クリス!置いてくぞ!」

 ぼんやりと考えていると、長身の剣士が彼女を呼ぶ声が聞こえた。彼に会わなければクリスの人生も少しは変わっていたのかもしれない。

(こんな格好をしなくて済んだのは確かなんだけどね)

 思い苦笑する。クリスはロードの隣まで駆け寄ると、彼の左手をそっと握った。驚きの瞳でロードはクリスを見る。

「・・・クリス?」

「ちょっとだけ・・・ダメ?」

「・・・別に」

 ロードの顔が真っ赤になっているのはクリスの見間違いでは無いだろう。

(時々、すごく純情そうな顔をするのよね、この人)

 クリスは思うが口には出さない。そのままの格好で、二人は<エリーの酒場>へと帰って行った。




 レッドとエリー、ロフトフ親子は文字通り首を長くしてクリスの帰りを今か今かと待っていた。夕方近くに酒場を出て以来なのだから、クリスの身に何かあったと思うのはごく自然のことであろう。そのため、そのクリスが長身の剣士と手をつないで帰ってきたときには、もう飛び上がらんばかりの喜びようだった。

「エリー、ロフトフさん。レッドから借用書はもらいましたか?」

 黒髪のクリスから帰ってくるなりそう言われ、ロフトフは灰皿の中に落ちている燃えカスを指し示した。

 クリスは頷き、微笑を返す。そして、もう高利貸しから睨まれることが無いということも告げた。

 クリスのやや意味深な言葉に、彼女の隣で見守る剣士を二人は振り仰いだ。注目され、戸惑うロードをレッドが簡単に紹介をする。その間に、クリスは部屋でシャワーを浴び、普段の格好に着替えた。再び男装をしたクリスを見て、ロフトフはさも残念そうにため息をつく。

「はぁ〜。エリーもクリスさんのように美しくなるんだよ」

「もう!父さんったら!」

 恥ずかしさで真っ赤になったエリーはそのまま二階へ駆け上がって行った。「いい部屋をご用意しときますね!」という言葉を残して。

 カウンターで出されたコーヒーを飲みながら、ロードは思い出したようにポケットから紙を取り出した。

「そういや、酒場で飲んでたときに訊いたんだけど、<マリア>って赤毛の女がいるらしいぜ?」

「ほんとっ?!」

 ガタンと身を乗り出し、レッドははしゃぐ。ロードは「ああ」と頷いた。

「先にこっちへ行く予定だったんだけど、何かいろいろと邪魔が入っちまってな」

「・・・私のせいって言いたいわけでしょ?悪かったわね」

 ロードの皮肉に、クリスは頬を膨らます。ロードはクッと喉を鳴らすと、好奇心で目を輝かせている少年を見つめた。

「今から行ってみるか?ちょっと、遅いけど・・・」

「うん!おいら、すぐ行きたい!!」

「・・・決まりだな」

 言うや、立ち上がるロードとクリス。レッドも椅子からぴょんと飛び降りた。

 ロフトフが慌ててどこに行くのか尋ねるのを、ロードは「すぐ戻ってくる」と一言。ロフトフはそれ以上、何も訊かなかったが、彼らの姿が見えなくなるまで深々とお辞儀をしていた。





 <マリア=フォックス>が住んでいるのは小さな一軒家だった。窓から灯りが漏れている。どうやらまだ起きているようだった。レッドはクリスのマントに隠れるようにしていた。違うにしても、レッドの母だったにしても、どんな顔をして逢ったらいいかよく分からなかったからだ。

 扉の前に立つロードとクリス。マントにはレッド。ロードはコンコンと扉を軽くノックした。

「夜分遅くすみません。ちょっとお尋ねしたいんですがよろしいでしょうか?」

 ロードの聞きなれない丁寧な言葉遣いにクリスは苦笑する。ロードがむっとしながら、彼女を見下ろすのと、「はぁ〜い」という女性の声が家の中からしたのはほぼ同時だった。

「どちら様?」

 ゆっくりと扉が開かれ、中から赤い髪を上にまとめた美しい女性が顔を出す。意志の強そうな眉の下で快活そうな瞳がくりくりと動いている。ロードは自分の名を名乗り、クリスを紹介したあと、ゆっくりと口を開いた。

「もしかして・・・マリア=フォックスさん?」

 ぴくんと彼女の細い肩が震えた。驚きの表情をロードとクリスの二人に向ける。

「ど・・・どうして、わたしの名前を・・・?」

 それに答えたのはクリスでもロードでも無かった。

「母ちゃん・・・母ちゃんでしょ?!」

 マントの後ろから飛び出し、レッドはマリアにすがりつく。

「おいらだよ?分かる?」

 驚きの表情をしていたマリアはレッドを見たとたんに母親の顔に戻った。レッドを優しく抱きしめると、嗚咽の隙間からやっと声を絞り出した。

「・・・・アルでしょ?大きくなったわね」

 彼女の瞳から大粒の涙がぽとりと落ちた。



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