出会い 3
「ありがとうございました」
花籠の少女は助けてくれた青年二人に深々とお辞儀をする。
「本当に助かりました」
「気をつけなきゃダメだよ」
青年は言うと、ポンと少女の肩に手を置いた。少女は真っ赤になりながら、
「はい。これからは売る相手をちゃんと選びます」
手に空の籠を持つと、足早に家路に向かう。途中何度もお礼をいいながら。
「さて、と」
ブロンドの青年は少女を見送ると、足元で未だうずくまって動けないでいる男たちに目をやった。
「この男たちをどうするか・・・」
「わしらが何とかしよう」
口を挟んだのは野次馬の一人の老人だった。
「こいつらは、町の荒くれ者でね。どうにも困っていたんだ。あんたらがおとなしくしてくれなかったら・・・わしらでは手も付けられん」
野次馬全員が「うんうん」と大きくうなづく。青年は彼らに納得したらしく、
「それじゃあ、後のことは任せていいんだな?」
「ああ。大丈夫だ」
老人はうなずき、
「それ、皆のもの。役場に運ぶぞ」
号令の下、若い町人がぞろぞろ出てきて、大男たちを半ば引きずるように連れて行く。血気盛んだった男たちは今や、借りてきた猫のようにおとなしくなっていた。
残りの野次馬も、自然と自分の家や店へと帰っていく。
噴水の水しぶきの音が、残された三人を静かに包み込んでいた。
口を開いたのは、噴水のレンガ塀に腰掛けていた少年だった。ブロンドの青年を見上げ、
「大丈夫だった?」
と、心配気に聞く。青年は「うん」と答え、やおら、自分を助けてくれた長身の剣士を見上げた。
「助けてくれてありがとう。危なかったよ」
右手を差し出す青年に、彼も応じる。
「なぁに。これも商売でね」
言うと、口の端を上げ、
「俺はロード=リッツァー。用心棒・警護、何でもするぜ」
ブロンドの青年と少年は顔を見合わせている。ロードは続けた。
「俺の雇い賃は結構高いんだ。さっきの男二人倒してやったから――金貨6枚ってトコかな」
「金貨6枚!?クリス、こいつ、ぼったくる気だよっ!」
<クリス>と呼ばれた青年は、叫んだ少年とロードを交互に見つめた。
このとき、ロードも初めて<クリス>の顔を正面から見た。ブロンドの髪が朝日に輝いてまぶしい。意志の強そうな眉の下には青い瞳がじっとロードを見つめていた。
(・・・女みてーな顔してやがるな・・・)
ロードが見つめる中、<クリス>は「しょうがないな」と小さくつぶやくと、腰の金袋に手を回す。
「クリスっ!こんなやつに金貨6枚もやることないって!せいぜい1枚だよっ!」
ジロリとロードは赤毛の少年をにらみつけた。
確かに、ロードはこの<クリス>から金をぼったくる気だった。普段ならば、仕事に見合う賃金を要求するのだが、この<クリス>は身なりが違っていた。
多少古ぼけてはいるが、ライトアーマーはそれ相応の値がするものだし、ライトソードに至っては、柄に宝石が埋め込まれている。これを売れば何年かは働かなくても食べていけるだろう。
(こいつからなら・・・だいぶ取れるだろ)
それが、ロードが彼を助けた一番の理由だった。
ロードににらみつかれた少年は、ひるむ所か、逆にキッとねめつけ、
「大男を一発ずつ殴っただけで、6枚なわきゃねーだろ!」
「んじゃ、俺と戦ってみるか?」
ロードのからかいに、地団駄を踏む少年。<クリス>を見上げ、「クリスぅ〜何とか言ってやってよ〜」と懇願する。それに、<クリス>は彼の頭を撫でてやることで返した。
「はい。金貨6枚。ロード・・・って言ったっけ?助けてくれてありがと。
ほんとに感謝してるよ。ほら、レッドもお礼言って」
「・・・ありがと」
<レッド>と呼ばれた少年は腑に落ちないという表情を見せながらも、<クリス>には逆らえないのか、ロードに礼を言う。
ロードは手の中に落とされた金貨6枚を半ば呆然と見つめていた。
このような大金を一度に手にしたことが、彼には無かった。日雇い傭兵でも、最高銀貨5枚が通常だった。金貨を貰えるのは、町にモンスターが入り込み、それを退治するよう命令を受けたときだけだった。
(あの時は俺以外の傭兵は途中で逃げちまって、俺一人に・・・。あれはかなりハードだったな)
その成果も金貨3枚で手を打たれた。割りに合わない仕事だった。
それが今は手の中に6枚もの金貨がある。生唾を飲み込み、ロードは思わずつぶやいていた。
「いいのか?本当に・・・」
「商売なんだろ?」
<クリス>はさも当たり前のように言い放つ。
「じゃあ、頑張れよ」
「あっかんべーだ」
<クリス>はそう言うと、<レッド>を連れて広場を去っていった。
後に残ったのは、手の中の金貨を見続けるロードと噴水の音だけだった。