商業都市<オレット> 1
「ってぇな〜」
手形の出来た頬を膨らませ、ロードはクリスとレッドの後ろを歩いていた。ぶつぶつと文句を言うが、前のクリスの耳には入ってはいない。
「何で俺が叩かれるんだよ」
「うるさい」
後ろを見ずに言い放つクリス。隣ではレッドがそんな二人のやり取りをおもしろそうに見ている。
今朝起きたときはクリスの頭を見て「クリスの髪がないっ!!モンスターに食べられたんだ!」と大騒ぎをしたレッドだが、事情を説明するとすぐに納得していた。それからは「似合うよ!」の連発で、「もういい加減に黙れ」とロードに言われるまで言い続けていた。
それがつい先程のこと。軽く朝食を食べた後、<オレット>に向けて歩き出したのだが、その間ずっとロードとクリスは険悪な雰囲気のままだった。
「大体な!お前が悪いんだぞ!俺のとこで寝てっから!」
「それはちゃんと謝っただろ?!」
クリスはロードのほうに、くるっと向き直った。
「だけど、寝込みを襲うなんて男の風上にも置けないねっ!」
「襲ってねーだろーがっ!何にもしてねーって!未遂だ!未遂!!」
「へぇ〜。ロード、やっぱり襲っちゃったの?」
「レッド!お前は黙ってろ!!」
二人の会話に参加してくる少年を怒鳴りつけ、ロードは続ける。レッドは「どーぞ、ご勝手に」と一人で先に行ってしまった。ロードは左手で髪をかき上げると、あさっての方向を向いて言った。
「・・・・悪かったって」
「聞こえません」
「・・・悪かった」
「まだ聞こえません」
「どうもすみませんでしたっ!!」
3回目のロードの大声は草原中に響き、小さなこだまとなって返ってくる。
ちらりとクリスを見ると、「もう分かったよ」と微笑み、レッドの後を駆け足で追って行った。
(・・・ほんとに分かったのか?)
苦笑し、頭掻くとロードも彼らの後を追いかけた。
今日も天気は良く、草原には爽やかな朝の風が流れていた。
<オレット>に着いたのはそれからまもなくのことであった。昼過ぎということもあり、通りを歩く人は少ない。それとは逆に食事のとれる飯屋や食堂は多くの人で繁盛していた。ただ<ピース>とは街の規模が全く違うため、こちらは馬車も通っておらず、道も砂利でその幅も狭かったが。
「さて、と」
ロードは嬉しそうに両手をパンと合わせた。
「ここに来たら<リトル・ロック>だよな」
「昼間から飲むの〜?」
レッドがロードを見上げる。彼はニッと口の端を上げた。レッドはやれやれと言わんばかりに首を左右に振る。
「俺たちは食事をするよ。その後、レッドのお母さんを探す」
「あー・・・それなんだけどよ」
クリスの言葉にロードは軽く咳払いをして遮った。
「俺がしてやるよ。そういうトコ慣れてるし。お前、あの格好はもうまずいだろ?」
「そうだけど・・・」
クリスとレッドは顔を見合わせる。少年は頭をぶんぶんと大きく縦に振った。
「わかった、お願いするよ。でも――」
言うと、クリスはビッと人差し指をロードに突きつけ、
「探すだけだぞ!分かってるな?」
と、念を押す。ロードは呆れ顔で肩をすくめた。
「・・・お前、俺をそーゆー男だと・・・?」
「・・・だって。ねぇ?レッド」
「うん。十分有り得る」
「・・・・・お前ら・・・・」
大きくため息をつくと、ロードは右手を左胸に当て
「遊ばないことを誓います」
二人の前で誓約する。クリスとレッドは同時に頷き、
「それじゃ、よろしくねっ!」
と、一言。飯屋のほうへと楽しそうに歩いていった。ロードはそんな二人を見送りながら、
「俺って・・・信用ねーなぁ・・・」
ポツリとこぼし、<リトル・ロック>を飲むべく酒場を探し始めた。