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君となら  作者: 中原やや
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葛藤 4

 気配を辿り、森の中でオーク2体を倒した後、ロードは元の場所に戻ってきた。クリスが待っていてくれることを期待していたロードは、レッドに寄り添うようにして眠る彼女を見て落胆すると共に、微笑んでもいた。

「寝ちゃったか・・・」

 クリスの美しい寝顔を覗き込む。頬にかかる髪をそっとかき上げ、柔らかな彼女の肌に触れる。

「お休み、お姫様」

 ささやき、自然とロードの視線は彼女の桃色の唇に移っていた。『ティナ』のときのように化粧はしていなくとも、彼女の美しさには変わりは無かった。

(・・・どうする?)

 左の親指で彼女のそれに触れてみる。彼女は起きる気配を見せない。

(キスしたい・・・けど・・。寝込みを襲うのは、やっぱ・・・男として、ちょっとな・・・)

 ため息と共に頭を掻き、ロードは焚き火を挟んだ所で横になった。そして眠くは無いのに強引に目を閉じ、

「羊が一匹・・・・羊が二匹・・・・・」

 眠くなるというどこかの国のおまじないを唱えながら、ロードは自分の欲望と戦った。





 空が朝焼けに染まる頃、ロードは寝心地の悪さに目を覚ました。木々の間からは陽が差し込み、落ち葉を照らしている。

「ん・・・・」

 大きく伸びをし、ロードはあくびを一つした。と、突然――

「ううん・・・・」

 小さく呻くかわいい声。そして、ロードは気付いた。

 ロードの左脇の辺りにクリスの顔があった。彼女は左手をロードの胸の上に預けている。先程、ロードが伸びをしたせいで少し居心地が悪くなったのか、彼女は眉間に皺を寄せていた。

「ク・・クリスっ?!」

 思わず叫び、ロードはあわてて口をつぐんだ。このまま彼女を起こすわけにはいかない。ロードにあらぬ疑いを掛けられてしまう。ロードは首だけをもたげ、辺りを見渡した。焚き火はすでに白い炭と化していた。その奥でマントにくるまって眠っているレッドの姿。その隣で寝ていたはずのクリスが、どうしてロードの所にいるのかは彼女を起こしてみないことには分からなかった。

(お・・・落ち着け。これは単にクリスのヤツが寝返りかなんかで間違って俺のとこに来ただけで・・・別に深い意味は無ぇし・・・)

 真っ白になった頭の中をなんとか整理し、しばらくじっと朝陽に揺れる葉を睨む。

(クリスはまだ寝てるから、今のうちに俺がそっと起きればなんとか・・・・よしっ!)

 小さく頷くと、ロードはそっとクリスから体を離していく。しかし、

「う〜〜ん・・・」

 ロードの動きに合わせるように、彼女もロードの胸に擦り寄ってくる。

「や・・やめろって!」

 赤くなりながら小声でささやく。ロードは優しく自分の胸に置かれている彼女の左手を持ち上げた。ゆっくりと体を引き離す。今度は上手くいった。

「ふぅ」

 安堵のため息をつき、改めてクリスの寝顔を拝見する。すやすやと気持ちの良さそうに眠っていた。

(・・・・かわいいな)

 額にかかる前髪をそっと払い上げ、そのままロードは彼女の頬を撫でる。そして昨夜と同じように彼女の唇へと視線を落とす。その唇が動いた。

「う・・・ん・・・。ロード・・・・」

 夢でも見ているのか、彼女はロードの名を呼んだ。それが今のロードの気持ちに拍車をかけた。一気に身体が熱くなる。

(やべぇ・・・ガマンできねぇ・・・)

 心音がクリスにまで聞こえるのではないかというほど、ロードの心臓は緊張と興奮で高ぶっていた。ロードははやる気持ちを抑えつつ、ゆっくりと顔をクリスに近づけていく。

 彼女の頬に手を当て、唇までもう少しのところまで来た、その時――

「・・・・・・うん?」

 唐突に彼女は目覚めた。目を開けたとたん、そこにはロードのドアップがあった。しかも頬には彼の手が当てられている。

(やべぇ・・・)

 ロードは思うが、身体が固まってしまって動けない。クリスは驚きの表情を一瞬は見せたものの、その数秒後には次の行動に出ていた。

「何をしてんのよ〜!!」

パーン

 乾いた音が朝の森に響き渡り、レッドやまだ眠っていた小鳥たちの良い目覚ましとなった。

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