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君となら  作者: 中原やや
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迷子 1

「ったく・・・あいつ、どこいったんだ?」

 ロードは愚痴りながら木々の間を歩いていた。

「すっかり見失っちまったぜ」

「<マホウ>使ってくれればすぐに分かるのにね」

 レッドはロードの後を小走りでついてくる。彼の言葉にロードは「全くだ」と相槌を打った。

 クリスがロードとレッドの二人から離れてしまったのには訳があった。

 <オレット>の手前には小さな森があり、ロードたちはその森の中に入っていた。すると程なくアース・ワームが現れたのだ。アース・ワームとは巨大ミミズのことで、その長さはおよそ大人五人分。枯れ葉や落ち葉などの湿った地中に身を隠し、その上を通ったものを襲う。ごく一般的なミミズとは違い、アース・ワームは身のこなしも素早く、力も強いためなかなか厄介な相手ではあった。

 いつものように、ロードは剣で、クリスは魔法で対応していたのだが、戦いに必死になり気がついてみるとロードの周りにはアース・ワームの死骸とそれによってなぎ倒された木々のみ。レッドがロードのそばにいたので、動いたのはクリスだと分かったのだが、彼の気配は全くと言っていいほど無かった。しかも、太い木々がロードたちの視界を邪魔している。

「ったく・・・クリスーーー!」

 ロードの叫び声は木々の間にこだましていた。



「・・・・迷子になっちゃった・・・・」

 剣を腰の鞘に収め、クリスはポツリとつぶやいた。周りを見渡せど、ロードの姿もレッドの赤い髪も見当たらない。

「こいつがいけないのよっ!」

 つま先で、つい先程まで戦っていたアース・ワームの頭を蹴る。これを追ってクリスは一人森の奥へと入り込んでしまっていたのだ。

(<魔法>を使えばすぐに分かるけど・・・)

 考えを巡らせていると、アース・ワームの動いた後が地面にくっきりと残っている。これを辿って行けばロードたちの下に帰られそうであった。

 クリスが一歩踏み出した、その時、

「おーい」

 声がした。クリスは踏み出した格好のまま耳を澄ます。

「おーい!誰か〜!」

 再びの声。どうやら声の主は男性らしい。

「誰かいるのか?」

 クリスも大声で話しかけた。声は「ああ!」と嬉しそうに返事をする。

「ちょっと・・・助けてくれないか?動けないんだ」

「わかった!どこにいるんだ?」

 しばしの沈黙。そして、声は言った。

「アース・ワームの下」

 かくして、クリスは声の主を助けるべく、アース・ワームの死体を切り刻むこととなる。




「いや、まいったよ」

 男は腰に下げていた水袋に口を付ける。

「まさか、アース・ワームが降ってくるなんて思ってもいなかったから」

 無精ひげのある顎を撫で、男は笑顔をクリスに向けた。クリスは「ごめん」と小さくつぶやく。

 男はヴァン=キースと名乗った。<セージ城>から<アイリス>に行く途中らしい。森の中で切り株に座り一服しているところに、いきなりアース・ワームが飛んできたと言うのだ。と言っても、実際はクリスの『風陣魔法ゲイル』でアース・ワームの体を持ち上げ、『氷結魔法フロウズ』の氷のやりとどめを刺していたのだが、そんなことは言えるはずも無い。

「クリスって言ったっけ?助け出してくれてありがとう」

 微笑みかけられ、クリスは耳まで真っ赤になった。

 このヴァンという男、やや長めのブロンドの髪に深いグリーンの瞳。無精ひげを生やしてはいるものの、それがなかなか様になっている。ハンサムと言っても過言ではない。しかも、ロードとは違い言葉遣いが丁寧なのだ。

「ところで、キミはどこに行くつもりだったの?」

 細い煙管きせるを口にくわえ、ヴァンはクリスに訊いた。クリスは言いにくそうにぼそっと言う。

「仲間とはぐれてしまって・・・」

「なんだ。迷子か」

 ボッと顔が赤くなっていくのがクリス自身にも分かった。ヴァンは笑って続ける。

「それじゃあ、助けてくれたお礼に、お仲間さんを見つけるの手伝ってあげるよ」

「いいのか?急ぐ旅じゃないのか?」

「いいのいいの」

 手をパタパタと振り、ヴァンは笑う。クリスが「それじゃあ頼むよ」とお願いすると、ふところから小さなリスを一匹取り出した。クリスが何をするのかと首をひねっていると、ヴァンは紙に何かを書きとめリスに渡す。リスはそのまま森の中へと消えていった。

「・・・何をしたんだ?」

「うん?あのリスは僕の相棒でね。森の中に人間がいたら連れて来いって命令したんだよ。『クリスって人が待ってるから』って書いた紙を渡してね」 

 嬉しそうに答えるヴァンとは対照的に、クリスは小さくため息をつく。

「『森の中に人間がいたら』ってことは・・・俺の仲間とは限らないってことじゃないのか?」

「あ・・・」

 ヴァンの間抜けさに、クリスは大きく肩を落としたのであった。


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