戯れ 2
「こらっ!ロード!子供にそんなこと教えるんじゃ――」
クリスはここで口をつぐんだ。一瞬、突き刺さるような殺気が生まれ、消えた。腕の中からロードを見上げると彼はすでに辺りに視線を彷徨わせている。
「レッド、動くなよ」
「う・・うん。わかった」
ロードはそっとクリスを地に立たせると腰の剣を左手に持った。クリスも剣を抜く。
「どこだ?!」
「わかんない!」
殺気は生まれ、そしてすぐ消える。この繰り返しだった。
「上!」
クリスの声にロードは青い空に目を凝らす。と、見つけた。空のような青い体で、それは飛んでいた。
「スカイ・バードか・・・」
舌打ち一つし、ロードはそれを睨む。
スカイ・バードは晴れた日に限り現れ、その空をカムフラージュに狙った獲物に猛スピードで突進し、鋭い爪やくちばしで致命傷を与えるという狩りの名人だった。人間の場合は当たり所が良ければ一撃で死ぬことは無いが、運悪く出会った旅人の中には、それになぶり殺されたという悲惨な例もある。
「クリス、いけるか?」
「大丈夫。任せろよ」
「無理すんなよ!」
ロードは剣を振り上げた。それと共に、スカイ・バードが急降下してくる。ロードの心臓めがけ、それは突っ込んできた。
「いいもんやるぜ!」
言うとロードは左足を軸に体を反転させた。右腕の盾にバチッとその翼が当たり、バランスを崩す。そこにロードの剣が閃いた。
ザンッ
青い羽根を撒き散らし、それは小さな青い宝石を落とした。
「『風陣魔法』」
澄んだ声が草原に響き渡る。クリスは左手を空に向けていた。手のひらから風が生まれ、クリスの頭上付近には小さな風の渦が出来ている。それはまるで竜巻のようであった。
クリスが左手を突き出すと、それはスピードを緩めることなく、ロードの方へと近づいていく。一羽目を倒したばかりのロードはこの魔法に気付き、一瞬驚いた表情を見せるが、すぐにそれが自分の援護のものだと分かると戦いに専念した。
クリスは左の手のひらをぎゅっと握り締めた。それに合わせて竜巻が弾ける。クリスら三人を包み込むように、それは風の幕を張っていた。
「ロード!スカイ・バードの動きはかなり鈍くなるはずだ!一気に行くぞ!」
「言われなくても・・・!」
いきなり発生した突風にスカイ・バードたちはバランスを崩している。そこに容赦なくロードの剣が煌めく。クリスも届く範囲では剣で対応し、空に逃げた物には魔法を使っていた。
そしてほどなく、全てのモンスターは青い石と共に地に落ちていた。
「おつかれさん」
レッドは宝石を集めているロードとクリスに声を掛けた。ロードはニッと笑ってみせる。
「クリスより強ぇだろ?」
「そりゃあね」
レッドは肩をすくめ、「ロードは男だし、力も強いし」と小声でつなげる。クリスもそれには異を唱えなかった。
「でもさ、ロード」
「うん?」
肩に荷物を担ぎ、ロードはレッドを見下ろした。少年はクリスとロードを交互に見つめ、
「<魔法禁止>の国ってこと・・・忘れてないよね?」
びくんとロードとクリスの肩がそれぞれ動いたのがレッドには分かった。
「あ〜〜〜〜あ」
と、大袈裟にため息をつくと、大人びた仕草で肩をすくめる。
「『牢破り』に『魔法使用』。しかも『反乱軍の一味』だし・・・。おいらの将来は真っ暗闇だよ」
「言ってろよ」
ぽんと頭をロードに叩かれるが、さほど痛くはなかった。見上げるとロードは笑っている。
「ダイジョブだって。ちゃんと俺が守ってやっから。もちろん――」
視線をレッドからクリスに移す。それだけでクリスにはロードの言わんとしていることが分かった。
暖かい風に押されるように、三人は<オレット>の町へと急いだ。