戯れ 1
レッドはロードたちの鎧を漁港に止めてある小船の中に隠していた。船には大きな麻の布が掛けられており、誰かに使われた形跡はなかった。少年に代わりロードがその荷物を灯台まで持って来て、そこで着替えをすませると、三人は<アイリス>の村をそそくさと後にしていた。
「よく運んだな」というロードの感心の声に、レッドは「大変だったんだよ!」とまくし立てた。
まず、自分の着替えを済ませ、いざ鎧を運ぼうとロードのものを持ったが重たくて運べなかった。そこでクリスの鎧を身に付け、ロードの盾の上にすべての荷物とロードの鎧を乗せてみた。なかなかいいな、と喜んでいたのもつかの間。この時、ロードが失神させた黒づくめが目を覚ましたと言う。
「黒づくめはキョロキョロと部屋を見てたみたい。おいら、ベッドの下に隠れてたからわかんなかった。しばらくしたらどっか行っちゃったよ」
その後、レッドはロードの盾を引っ張り、階段まで行くと荷物と共に盾に乗り階段を滑り降りた。
「かなりでっかい音がしたかも」
そう言って笑うレッド。ロードは慌てて自分の盾を確認するが、少し擦れた後があるくらいでヒビは入ってはいなかった。ほっと胸を撫で下ろす。こんな盾でも値は張るのだ。
レッドは宿屋の前まで荷物を引きずり、すぐ近くの漁港に目を向ける。暗闇の中、スリで鍛えた目が捉えたものは誰にも使われていないような古ぼけた小船だった。
「よく頑張ったな。偉いぞ、レッド」
胸にさらしを巻き、すっかり男になったクリスはレッドの頭をよしよしと撫でる。少年は照れ笑いを顔に浮かべた。
<アイリス>から次の町<オレット>までは丸一日ほどの距離である。それを過ぎると<ハーグ王>のいる<セージ城>があった。
ロードは自分の荷物とクリスのものを肩から担ぎ、晴れ渡った空を眺めていた。
青い空にぽっかりと綿のような白い雲が浮かんでいる。どこまでも続きそうな空を眺めていると、自分の存在がひどく小さなものだと思い知らされる。
(昨夜の騒動で、俺も指名手配されたのかな・・・。あの医者がどこまでつながってるか・・・)
チラリとロードの横を歩くクリスを見る。薄い紫色のシャツの上にライトアーマーがキラリと輝いていた。
「ん?どうした?ロード」
視線に気付き、クリスは小首を傾げた。すっかり言葉も『男』に戻っているクリスを、ロードは少しからかいたい衝動に駆られる。
「お前ってさ。胸、でけーのにどうやって隠してんだ?さらしとか巻いてんの?」
言うやいなや、クリスの胸を鎧越しにコンコンと叩く。咄嗟のことに、クリスは反射的に胸を両手で覆った。
「なっ・・!何するんだよっ!そんなのロードには関係ないだろ!」
真っ赤になりながら反論するクリスをロードは面白そうに見つめる。
「恥ずかしがることなんか無いんじゃねーか?『男』なんだぜ?」
言うと、今度はクリスのマントをぴらっと捲る。完璧にロードはクリスを困らせて楽しんでいた。
「ちょ・・・!やめろよ!」
「やめねーよーだ」
子供のように舌を出すロード。クリスの隙をついてはマントを捲る。
「レッド!何とかして!」
クリスはマントを抑えながら赤髪の少年に頼むが、彼は小さな肩をすくめて見せ、
「おいらがロードに敵うわけないじゃん。ロードの気が済むまでやらせとけばいいんじゃない?他には誰もいないし・・・」
と、あっけらかんと言う。
その言葉に、クリスは青ざめ、逆にロードは口の端を持ち上げた。
「ほら、レッドもそう言ってることだしさ。俺の気の済むまで体を預けてみない?」
「だっ・・・誰が預けるか!!」
ロードから一歩後退するクリス。ロードは逆に一歩ずつ近づいていく。
「俺らの他に誰もいねぇし。いいチャンスだとは思わねぇ?」
「思わないし!ちょっと、こっち来るなっ!!」
「来るなと言われれば行きたくなるよな」
ニヤニヤした笑みを顔中に広げ、ロードはクリスとの間を詰めていく。クリスは両手をロードにかざした。
「こ・・・こっちに来たら、また<魔法>使うからな!」
<魔法>の言葉に一瞬ロードは立ち止まるが、腕組みをすると「ふ〜ん」と鼻で笑う。
「そんなんで俺から逃げられるとでも思ってるのか?」
言うやロードは一気にクリスに詰め寄ると、その身体をひょいと抱き上げる。何がなんだか分からないという顔をしているクリスにロードはニヤッと笑うと、
「あそこの草むらとあっちの木の影と・・・どっちがいい?」
「どっちもイヤー!!ロード、下ろしてったら!」
ロードの腕の中で暴れるも、太く逞しい腕はクリスを放そうとはしない。そのままでロードはおもしろそうに見ていたレッドに向き直った。
「ちょっと待っててくれるか?すぐ戻るから」
「ロードぉ・・・こんなときにぃ〜?」
「ばーか」
ロードはレッドに口の端を上げてみせ、きっぱり言う。
「こんな時だから燃えんだろーが」
ロード君、暴走してます(笑)
クリスちゃんは一体どうなってしまうんでしょう?!
乞うご期待?!