クリス 6
東の空が白み始めていた。もうすぐ夜が明ける。
昨夜の雨はいつの間にか止んでおり、今は地面に水溜りを残すのみとなっていた。
ロードは眠い目をこすり、藁の上ですやすやと眠るクリスを見た。ロードの胸でひとしきり泣いた彼女は安心したのか、そのまま眠ってしまっていた。何か無いものかとあちこち探し、瓦礫の中から藁を見つけ、その上に彼女を横たえさせた。それからロードも一眠りしようとしたのだが、クリスの寝顔を見ると逆に目が冴え、結局のところ一睡もせずに夜を明かしていた。
(・・・ったく、気楽なもんだ。よくこんな所で寝れるぜ。王女のくせに)
あくびをかみ殺し、外の様子を伺う。まだ村の広場には人の気配は無いが、そろそろ漁や市場が始まる頃でもある。その前に、この村から出なければならなかった。
ロードがクリスを起こそうと振り返ると、
「う・・う〜〜ん・・・」
大きく伸びをし、クリスはゆっくりと目を開けた。古ぼけた天井から瓦礫の山へと視線を移し、こちらを見ているロードの上で止まる。そこで、慌ててクリスは自分の姿を確認した。昨夜の夜着のまま、どこにも乱れた形跡は無い。
「おいおい。いくら何でもこんな時にこんなトコでヤるわけねぇって」
「バッ・・・別に私はそんなこと!!」
クリスの慌てぶりに噴出すロードとそれに反論するクリス。昨夜泣いたせいか、彼女の瞼は少し腫れていた。クリスは髪を整えると、外を見ていたロードのそばに行く。
「ねぇ、レッドはどうしたの?」
「荷物持って村を出ろとは言ったけど・・・さあ?」
「さあ?ってロード!!」
眉を吊り上げるクリス。ロードは苦笑交じりに彼女の興奮を抑えた。
「まあまあ。レッドならダイジョーブだって。うまいことしてるよ、きっと」
「でも・・・もしかしたらってこともあるじゃない!」
クリスの言葉に、ロードもいささか不安になってきた。昨夜の黒づくめたちはレッドを完全に無視してはいたが、捕らえられた可能性も無くは無い。
「・・ちょっと見てくる。お前はここにいろよ?いいな?」
「う・・うん。気をつけてね」
灯台の外に出ると波の音がはっきりと聞こえる。海側には何も無いことを確認すると、ロードは村の広場があるほうに視線を移した。と、パーンという乾いた音と共に、白煙が広場の向こう側から上がる。
(・・・何だ?)
思い、そちらに一歩足を踏み出したとき、
「ロード!」
小さな声で名を呼ばれた。ロードには振り向かなくとも誰だか分かる。ロードはニッと口の端を上げた。
「遅かったじゃねぇか。レッド」
「んもう!こんなとこに隠れてるのが悪いんだろっ?!めちゃくちゃ探したよ!」
言うと、レッドは壊れかけた灯台の屋根からするすると下りてきた。
ロードは笑いながら「ごめん」と頭を掻く。
「でも、お前。ここに登ってたんなら俺らがこの中にいるって気付かなかったのか?」
「エヘヘ。確認してなかったんだ。アレを見たかっただけだから」
言うと、もくもくと上がる煙を見上げる。ロードが不思議そうに見ているのでレッドは得意になって説明をし始めた。
「村の広場の向こうにさ、藁小屋があるんだよね。そこにこの<リュッケ>っていう花の種を置いて、火を付けとくんだ。後は時間が経てば、パーンってね。村のみんなはびっくりしてそっちに行くっていうワケさ」
「へぇ〜種が弾けるとそんな音がするんだな。さすが、悪ガキだぜ」
赤い頭をくしゃくしゃと撫でられ、レッドは褒められたのか、けなされたのか分からなかったが、ロードが無事なことが何よりも嬉しかった。
「ねぇ、クリスは無事?」
「ああ、中にいるよ」
ロードの言葉が終わらないうちに、レッドは灯台の中に入っていき、その姿を見つけるとぎゅっと抱きついた。
「クリス!良かった!!」
「レッドも無事でよかった」
しばしの抱擁の後、レッドはクリスをまじまじと見つめた。抱きついた感触がいつもとは違う。よく見ると、クリスの胸は大きく膨らんでいた。「どうしたの?」というクリスに、レッドは入り口にいるロードに視線を送り、大袈裟にため息をつく。
「・・・クリス。やっぱりバレちゃったんだね・・・」
「ん?うん・・・。でも、ロードは気付いてたみたいよ。私が女だって」
レッドはロードと未だ夜着でいるクリスを交互に見つめ、「へぇ〜」と一人納得している。頭の後ろで手を組み、レッドはニヤニヤ笑いを浮かべたままで言った。
「それで?お二人さん、おいらがいない間にどこまでいったの?」
その後、ロードによってレッドの頭に大きなたんこぶが出来たのは言うまでも無い。
クリスの正体がバレて・・・さて、旅はどのように変わるのでしょうか?
それとも全く変わらないのか・・・・。
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