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君となら  作者: 中原やや
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クリス 5

 ハーグ王。<サラン国>をべる若き王である。ロードの故郷である<ティアン>やクリスと出逢った<リリィ>もこのハーグの占領下にあった。

「彼とは古い付き合いなの。お母様とハーグは仲が良かったみたい。姉と弟みたいな関係って本人は笑ってたわ。私もそんな感じかしら」

 言うとにっこりと笑う。ロードもハーグ王のことはおそらくクリスよりも知っていたのだが、ここでは口をつぐんでいた。

「んじゃ、ハーグに会ってコトの真相を話すのか?」

「真相ってほどじゃないけどね」

 言い、口を笑みの形に広げる。

「でも、そうね。お父様の考えを変えない限り、国民は止まらないわ」

「・・・だな」

 頷くロード。外ではまだ雨が降り続いている。先程よりも小雨になったものの、薄汚れた窓に雨粒が当たる音がしている。

「・・王女様か・・・」

 ロードはぽつりとこぼした。へへっと笑い、ロードは立ち上がると窓から外を伺う。窓からは海しか見えなかった。

「通りで何か違うと思ったぜ」

「ごめんね、ロード・・」

 消え入るようなクリスの声。ロードは彼女に背を向けた。クリスはそんな彼の広い背中に言葉をかける。

「ごめんなさい。あなたをだますつもりは――」

「なかったってのか?!十分だましてるぜ!」

 振り向き、ロードはクリスを見る。自然と声は大きくなっっていった。

「だろ?だましてるよなぁ?!俺が<ティナ>に惚れたのだって、実はお前だったわけだし。お前は俺をからかって楽しんでたんだろ?!」

「違うわっ!」

 クリスは叫び、立ちあがった。ロードと向き合う。クリスの瞳には涙があふれていた。

「あなたが<ティナ>のことを私に話すなんて思ってもなかった!だから、すごく驚いたのよ!からかってたんじゃないわ!ただ・・・あなたの喜ぶ顔が見たくて<ティナ>になってたのよ。・・・本当はすごく辛かったの・・・。あなたを騙してるって・・・本当は<クリス>なんだって言いたくて・・・。でもあなたは<ティナ>を求めてた。だから私は――」

「・・・分かったよ」

 ため息と共に言うと、ロードは腕を広げた。不思議そうに首を傾げるクリスにロードは優しく言う。

「来いよ」

「えっ・・・」

「泣きたいんだろ?俺のこの広い胸を貸してやるって言ってんだよ」

 言うと、「ほら、どうした?」とおもしろそうにクリスに迫る。

 クリスは顔を真っ赤に染めた。

「バッ・・・バカにしないで!誰があなたの胸で泣きますかっ!」

「そうやって強がってんのも辛いんだろ?」

 ズバリ言い当てられ、クリスは手で口を覆った。

 今まで、誰にも打ち明けられず一人で悩むことが多かった。旅を始めてからはレッドがそばにいてくれたものの、彼はまだまだ子供。彼に国の悩みやロードのことを打ち明けてみても仕方が無い。

 気を許すと泣き出してしまいそうなクリスに、ロードは腕を広げたままで言う。

「・・・たまにはさ、弱いトコ見せてくれてもいいんじゃねぇか?俺くらいには」

 ポロリと大粒の涙がクリスの青い瞳から溢れた。それはとどまることなく彼女の頬を濡らしていく。

「・・・来いよ」

 優しい口調で言われ、次の瞬間にはクリスはロードの胸に顔をうずめていた。大きく、たくましい胸が彼女を包み込む。ロードは彼女をきつく抱きしめた。

「もう、お前は一人じゃねぇから・・・安心しな」

 ロードの腕の中で何度も頷くクリス。新しいシャツがクリスの涙で濡れていくが、ロードはやっと彼女が心を開いてくれたということが嬉しかった。

「・・・大丈夫だから」

 フッと笑うと、ロードはクリスが泣き止むまでいつまでも彼女を優しく受け止めていた。


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