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君となら  作者: 中原やや
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クリス 4

「なっ・・なによっ!マヌケじゃないわよっ!」

 ロードのマヌケ発言にクリスは顔を真っ赤に染める。ロードは意地悪く微笑みながら、目の前の夜着の女性に口を開いた。

「小切手もそうだけど、フツー屋台に金貨6枚もかからねぇんだぜ?あれは俺がふっかけた金額。レッドも言ってたろ?『ぼったくりだ』ってな」

「・・・そうなの?」

「そ。だから、俺はお前と会ったときから少し変だとは思ってたんだ。やけに金回りが良いし、何にも分かってないからな」

「・・・どうせ、なんにも分かってないわよ」

 ぷぅと頬を膨らます彼女の仕草にロードは笑いをこらえる。彼女はロードがおもしろがっていることに気付き、再び顔を赤くした。

「なっ・・なによっ!ジロジロ見ないでくれる?!」

「いや、何か見てて飽きないな〜と・・」

「どういう意味よ?!」

「まぁまぁ。落ち着けよ」

 言うと、ロードは座っていた薪から立ち上がり、外の様子を伺った。

「もう良さそう?」

「ん〜〜・・・まだここにいたほうが良さそうだな」

 追っ手は来なくとも、相手は物陰に隠れてロードたちが出てくるのを待っているかもしれない。このような静かなときだからこそ、今出て行っては逆に袋のねずみだろう。

 ロードは再びクリスと向かい合わせで座った。

「クリス・・あ、ティナか。どっちで呼べばいいんだ?」

「<クリス>でいいわよ。もうあの格好はしないと思うし。それに<クリス>って呼ばれ方、好きなの。お城じゃ男みたいだからって<セーラ>って呼ばれてるし」

「んじゃ、クリス」

 ロードは足元を見つめながら口を開いた。

「いろいろ聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

 こくりと静かに頷くクリス。ロードは「それじゃあ・・」と声を発してから、

「<マホウ>のこと、なんだけどよ。<キルズ国>は禁止じゃねぇにしても・・・どこで覚えたんだ?習ったのか?あんな昔の・・・」

 言い、クリスの美しい顔を見る。クリスは膝に顔をうずめるようにして言った。

「覚えた・・・でいいのかな。お母様がね、私にのこしてくれてたの。一つ一つ、丁寧に・・・意味や使い方まで。お母様はお城の騎士団長だったの。私のあの鎧や剣も、形見のものなのよ」

「お前が<マホウ>使えるってのは、お前の親父さん・・・あ〜・・国王も知ってることなのか?」

「たぶん知らないと思うわ。お父様は義母ははに構ってばかりだったから・・・」

 緩くかぶりを振り、両膝をびゅっと抱きしめ、小さく丸まるクリス。ロードはどうしたらいいものかと頭を掻いたが、小さく咳払いをすると次の質問へ進んだ。

「で、さっきの黒づくめの奴らは何モンだ?俺の勘からするとプロっぽいけど・・・」

「私にもよく分からないわ・・・。ただ――」

 言うと、クリスは少し悲しげな瞳でロードを見つめた。

「あの鎧の紋章は<キルズ国>のものだった・・・」

「おいっ!・・・それって」

 ロードの背筋に嫌なものが流れる。クリスは小さく頷いた。

「おそらく、父か義母ははの差し金・・・私を連れ戻すために強行したのよ。『暗殺』まではいかないにしても、傷くらいは負わすつもりだったんじゃないかしら」

「・・・それっぽいな」

 ロードは思い返してみた。短刀を投げては来たものの、狙いは全て致命傷にはならない肩や脚。寝込みを襲ったあの男はレッドを盾に取れば良いものを、正々堂々とロードとだけ剣を交えた。クリスの寝室にいた鎧の男も同様のことが言える。本気でロードを殺したいなら、他の黒づくめに『手を出すな』という指示はしないだろう。

「でもよ。どうしてお前がここにいるって分かったんだ?誰かに行き先でも言ったのか?それとも、身分を明かした――」

 言いかけ、ロードは自分で気付いた。クリスも同じだったようで、ほとんど同時に口を開く。

「あの医者だ!」

「カイルだわ!」

 クリスは『上着をめくってください』と言われ、ロードたちが部屋から出て行った後、自分が本当は女であることを打ち明けていた。もちろん、身分までは言わなかったのだが――

「先生ね、おかしなこと訊いてきたの。どこであの少年に会ったのか、あの青年とはどこで知り合ったのかって。変だなとは思ったけど、そんなことで嘘を言うのもなんだし・・・。それに第一に信用してたし・・・」

「ああ。俺も訊かれたよ。お前とどこで会ったかってな。あいつ<キルズ国>と通じてたのか・・・。それだったら、お前の容貌ようぼうは分かってるもんな。後は旅をしてる期間と訪れた場所が一致すりゃ大正解。レッドだって一応犯罪者なんだろ?手配書だってあるんじゃねぇか?」

 クリスは黙ってうつむいている。自分の安易な受け答えで、ロードやレッドが巻き込まれたと責めているのが手に取るようにロードには分かった。

「気にすんな・・・って言っても気にすんだろうな」

 明るく言うロードにクリスはうつむいていた顔を上げた。

「もう済んだことはいいじゃねぇか。それより、お前どこ行こうとしてたんだ?知り合いってことは、国王クラスだろ?ここからだと・・・<セージ城>か?」

 コクリと頷くクリス。ロードの目を見つめ

「<ハーグ王>って知ってる?」

 と、尋ねる。ロードは頷いてみせた。

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