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君となら  作者: 中原やや
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クリス 2

 宿の階段を滑るように降り、ロードはわき目も降らずに診療所を目指していた。

(俺じゃなく、あいつを狙ってたんだ・・・)

 村の広場を横切ると、クリスのいる診療所がある。普段なら人の気配も全くしないような深夜。しかし、ロードの剣を握る手はじんわりと汗ばんでいる。潮騒しおさいまぎれて、わずかに人の気配を感じる。と共に、押し殺した殺気のようなものがロードの体にまとわり付いて離れない。

(・・・何人かいやがるな・・・)

 診療所の扉は開いたままになっていた。自らも気配を消し、そっと入り口付近を伺った途端、

ヒュン

 闇を裂き、どこからともなく短刀が飛んできた。しかし、これはロードの予期していた範疇はんちゅう

キキンッ

 飛来する短刀を落としつつ、ロードは入り口から入って左にあるクリスの病室へにじり寄る。

ギギ

 飛んでくるそのことごとくを床に叩き落していると、長めの短刀を手に闇の中から黒づくめ二人が姿を現した。月光の下、彼らの胸が光っている。どうやら闇と同色の鎧を身に着けているらしい。

「やっと、おでましか?」

 言うと同時、ロードはその鎧の腹を蹴った。相手がよろけたところで、今度はそれに肩からぶつかっていく。

「!!」

 廊下に派手な音が響き、黒づくめ二人はもみくちゃになりながら転倒した。

 その隙を突いてロードはクリスの部屋の扉を開ける。

「クリスっ!」

 名を叫び、ロードは固まってしまった。

 ベッドの上にクリスはうつぶせの状態でいた。両手は後ろで縛られ、足首も同様。口にも布があてられている。その傍らにはやはり黒い鎧の姿。

「うーうー!」

 クリスは必死に目で何かを訴えているが、ロードはそれよりも部屋にいる長身の鎧の男が今までの者とは違っていることに気付いていた。

「・・・何者だよ。あんた」

 長剣を肩にかつぎ、ロードはゆっくりと部屋の中に入る。廊下でやり過ごした黒づくめたちが扉まで来るが、それは部屋にいる鎧の男により止められていた。

「助けがいるんじゃねぇのか?」

「・・・その必要はない」

 闇色の仮面でくぐもった声が答える。ロードは口の端を上げた。

「俺の連れをどうする気だ?」

 ピリピリとした緊張感の中、ロードは間合いを詰めていく。クリスを盗み見ると、夜着のまま縛り付けられていた。

(夜襲か・・・)

 ぎりっと奥歯を噛む。ロードが付いていればクリスがこんな目に遭わずには済んだだろう。

 黒い鎧の男は、すらりと腰の黒刀を抜き放つとゆっくりと言った。

「・・・お前には関係の無いことだ」

「言ってろよ!」

 吠え、ロードは床を蹴る。

ぎんっ

 夜の空気を震わすような金属の交わる音。ロードは口笛を吹いた。

「やっぱ、やるね。おっさん」

 左足で男の腹を蹴り、その拍子に離れる。そこに黒刀が振り下ろされるが、ロードはそれを身を翻し、回避した。

「行くぜっ!」

 再び床を蹴り、剣を振り上げる。

きんっ

 火花が散り、男の仮面を照らす。ロードは今度は攻撃の手を休めなかった。

 左上から振り下ろしたあと、右上から。すくい上げるように振り上げたかと思えば、剣を水平に持ち腹を突く。

 そのことごとくを鎧の男は受け止めていた。

(・・・おかしいな・・)

 攻撃は休めぬまま、ロードは思う。

(こいつからは仕掛けて来ねぇ・・・)

 確かめてみるのは簡単だった。

ぎんっ

 数度目の鍔迫つばぜり合い。これをロードは狙っていた。

 がら空きになった男のわき腹―鎧の隙間―に思い切り右の拳を叩きつけた。

「うぐっ・・」

 小さく呻いた瞬間、ロードの剣が閃く。

「うーうー!!」

 クリスの悲鳴に似たような声。

(・・・わかってるって。殺しはしねぇよ)

 ロードは剣を返すと、その背で男の首を叩きつけた。その時を狙い、再び短刀が飛んでくる。

「だーー!もうめんどくせぇ!!」

 剣で飛んでくる物を落としつつ、ロードはベッドの上のクリスに視線を落とした。

「ちょっと無理するけど、いいか?」

「?」

 不思議そうな顔をするクリスに口の端を上げると、ロードは縛られたままの彼を肩に担いだ。

「うー!うー!」

「はいはい」

 短刀を避けつつ、クリスの愛用の剣とブーツを右手に持つと、ロードは病室の窓から脱出した。


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