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君となら  作者: 中原やや
31/67

漁師の村<アイリス> 2

「ここに寝かせてください」

 ロードたちが通された病室は、ひどく質素なものだった。病室らしく、白いシーツに白いカーテン。まだ何も置かれていないサイドテーブルの下には丸椅子が収められている。

 ロードは背中からクリスをそっとベッドに腰掛けさせ、彼の名を呼ぶ。それに答えるように、クリスは目を覚ました。

「病院に着いたぞ。もう大丈夫だからな」

 優しいロードの言葉に、クリスは軽く頷くことで返す。カチャカチャとショルダーガードや鎧を外し、クリスはゆっくりとベッドに横になった。

「・・ひどい熱ですね」

 医者のカイルはクリスの額に手を乗せ、眉間にしわを寄せた。

「お名前、言えますか?」

「・・クリス=ガーディンです」

「クリスさん・・と」

 カイルは手にしたカルテに何やら書いている。ロードとレッドはベッドのかたわらに立っているしかなかった。

「では、クリスさん。上着をめくってください」

「えっ・・・」

 医者を除く3人は思わず固まっていた。クリスは反射的にレッドとロードを見上げる。

 口を開いたのは、クリスでもロードでもなかった。

「あ!おいらたち、外で待ってるよ。先生、クリスのことよろしくね!」

 レッドは言うと、ロードの背を強引に押し、クリスの病室から逃げるように出て行った。

 ばたんと、やや大きな音を立て扉は閉まる。

 廊下に追いやられたロードは、レッドが慌てた理由をもちろん分かってはいたが、あえて口には出さなかった。

(クリスのやつ・・・医者には打ち明けるよな。裸見なきゃならねぇわけだし・・・)

 窓の外にはピンクと藍色の空が交じり合っている。ぽつりぽつりと家に灯がともり、そのコントラストが美しい。

「・・・クリス、大丈夫かなぁ・・」

 ポツリとこぼすレッド。それが熱のことか、クリスの正体がバレることかはロードには分からなかった。

「大丈夫だろ、きっと」

 赤い頭に手を置き、ロードは町並みの向こうの海を見た。遠くの方で漁火いさりびが揺らめいている。

カチャリ

 扉が開き、カイルが姿を現した。ロードとレッドの二人を交互に見つめ、にっこりと優しい笑顔を向ける。

「クリスさんは大丈夫ですよ。少しお疲れになってるだけのようです」

 言うと、中腰になりレッドの目線に合わせた。

「クリスさんのところへ行ってあげて。先生はこっちのお兄さんとお話があるから」

 大きく頷き、レッドはクリスの病室に再び入っていく。それを見届けると、カイルはロードに「こちらへ」と促した。

 案内された部屋は応接間のような待合室だった。一応、受付らしい窓口も設置されている。

 ロードが長椅子に座ると、カイルは近くの丸椅子を引き寄せて座り、再びカルテを開いた。

「ええ〜〜っと・・まずは、あなたのお名前をお聞きしてもいいですか?」

 そういえばまだだった、とロードは自分の名を名乗る。医者は「ロードさん」と小さく言うと、

「クリスさんとは、どこでお知り合いになったんですか?」

 と、妙な質問を投げかけてきた。

 クリスの病状についての説明を受けるものとばかり思っていたロードは面食らったように目を見開く。

「・・なんか関係あるのかよ」

「いえ、クリスさんがいつから歩いて旅をされてるのかと思いまして・・・。かなり疲労もたまっておりますしね」

 医者の説明にやや不満はあったものの、ロードは渋々答えた。

「・・<リリィ>だけど・・・」

「<リリィ>と・・・」

 カイルはそれもカルテに書き取る。ロードは眉を寄せた。

(おかしいな。そんなこと訊くのも変だけど、カルテにメモるほどのコトじゃ無ぇだろ。・・・何だよ、こいつ・・・)

 カイルに対しての不信感は顔には出さずに、ロードは逆に質問をしてみた。

「なぁ。クリスのことだけどよ。どれくらいで治るんだ?」

「そうですね。今夜にでも熱は下がりますが、あと一日くらいは安静にしておいたほうが良さそうですね。今までの旅の疲れが出たんでしょう」

 緩くかぶりを振りと、医者はメガネをくいっと上げる。医者はカルテから顔を上げるとロードを見た。

「ロードさんたちは今晩はここの宿にお泊まりください。私のほうから伝えておきますので。ところで、お食事はもうお済みになられましたか?」

「いいや」

 首を振るロードに、医者は「それでは」と言って丸椅子から立ち上がると、嬉しそうに言った。

「食事のほうも頼んでおきましょう。クリスさんと一緒に召し上がってもいいですよ。そのほうが、彼も嬉しいと思いますし」

 カイルがクリスのことを『彼』と言った事で、クリスの気持ちがロードには分かった。

(まだ、『女』ってことは俺には秘密ってことか・・・。俺が気付いたってあいつにバレて無ぇのか・・。案外、鈍いんだな)

 口の端を少し上げ、ロードは長椅子から立ち上がる。

「んじゃ、俺はレッドを連れて宿に一旦荷物を置きに行くよ。で、戻ってきてクリスと食事で。・・・それでいいか?」

「はい。ここの魚料理は絶品ですので、お楽しみください」

 言うとカイルはメガネの奥の瞳をすぅっと細めた。


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みなさまも体には注意してくださいね。

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