出会い 1
朝の日差しがロードを目覚めさせた。「うう〜ん」と大きく伸びをし、起き上がる。ベッドの周りには服や鎧が散乱していた。
上半身裸のまま、ロードは2,3回頭を左右に振り、「二日酔いかな・・・」と一人ごちて、洗面所に行く。と、そこに紙切れが置いてあることに気が付いた。
「昨日はありがと。またね。ココ」
「そういえば・・・」と、ロードは思い出す。一人、酒場で飲んでいると、女が近づいて来た。黒い髪を腰まで伸ばし、ロードを誘うような仕草をしてみせた。
確か名はココだった。
紙切れを握りつぶし、ロードは身支度を整える。シャツを着、鎧を身につけ、愛用の長剣を右の腰にぶら下げる。
「よしっ」
ロードはぱんっと顔を叩いて気合を入れた。
「今日も稼ぐぞ」
軽い足取りで宿屋<アトラス>の階段を下りるロード。ほんとに二日酔いなのだろうか・・・と思わせる動きである。
「よぉ。ロード」
店の主人のアトラスがロードに声をかけた。
この宿は港町<リリィ>の一角にある小さな宿屋で、主人であるアトラスが一人で経営している。ロードは故郷を離れ、このリリィで用心棒として金を稼いで暮らしていた。家を借りる金も無いロードは、この街で一番安い<アトラス>を拠点としていたのだ。
「今さっき帰ってったぞ」
「・・・ああ、女か」
主人のいる受付に手を置き、ロードは面倒くさそうに言う。そんなロードに、主人はニヤニヤ笑いを浮かべ、
「なかなかの美人だったな!黒髪を腰まで伸ばして、こう・・・胸も大きくて」
「そうか?」
興奮気味に話す主人に対し、ロードはあっけらかんと言い放つ。主人は小さくため息をついた。
「なぁ、ロード。お前がここに来て・・・もう5年か?そろそろ身を固めたらどうだ。
女遊びをとやかく言うつもりはオレにはないが・・・そろそろいい歳だろ?」
若い剣士を上から下までしげしげと眺めるアトラス。しかし、ロードは口の端をニッと上げ、
「俺は束縛されんのがイヤなんだよ」
言うと腰の金袋に手を回す。
この若い剣士の名はロード=リッツァー。黒に近いブラウンヘアー、ブラウンの瞳。長身で筋肉質、顔もなかなかハンサムである。この容姿のために言い寄ってくる女性は多く、今までこと女性に関しては不自由したことなぞなかった。
主人が「いい歳」と言ったのは、ロードがもうすぐ23歳になるからだった。
アトラスは再び小さくため息をつくと、金袋の中身を探している剣士にいつものセリフ「銅貨3枚」を言う。
ロードはごぞごぞと袋の中を探し回った。昨日、久しぶりに依頼があり、それなりに金はあるはずだったのだが―――
「無いっ!!」
思わず叫び、袋をベルトから取り外すと、中身を受付のカウンターにぶちまけた。そこに舞い落ちる、一片の紙。
「宿代だけはおいといてあげる。ココ」
「あの女っ!!!」
「・・・また、やられたな。ロード」
「うるせー!!」
眉を吊り上げ、紙をぐしゃりと握り捨てるロードに、主人はクックと苦笑する。
「つくづく女運が無いな」
「うるっさい!!!」
以前にも・・・5回ほどこのようなことがあったのだ。
ロードが朝起きて、金袋を触ると銅貨1枚も残っていない。もっとひどいときには、金袋ごと無いときもあった。そのたびにアトラスが「女性の内面に惹かれろ」と口を酸っぱくして言っていた。
「くそっ」
毒つき、銅貨3枚をアトラスに渡す。主人は「まいど」といつものセリフを口にする。
と、突然、ロードの耳にまだ声変わりをしていない少年の声が入ってきた。
「クリス!そんなやつ、やっちまえっ!」
声に振り向くと、宿屋の目の前の広場に人だかりができている。
「どうした?」
ロードの視線を追うように、アトラスもそちらに顔を向ける。見ると輪の中心には数人の大男とブロンドの青年が対峙していた。
「『いい仕事』になりそうじゃないか?」
「そうだな」
ロードは口の端を上げ、空っぽの金袋をベルトにくくりつけた。
「行って来る」