不安 2
「クリスぅ〜!クリスぅ〜!」
木から降りてきたレッドがクリスの身体を揺すっている。
ロードは剣を腰の鞘に戻すと、彼らのもとに駆け寄った。
「どうしたんだ?!」
「戦ってる途中で、いきなり倒れたんだ!今朝からなんか変だったみたいだし・・・」
ロードは皮の手袋を取ると彼の額に手を当てた。うっすらと目を開けるクリス。
「・・・大丈夫か?」
「・・うん。なんとか・・・」
「んなわけ無ぇだろ」
ロードはため息をついた。
「お前、熱あるぜ?」
「・・・ほんと?」
コクリとうなずくロード。レッドも小さい手をクリスの額に当て「ほんとだっ!」と叫んでいる。
ロードはクリスを抱き起こした。
「立てるか?って・・・やっぱ無理か・・」
ぼんやりとした目で見つめられ、ロードは苦笑した。そして、レッドを見る。
「ちょっと重いけど、クリスの剣、持てるか?」
「うん。いいけど・・どうするの?」
レッドの問いに、ロードは口の端を上げると、雨具を脱ぎ肩の荷物を下ろした。そして、クリスの腰の鞘をレッドに渡すと、
「よいしょっと」
掛け声と共にクリスを背負う。カツンと鎧の重なる音が雨の森に響いた。
「いいよ・・・ロード」
熱い息と共に耳元で囁かれ、ロードの全身は総毛立つが、何とか平静を保つと明るく言った。
「無理すんなって。次のところまで連れてってやるから。それまで、休んどけ。いいな?」
「・・・うん。じゃあ、そうする」
鎧越しでもクリスの体温が伝わりそうで、ロードは少し口元をほころばせた。
(まったく・・・無理しやがって・・・)
小さくかぶりを振り自分の荷物を手に取ると、心配そうに見上げているレッドと目が合った。ロードは彼の頭に手を置く。
「心配すんなって。お前は剣と荷物、しっかり守ってくれよ。頼んだぜ!」
ロードの言葉に少年は力強く頷いた。
昼近くになり雨は上がったものの、空にはまだ分厚い雲が広がっていた。
ロードたちは行き先を<オレット>から<アイリス>に変更していた。というのも、丸2日の野宿は今のクリスには耐えられないと判断したためであった。クリスの熱は下がるどころか、逆に容態は悪化している。<アイリス>ならば今夜にでも着ける距離にあるので、ロードたちはそこへ行くことに決めていたのだが・・・。
「うぜーんだよ!」
ロードは飛び交うキラー・ビーに剣を振り上げた。
「こっちは急いでるんだって!」
誰にともなく叫ぶと、ロードは剣を持ったまま身体を回転させた。そこに突っ込んでくるキラー・ビー。勝手に体を分断され、二匹はまだ乾いていない草地にぽとりと落ちる。
回転を止めたロードはすぐさま右手の盾を振り上げる。
がんっ
鈍い音。盾に当たり、足元でのたうつキラー・ビーにロードは止めを刺すと、空に向かって叫んだ。
「まとめて来やがれっ!」
レッドとクリスの二人は、ロードが戦っている場所から少し離れた茂みの中に隠れていた。さすがに、クリスを負ぶっての戦闘は、いくらロードといえども無理な話である。
キラー・ビーはロードの気持ちを知ってか知らずか、嫌な羽音をたてながら飛び交っている。
(こんなときに、<マホウ>が使えたらな・・・)
ちらりと魔法を使える彼を見ると、ぐったりとしてレッドに寄りかかっていた。
「くそっ!」
ロードをからかうように飛んでいたキラー・ビーだったが、彼を敵わないとでも悟ったのか、しばらくロードの頭上を旋回したあと、厚い雲の中へと姿を消した。
ほっと胸をなでおろし、ロードは剣を鞘に収める。
「そっちは無事か?」
「うん。おいらたちはダイジョーブだけど・・・」
言うと心配げにクリスを見る。前髪が額の汗で濡れていた。クリスは熱で潤んだ瞳でロードをぼんやりと見上げる。
「・・・俺なら・・・大丈夫だよ」
「・・・・んなわけ無ぇだろ」
ため息とも苦笑ともとれる口調でロードは答えると、再びクリスを背負った。
「少し急ぐけど・・・ついてこれるか?」
隣でクリスを見上げる少年にロードは問いかける。
「うん。おいらなら平気だよ」
「よし。よく言った」
ニッと口の端を上げると、レッドもニカッと笑みを広げる。
ロードとレッドの二人は、やや小走りで灰色の空の下を再び進み始めた。
クリスは楽してます(笑)
頑張れ!ロード!!
次回、<アイリス>に到着します。
※段々恋愛色が濃くなってきました・・
苦手な方、ごめんなさい・・・(泣)
後半はおそらく戦ってばっかりだと思うので、もうち ょっと(かなり)・・・・お待ちください。