不安 1
明け方からの雨で街は煙っていた。
昨夜、ロードが仰ぎ見た三日月は嘘のように、空は分厚い灰色の雲に覆われている。
<チューリ城>から次の目的地<オレット>までは、丸二日ほどの距離であった。<オレット>は城から南西に位置しており、商業都市として発展している。また、地酒<リトルロック>が有名で、これを目当てにはるばるやって来る酒好きも多い。
前を行くクリスとレッド。小雨のために、ロードたちはフード付きの雨具を着ていた。後ろからではクリスの表情は分からないが、今朝から様子がおかしいのは確かであった。
(やっぱ、俺にバレたと思ってんのかな?さっきだって・・・)
思い、朝食での会話を思い出す。
クリスに「次の目的地は<オレット>だ」と言われ、ロードがその理由を聞いたところ、「なんとなく」という答えが返って来た。ロードとレッドのツッコミにも、彼はどこか上の空で、うやむやにしたままだった。
(・・何にしたって、あいつの口から聞かなきゃいけねぇしな・・・)
森の入り口に差し掛かった。まだ<オレット>までは4分の1ほどしか進んでいないことになる。深い森のおかげで、さほど雨は感じずにすむが、逆に視界は悪くなる。
三人がフードを取ったその時、森がざわついた。
「クリスっ!」
「分かってる!」
スラリと腰の剣を抜き放つ。視線の先には木々の間からわらわらと出てくるリーフ・マンティス8匹。背の高さはクリスより低いが、両手には鎌のような鋭い爪を持っている。『リーフ』の名の通り、体全体がギザギザの緑の葉にそっくりだった。
シュン
動いたのは相手だった。1匹が右手の鎌を振り下ろす。それを剣で受けたクリスは、左手をその顔面にかざした。
「『火炎魔法』」
ごぉぉぉ
顔を灰と化し、崩れ行くその脇から新たな敵が現れる。両の鎌を持ち上げ、クリスに振り下ろそうとしたところを、ロードの剣が煌めく。両手を地に落とし、奇妙な声を発しているそれに止めの一発。ロードの剣はそれの腹を難なく貫いていた。
「『氷結魔法』」
レッドが木の上に逃げたのを確認し、クリスは魔法を放った。リーフ・マンティス2匹の足を地面に氷で固定する。
ギギ・・・
抵抗しようともがくそれに向かい、クリスは一気に間合いを詰め、
ざんっ
振り上げた鎌と共に、それの胴体を薙ぐ。返す刀でもう1匹。濡れた地面に青い血が広がっていった。
(・・・あと4匹・・・)
肩で息をし、クリスは額の汗を手の甲で拭った。暑くは無い。むしろ寒いのに汗が出る。
(・・おかしい・・。昨日の号外を見てから・・・?)
気力を振り絞り、クリスは迫りくるリーフ・マンティスに手をかざす。
「『氷結魔法』」
無数の氷のつぶてがそれに向かい降り注ぐ。氷の彫像となり、動かなくなったのを見届けると、クリスは熱い息を吐き額に手を当てた。
(やばい・・・かも・・・)
思った瞬間、目の前が暗転した。
ゾンッ
ロードはリーフ・マンティスの首を跳ね飛ばした。クリスが<魔法>を使っているのを確認する。氷のつぶてがその1匹に降り注いでいた。
「残りはお前らだけってよ!」
言うと、目の前の2匹に向かい駆ける。
ギンッ
鎌を受け流し、そのままのスピードで1匹の腹に切りつけると、足払いをかける。倒れたものを無視し、振り向きざまに一振り。鈍い感触が剣を通して伝わり、それが終わらぬ内に倒れているものに目を向ける。
「悪ぃな」
小さくつぶやき、ロードはそれの首に剣を突き立てた。
その時、何かがドサリと倒れる音がロードの耳に入ってきた。ゆっくりとロードは音のしたほうを振り返る。そして、気付いた。
リーフ・マンティスに交じり、クリスがそこに倒れていた。
クリスが倒れちゃいました!
ロードたちはどうするのでしょうか?
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