平和都市<チューリ城> 4
「いやぁ〜。べっぴんさんと飲む酒は最高だなぁ〜!」
「この串焼きも美味いし!言うことないなぁ〜!」
男の二人組みは嬉しそうに酒を飲み、大笑いをしている。
ロードは彼女のことが気が気ではなかったが、いざとなったらすぐに助けられるようにいつでも準備は出来ていた。
「そういや、知ってるか?夕方の号外」
「ああ!お姫様だろ?」
つまみを取っていたティナの手がぴくりと動くのを、ロード酒を飲みながら見ていた。
「なんか<キルズ国>は大変らしいな!国民が暴動を起こしてるって言うじゃないか!」
「それもあれだろ?実は王妃が決めた法律らしいんだろ?王様は何をやってるんだか・・・」
二人の男の会話に、ティナは背を向けた。ロードを伺うように見上げる。
「ん?どうした?ティナ」
「・・・もう、ここ出ない?」
「あんなにおいしいって言ってたのに?」
意地悪く笑うロードだったが、ティナの様子は明らかに先程とは違っていた。表情が曇っている。
「ティナ・・・?」
「何でもないのよ。ほんと」
言うと、ショールを巻き始めた。隣の男にも「ごめんなさいね」と謝る。
「おじいさん、お幾らかしら?」
「おいおい!俺が払うって」
慌てて金袋に手を伸ばすロード。
ティナも自分の金袋から金貨を取り出した。―と、ひらひらと紙切れが彼女の足元に舞い落ちる。
「うん?何か落としたぞ、ティナ」
ロードはそれを素早く拾い上げると、彼女に渡した。
「ほら、落しモン」
「あ・・・ありがと」
どこか気まずそうな彼女に、ロードは笑顔を向けた。
「ここは俺に出させてくれよ。シャツのお礼も兼ねてさ」
「え・・・ええ。いいけど・・」
頷くと、彼女は紙切れを金袋にしまいこんだ。ロードは店主に銅貨4枚を出す。
「ごちそうさん。おいしかったよ」
「へい、まいどあり」
礼を言い、立ち上がるロード。ティナはすでに席を立ち、屋台のそばでたたずんでいた。ロードが出てくるのを見て、顔を上げる。
「・・・今日はありがとう」
「何が?俺、何にもしてないぜ?」
「ううん。ほんとに楽しかった」
真っ直ぐな瞳に見つめられ、ロードは恥ずかしさで目を逸らした。そのままで口を開く。
「こんなんだったら、いつでもしてやるよ。つーか、これくらいしか俺には出来ねぇんだけどな」
言うと、ぽりぽりと頭を掻いた。
目の前のティナはフフフと笑うと、「それじゃあ・・」と身を翻す。
「もう行くわね。またね、ロード」
歩を進める彼女に「送ろうか?」と投げかけた言葉は、しかし彼女に拒否された。
「さよなら」
「・・・またな・・」
街の中心へと消えていく彼女の後姿を見ながら、ロードの心境は複雑だった。
(マジかよ・・・)
小さく息を吐き、自分も足を進める。
(・・・どうすりゃいいんだ?)
髪を掻き揚げ、緩くかぶりを振る。
(・・見なきゃ良かった・・かな)
ティナが落とした小さな紙切れ。それがロードを悩ます原因であった。
彼女が落としたもの、それは―――
「・・・金貨20枚の小切手」
思わずつぶやき、苦笑する。
偶然同じ金額のものを持っていただけかもしれない。ロードも、始めはそう思った。しかし、
(・・・マクドネル・・・か・・)
ロードたちが両替えをした店の名は『マクドネルの店』だった。当然、そこで小切手を作ればその店の名が印字される。ロードは自分が持っているよりクリスの方が安全と彼にそれを渡していたのだが、ティナのそれにも同じ名があった。
(・・偶然じゃあ、ないよな・・・やっぱり・・・)
深くため息をつき、ロードは上弦の月を振り仰いだ。
「なぁ。・・・俺はどうしたらいいんだ?」
月が答えてくれるはずもなく、ロードは宿屋<陽だまりの丘>へとゆっくりと歩いていった。
とうとうロードは気付いちゃいました!
でもほんとに鈍い人です・・・
さ、これからどうするのかな?
感想・コメントなどお待ちしてます。